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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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50話

◇◇◇◇



 バリスハリスは戦争に勝った。


 勝敗はすでに決し、戦場には剣戟の音も怒号も残っていない。ただ、土と血と煙の匂いだけが、まだ大地の上に重く漂っていた。


 だが白の魔女セレナは、怪我人の治療を許されていなかった。


 戦争が終わった今も、レオニスの隣に立ち。レオニスの失われた腕を治したい衝動に駆られていた。


 レオニスは、セレナを戦争の道具にするつもりはなかった。

 そのために呼んだわけではないし、魔法を使わせるつもりもなかった。


 だが。


 結果として、レオニスの優しさは、もっと残酷な形で絶望を産んだ。


 セレナは、敗戦国ヴァルディウスの兵たちを見渡す。


 どの兵も、彼女の姿を目にした瞬間、視線を落とした。


 顔をそむける者もいるし、目を合わせられず、唇を噛む者もいる。


 皆、セレナを知っていた。


 呪い。怪我。病。


 幼い頃から、何度も何度も、数え切れないほど、そのセレナの魔法に救われてきた。


 ヴァルディウス王国にとって、白の魔女は特別な存在ではなかった。


 体調が悪ければ、白の魔女のもとへ行く。


 それは井戸で水を汲むのと同じくらい、日常の中にある習慣だった。


 兵たちもまた、子供の頃から彼女に世話になっている。


 そしてセレナも、彼ら一人一人の名前を知っていた。


 誰がどこの村の出身で、誰が家族を大事にしていて、誰が怪我ばかりしていたか。


 それを覚えている。


 けれど。


 そのヴァルディウスの兵たちは、白の魔女を殺すための戦争をした。


 白の魔女の血を奪うために。



 今、地面に横たわる兵の一人が、かすかに動いた。


 胸を裂かれ、血を流し、命の灯火が今にも消えそうな男だった。


 彼の目が、ぼんやりとセレナを捉える。


 そして、ゆっくりと、手を伸ばした。


 助けを求めるように。


 いつものように。


 白の魔女に手を伸ばせば、きっと助けてくれる。


 そんな当たり前のような仕草だった。


 セレナは、その手を見て、すぐに視線を逸らす。



 その瞬間。


 周囲にいたヴァルディウスの兵たちが、凍りついた。


 白の魔女は、どんな相手でも助ける。


 それが当たり前だった。


 呪われた者もでも、罪を犯した者でも、白の魔女を煙たがる者でさえも。


 それでも、彼女は手を差し伸べる。


 それが白の魔女だった。


 なのに。


 今、初めて。


 彼女は助けなかった。


 その光景を見て、兵たちはようやく理解する。


 自分たちが、何をしたのか。


 白の魔女なら、何があっても助けてくれる。


 殺しに来ておいてなお、そう信じてしまうほどの甘えが、ヴァルディウス王国にはあった。


 それがどれほど残酷な期待だったのかを。


 今、ようやく思い知った。







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