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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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65話



 喉を締め上げられるような圧迫感の中で、それは起きた。


「んッ!」


 クリスの喉から、押し潰されたような苦鳴が漏れる。


 視界は、塗り潰されたような闇。黒。黒。黒。だがその奥で、ひと筋の光が走った。


 紫。


 細く、鋭く、針のように研ぎ澄まされた閃光。


 それは光というにはあまりに禍々しく、存在そのものが殺意だった。


 瞬間。


 クリスの身体が反射的に避ける。


 同時に、レオニスがセレナの前へと滑り込むように出た。


 剣が閃く。


 硬質な衝突音が、空間を裂いた。


 紫の閃光は弾かれ、軌道を変え、背後へと叩き込まれる。


 轟音が鳴り響く。


 壁が、紙のように吹き飛んだ。


 砕けた石片が宙を舞い、遅れて天井が崩落する。


 ただの一撃。


 それだけで、この威力。


 空気が震える。


 呼吸すら、ままならない。


 だが。


 その暗闇の中で、セレナは両手を持ち上げた。


 胸の前へ。


 祈るように。


 指先から、淡い光が滲み出す。


 それは波紋のように広がり、柔らかく、しかし確かな力を持って空間を押し返していく。


 ふわり、と。


 円を描くように、視界が戻る。


 黒が剥がれ落ち、世界が色を取り戻す。


 数秒。


 それだけで、彼らは再び見ることを許された。


 その先に。


 玉座の前に立つ、アメリアの姿があった。


「……へぇ」


 唇が歪む。


 興味と侮蔑が入り混じった声。


「戦いから逃げた魔女でも、さすがは初代ってわけね」


 細められた瞳が、セレナを射抜く。


「蹂躙は……少し難しそう」


「私は、貴女だけなら蹂躙できそうよ」


 セレナの声は、殺意を孕む。


 レオニスとクリスが同時に駆けた。


 床を蹴る音が重なり、アメリアを左右から挟み込むような形で距離を詰める。


 剣が振り下ろされる。


 だが。


 キィンッ!


 耳を裂くような高音。


 その刃は、届かなかった。


 アメリアの前に現れたのは、紫に透ける半透明の剣。


 実体を持たぬはずのそれが、確かな質量を持って二人の剣を受け止めている。


 火花が散る。


 鍔迫り合い。


 剣を弾き飛ばし、アメリアの剣を向けると、そのたびに空中を舞う剣が増える。


 一本。


 また一本と。


 紫の剣が、空間から滲み出るように生まれていく。


 間合いを詰めれば、防がれる。


 攻撃はすべて、無意味に終わる。


 やがて。


 レオニスとクリスは、攻めることを諦めざるを得なくなった。


 弾く。


 防ぐ。


 ただ、それだけで精一杯。


「ほら」


 アメリアが、楽しげに囁く。


「言ったでしょ? 貴方たちは足手まとい」


 視線が冷たく滑る。


「ここに来た意味なんて、なかったのよ」


 言葉が、二人に突き刺さる。


 レオニスは、何も言わない。


 クリスもまた、口を開かない。


 ただ、奥歯を噛み締める。


 認めるわけにはいかない。


 だが、否定する言葉もない。


 そのとき。


「違うわ」


 空気を切り裂くセレナの声が、その考えを否定した。


「貴女は、何も分かっていない」


 まっすぐに、アメリアを見る。


「ここに私がいる。そして、レオニス様とクリス様がいる。それが『貴女を倒すことができる』すべてよ」


「……なにそれ」


 嘲笑するような笑い。


 セレナはただ、両手を掲げた。


 空へ。


 その瞬間。


 空間が、歪む。


 膨大な魔力が、渦を巻くように集束していく。


 重い。


 空気が白く光りながら、頭上に形成される。


 それは、結晶。


 氷柱のように鋭く、巨大な塊。


 しかし、それは氷ではない。


 浄化の光。


 穢れを拒絶し、存在そのものを否定する、純粋な力の結晶。


「……浄化の魔法」


 アメリアの声が、わずかに震えた。


「あら。知ってるのね。これで、終わりよ」


「……は? そんな大きいだけの魔法、当たるわけないじゃない」


 事実だった。セレナが出した魔法は巨大すぎる。


 魔族にとって回避など、容易い。


「私が一人だけなら絶対に貴女には当たらないでしょうね」


 セレナの声が、何故か弾む。


 同時に、手が振り下ろされる。


 浄化の光が、一直線に撃ち出された。


 空間を裂くほどに速く。


 だが、魔族には酷く遅い。


「……はは」


 アメリアが鼻で笑う。


 時間が、引き伸ばされるように感じられるようなスローモーションの世界。


 避ける。


 それだけでいい。


 アメリアがそう思った、その瞬間。


「それはどうかな」


 魔剣ディスパテルの銀閃が光る。


 アメリアに突っ込むレオニス。


 紫の半透明な剣が現れると、レオニスの体に触れたそばから消滅していく。


「なに!?」



 一閃。



 横なぎに振られた剣で、アメリアの胴が分かれた。


 身体が支えを失う。


 避けるための足は、もう存在しない。


 そして迫る、浄化の光。



 アメリアは、その遅い、遅い、浄化の光を抱きしめるように。


「あッ!!!」


 声にならない声で味わう。


 次の瞬間、それは絶叫へと変わる。


「ああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 光が、包み込む。


 魔族という存在を、根本から消し去るために。


 悲鳴が、空間を満たす。


 そして。


 それすらも、やがて消えた。


 絶叫が遠くなる。


 何も残らない。


 ただひとつ。


 ひらり、と。


 空から、羊皮紙が舞い落ちる。


 それは、すべての終わりを告げるかのように、床へと降りた。









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