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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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55話

◇◇◇◇



 朝であるはずの空に、夜が咲いていた。


 雲ひとつない晴天の上に、深い藍が滲み、無数の星が瞬いている。太陽は昇っているはずなのに、その光はどこか遠くへ押しやられ、空の表層には、凍りついた夜がそのまま貼りついていた。


 光と闇が、互いに譲らぬまま重なり合う。


 あり得ないはずの景色が、確かな現実として世界を覆っていた。


 街はざわめく。


 人々は足を止め、見上げ、息を呑む。


 祈る者。怯える者。理由も分からぬまま涙を流す者。空に手を伸ばし、何かを確かめようとする者。


 そのすべての上に、同じ夜が広がっていた。


 これほどの規模。


 これほどの精度。


 自然現象であるはずがない。


 世界そのものを覆う、ひとつの魔法。


 そう結論づけるほかなかった。


 バリスハリス王国も例外ではない。


 王城の奥、執務室には朝から張り詰めた空気が満ちていた。重い扉は閉ざされ、窓の外に広がる異様な空だけが、室内に不穏を持ってきていた。


 机の上には、積み上げられた魔導書。


 古びた革装丁がいくつも開かれ、紙の匂いとインクの乾いた香りが混ざり合っている。


 ダルフィードはページをめくり続けていた。指先は早く、だが焦りを隠しきれていない。


 クリスは腕を組み、思考の海に沈んでいる。だが、その瞳は何も掴めていないことを自覚していた。


 そして。


 レオニスは窓際に立ち、空を見上げていた。この異常を、どう捉えるべきかを量りかねている。


「あれは……何の魔法だ」


「魔法であることは間違いない」


 ダルフィードが答える。だが、その言葉には確信よりも、消去法のような響きがあった。


「そんなことは分かっている」


 レオニスは短く切り捨てる。


 求めているのは、正体だ。


 だが。


 魔導書のページをいくらめくっても、それに該当する記述は見つからない。


 世界規模の魔法。


 それも、空そのものを書き換える魔法など、誰も見たことがない。


 そのとき。


 扉が、静かに開いた。


 空気がわずかに動く。


 入ってきたのは、セレナだった。


 彼女は一歩、部屋へと足を踏み入れ、窓の外を見る。


 その瞳に、わずかな確信が宿る。


「……あの空の魔法は、危険なものではありません」


 静かな声だった。


 だが、その一言で、室内の空気が変わる。


 ダルフィードが顔を上げる。


「さすが魔女だな。最初から聞けばよかった」


 皮肉めいた口調。


 セレナは気にも留めず、言葉を続ける。


「人の魔法の効力を引き上げる魔法です」


 窓の外へと視線を向ける。


 星々が、まるで呼応するように微かに瞬いた。


「星篝の魔女、リースペイトが使っていた魔法」


 その名が落ちた瞬間、空気がわずかに軋んだ。


 クリスが眉をひそめる。


「戦争は終わったんですよ」


 現実をなぞるように言う。


「しかも、『人』と言いましたね。敵味方の区別もない。全体にかかる魔法だ。意味がない」


 理屈としては正しい。


 だからこそ、理解できない。


 だが。


 セレナは、静かに首を横に振った。


「いいえ」


 その声音は、どこか遠いものを見ている。


「千年前まで、朝は、あの空でした」


「……何だと?」


 ダルフィードが反応する。


 ページをめくる手が止まる。


「千年前だと……?」


 セレナは頷く。


 その表情には、懐かしさと、わずかな哀しみが混じっていた。


「はい」


 そして、告げる。


「魔族が……蘇りました」


 その一言には不穏な影があった。


 クリスが顔を上げる。


「魔族……?」


 言葉の意味を測りかねるように、繰り返す。


「魔族って、なんだ?」


 問いは率直だった。


 だが、その無知は、この世界にとって致命的な隔たりでもあった。


 セレナは、ゆっくりと視線を落とす。


 白い指先が、わずかに震えた。


 そして。


 答える。


「私たち魔女が、かつて、冥界へ送った存在です」


 白の魔女の口から、怒りにも似た冷たい言葉が吐かれた。


 その声音には、明確な嫌悪が滲んでいた。








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