67話
本気のアメリアが半透明な剣をセレナとレオニス、両方に投げる。
剣と剣がぶつかり合うたびに、空気は軋み、空間そのものが悲鳴を上げていた。
セレナはベール状の守りで、剣を防ぐ。
レオニスの魔剣が銀の軌跡を描き、アメリアへと迫る。だが、その刃が届く寸前、紫の半透明の剣が幾重にも重なり、壁のように立ちはだかる。
斬る。
砕く。
押し切る。
そのたびに、新たな剣が生まれる。
終わりがない。
無尽蔵に湧き出る刃が、攻撃を拒み、逆に圧し返してくる。
「……っ!」
レオニスが踏み込む。
重心を沈め、全身の力を一点に集める。
一閃。
魔剣ディスパテルが唸りを上げ、紫の剣群をまとめて薙ぎ払う。
砕け散る紫の光。
再度踏み込むと、その奥に、アメリアの姿はない。
「遅いわ」
耳元で、囁くような声。
反射的に振り返る。
瞬間、紫の閃光がレオニスの身体にまとわりついた。
咄嗟に剣を引き上げて、閃光を断ち切る。だが、完全には防ぎきれない。
レオニスの首元、細い一本の一線が内側からレオニスの肩口を裂いた。
血が、散る。
血の色は赤ではなかった。紫が混じる。
「……なにを、した」
痛みを押し殺した声。
アメリアは、くすりと笑った。
「もう入ってるわよ」
指先で、空をなぞる。
「少しずつ。少しずつね」
レオニスの身体が、わずかに揺れる。
腕に力が入らない。
呼吸が、重い。
胸の奥に、冷たい何かが広がっていく。
血管が、浮き上がる。
皮膚の下で、どす黒い紫が脈打つ。
まるで身体そのものが、侵食されていくように。
「レオニス様!」
セレナの声が飛ぶ。
同時に、光が走る。
浄化の魔力が、彼の身体を包み込む。
レオニスの浄化の光が当たると、浄化と瘴気がぶつかり合い、火花のように散る。
拮抗する。その均衡は脆い。
「無駄よ」
アメリアが、退屈そうに言い放つ。
「それ、もう馴染んでいるもの」
パキンッ! と、セレナの浄化が弾かれた。
レオニスが膝をつく。
床に、剣を刺し、剣を支えに、どうにか体勢を保つ。
だが、その刃も震えていた。
「……まだ、だ」
歯を食いしばる。
立とうとすると、足が言うことを聞かない。
筋肉が、命令を拒絶する。
「やめてください!」
セレナが前に出る。
レオニスを守るようにアメリアとの間に入った。
セレナの身体から浄化の光が溢れ出す。
そして手からは光弾を連続して、アメリアに放つ。
アメリアは紫の剣を増やし、セレナの光弾をすべてを切り裂く。
打ち消す。
押し返す。
全力で浄化の魔法を使っているのに、レオニスの容態は全然良くならない。セレナの魔力が削られていく。
「……っ」
息が乱れる。
肩が上下する。
それでも、光弾を手は止めない。
守る。
ただ、それだけのために。
限界は、近い。
光が、揺らぐ。
輪郭が、ぼやける。
魔力の流れが、途切れ始める。
「健気ねぇ」
アメリアが、くすくすと笑う。
「でも、それ、いつまで持つの?」
セレナは、答えない。
ただ、歯を食いしばる。
最後の力を、振り絞る。
アメリアが欠伸をすると、セレナの魔力がぷつり、と。
切れた。
光が、消える。
膝が、崩れる。
「やっぱりあなた達は白の魔女の足手まといだったわね」
セレナは声も出せない。
指先すら、動かない。
魔力は、空だ。
完全に、力尽きた。
レオニスもまた、限界だった。
剣を支えにしていた身体が、ゆっくりと傾く。
そして倒れる。
重い音が、床に響く。
二人。
並ぶように、地に伏す。
動かない。
呼吸だけしかできない。
その光景を。
アメリアは、見下ろして、唇が、歪む。
「あは……」
小さな笑い。
それはすぐに膨らみ、
「あははははははははッ!!」
高らかな嘲笑へと変わる。
謁見の間に、響き渡る。
空間を満たす瘴気が、それに呼応するように震えた。
「いいわぁ……これよ、これ!」
腕を広げる。
まるで舞台の上の役者のように。
「必死に抗って、抗って、それでも届かない人の末路!」
愉悦に歪んだ瞳が、二人を見下ろす。
「やっぱり人間って、最高ね」
その声は、底知れず冷たい。
「ねぇ、絶望すんだかしら?」
セレナの頬にアメリアは足を置いた。




