表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/72

57話

◇◇◇◇



 王城の白壁が、朝の光を受けて静かに輝いていた。


 バリスハリス王国の象徴。


 帰るべき場所。


 その光景を、セレナはしばらくのあいだ見つめていた。


 やがて視線を落とす。


 石畳の先、城門の向こう。行き交う人影の中に、ヴァルディウス王国へ向かう荷馬車の姿を探す。


 だが見つからない。


「探しても無駄だ」


 セレナの背後から、レオニスの声が聞こえた。


「ヴァルディウス行きの馬車は、もう出ていない」


 振り返る。


「……レオニス様」


 そこに立っていたのは、王ではなく、一人の男の顔をしたレオニスだった。


 距離を詰めてくる。


「ひとりで行くつもりか」


 問いは短い。


「……魔族を、冥界へ送り返します」


 セレナは目を逸らさずに答えた。


「どうやって」


「……魔法で、です」


 わずかな間。


 レオニスの視線が、セレナの奥を覗き込むように細められる。


「その魔法は、ヴァルディウス王国に入れば使えるのか」


 踏み込む。


「それとも、魔族と対峙しなければならないのか」


「……」


 セレナは口を開けるが、声が出ないと口を閉じる。


 答えないことで、答えが露わになる。


「……後者だな。なら、セレナひとりでは無理だ」


 セレナの眉がわずかに寄る。


「どうしてですか」


「相手は王妃だ」


 視線が鋭くなる。


「王城に入る必要がある。そこまでの道中、何も起きないと思うか?」


 現実に不可能だとレオニスが言う。


「魔族が、何もせずに待っているとは思えん」


 セレナは、わずかに唇を噛む。


「……レオニス様は知らないでしょうけど。私、魔族とやりあえるくらいには強いんですよ」


 レオニスは、ふっと息を吐く。


「無理に強がらなくていい」


 一歩、近づく。


「俺も行く。それを伝えに来た」


「ダメです」


 食い気味な即答。


「どうしてだ」


「レオニス様は王です。弾除けにするわけにはいきません」


 その言葉に、レオニスはわずかに目を細める。


「弾除け、か」


 小さく笑う。


「セレナ。お前は、それほどの女だ」


 一歩、さらに詰める。


「俺が危険を冒してでも守りたいと思うほどにな」


 その言葉は、まっすぐだった。


「それに……」


 わずかに口元を歪める。


「簡単なんだろう? 魔族を送り返すのは」


 挑発にも似た響き。


 セレナの表情が、曇る。


「……できません」


 絞り出すような声だった。


 空気が変わる。


「一度、命を懸けた」


 レオニスは続ける。


「二度も三度も、変わらん」


「ダメです」


 セレナは首を横に振る。


「来ないでください」


 拒絶。


 だが、それは彼を遠ざけるためのものではなかった。


 巻き込まないための、必死の線引き。


「俺の持つ国宝、魔剣ディスパテルはな。絶大な脅威から国を守ったとされている」


 腰の剣に、軽く触れる。


「俺の剣が、魔族に届くかもしれん」


「……そんな伝承、聞いたことありません」


 即座に返す。


 だが、その声はわずかに揺れていた。


「セレナ」


 名前を呼ぶ。


「お前が生贄になる必要はない」


 その言葉に。


 セレナの動きが、止まった。


「……知ってたんですか」


 驚きに満ちた声。


「顔を見れば分かる」


 レオニスは言う。


「恐怖が張り付いている」


 隠しきれていなかった。


 最初から。


 ずっと。


 セレナは、ゆっくりと目を伏せる。


「……私は」


 言葉を探すように。


「魔族を冥界に送ることから、逃げたんです」


 小さく、しかしはっきりと。


「だから、生き残った」


 風が吹く。


 その音だけが、間を埋める。


「その償いで……人を救ってきました」


 瞳に涙を溜める。


「病も、怪我も、呪いも」


 すべて。


 その罪から目を逸らすために。


 レオニスは、何も言わずに聞いていた。


 そして。


「……それでも、俺は行く」


 短く告げる。


 揺るがない声音。


「ダメです」


「もう決めた」


 間は置かない。


 その言葉と同時に。


 レオニスの手が、セレナの腕を引いた。


 抵抗する間もなく。


 距離が、消える。


 そして、


 唇が、重なった。


 言葉では届かないものを、押し込めるように。


 一筋の涙が頬を伝った。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ