第二章 乱流 6
空中庭園を思わせる総旗艦アルゴノート艦橋エリア中央・総合指揮所。
バルコニーのように突き出た吹き抜けとなったそこからは、下層にお洒落なオープンテラスのカフェを連想させる街並みさながらの光景が見晴らせる。一見カフェに見えるそれは、数万人からなるAIサポート各担当官が詰めていた。更にその向こうには、重戦艦アルゴノート・艦橋エリア内総合公園の緑が見て取れる。
総合指揮所がある艦橋エリア中央以外の同フロアは、多層的な建築物が並びそこはボルニア帝国の漸進基地としての機能が集積していて各統制系のオフィスがあった。ボルニア帝国総旗艦アルゴノート艦橋エリアは、移動する軍本部といって差し支えがない。女帝ヴァージニアが乗艦していれば、この重戦艦は移動する宮殿と化しこの場で帝国を動かす重要な決断がなされ実行された。
モリスの随員である零は、先の戦闘後すぐさま召集された作戦会議で兵団群長のモリスと相談できぬまま御前会議に同僚のエレノア、ブレイズ、ヘザー等と共に参加。サブリナとヴァレリーも、零の随員としてこの場にいた。
会議の主な声は、前哨戦、先制攻撃を受けた先の戦闘で敵を退けたことからの安心感から陣を敷きミラト王国・前皇帝派貴族軍と対峙する長期戦に傾いている。
歴史ある大国ボルニアらしく、悠長なと零は思う。
――それでは、遅い。
と。
機を逸することになる、と。
だらだら戦いを行うことなど、零にはあり得ないことだった。だからモリスの左隣に控える零は、越権行為と自覚しながらも声を励まし口を開く。
「敵の備えができていない今こそが好機。このまま雪崩れ込むべきです。まさか先制攻撃を受け被害を出した女帝軍が、陣容を整えずそのまま襲ってくるとは敵も思っていないでしょう」
「この場での発言権などない随員の部将だというのに、主将のモリスの頭越しにしゃしゃり出るか!」
厳めしく獰猛さが滲み出た顔を怒らせた、ジョルジュの一喝が忽ち飛んで来た。
答えたのは、零ではなくモリスだ。
「公、急な招集で事前に六合卿等有力な部将と打ち合わせる暇がなかったのです。本来ならば、わたくしが進言するところ。公の仰るとおり彼の発言は越権行為。それを承知で、敢えて六合卿は申しているのです。それに、六合卿の具申は尤もかと」
「女帝陛下の御前での発言をお許しください」
モリスの右隣に立つエレノアが口を開き、ジョルジュが毒づく。
「謀反人も調子づきおって」
「備えある敵に挑むは、こちらにもそれ相応の構えが要ります。女帝軍とミラト王国軍の戦力は、ほぼ同数。拮抗しています。簡単に破れるものではありません。わたくしも、六合卿に賛成です。敵の備えができていない今が、好機かと」
エレノアが口を閉じると、その右隣に立つヘザーが続く。
「わたくしにも、発言をお許しください」
「ふむ。確かアレクシア猊下の護衛をしていたヘザーでしたな」
淑やかに立つヘザーに視線を走らせ、ヴァージニアは傍らのルナ=マリーに振り向く。
「はい。とても頼りになる方です。彼女の意見は、貴重かと」
菫色の瞳に親しみを浮かべるルナ=マリーに、ヘザーは一礼する。
「口添えありがとうございます、アレクシア猊下。さて、今回のボルニア帝国の内乱。ミラト王国軍・前皇帝派貴族以外にも、まだ帝国は敵を抱えております。早めに決着を付けるにしくはありません。女帝軍に仕掛けてきた直後が、最も敵に緩みが出ましょう」
「ヘザーの申すとおり、女帝軍はこの星系以外にも、敵の大軍を抱えております。この好機を逃さず、速やかに決着を付けるべきかと」
ヘザーの跡を継ぎ零の左隣に立つブレイズが、新参組で自分だけ発言せぬのは立場がないというように声に気迫を乗せた。
その様子を好ましげに見、ヴァージニアは一つ頷く。
「ふむ。一理あるな。皆はどうか? 下位の部将ばかりに、意見を言わせてはおけまい」
ヴァージニアの言葉に、俄に場は活気づく。
「軽率な判断だ」
「この戦の重要性を考えれば、幾ら慎重になってもよい」
「気楽な新参者のいうことよ」
「この戦に対する責任感が足りぬ」
敵の先手を退けたばかりで皆備え直し敵の出方を見たいと思っていたらしく、慎重派は多かった。ひとえにそれはこの戦にボルニア帝国の命運がかかっているからでもあった。双方一億体以上のグラディアートを繰り出す、大決戦。負けましたは、許されない。思いつきの戦術を試すような真似は、これほどの大戦ではできない。
「しかし、今が攻めどきなのは確か」
「左様。どうせミラトとは一戦交えねばならぬのだ」
「義を見てせざるは勇無きなり」
「今攻めねば、敵は守りを固くするばかりだ。前皇帝派貴族共も動き出すやもしれぬ」
が、次第に攻勢波が多くなっていった。今敵を攻めることは、好機であることは確か。決戦を仕掛けるべしといった意見が、優勢となる。
頃合いをを見計らい、ヴァージニアが口を開く。
「意見は出尽くしたようだな。宜しい。では速やかにミラト王国軍に仕掛けるとしよう」
勇猛な女帝らしく守勢は性に合わないのか最初から腹は決まっていたらしく、言葉に迷いはなかった。




