表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/72

47話

◇◇◇◇



 ヴァルディウス王国の魔術師団が放つ魔法など、もはや戦場の空気の揺らぎに過ぎなかった。


 炎が裂け、雷が走り、氷が槍のように降り注ぐ。


 だが、そのすべてを意にも介さず、二人の英雄は前へ出る。


 レオニスと、バルタザール。


 ひとりは王。ひとりは教皇。


 その歩みは揺るがない。


 レオニスの剣が閃く。


 片腕を失ったとは思えぬほど流麗で、研ぎ澄まされた剣筋だった。魔剣は空気を裂き、軌跡に白い残光を引く。迫る魔法は刃に触れた瞬間、まるで紙のように断ち切られていく。


 一方で、バルタザールはまるで嵐だった。


 巨体が踏み込み、拳が振るわれる。


 拳。


 ただそれだけ。


 だがその一撃一撃が、まるで大槌で大地を叩きつけるような威力を持っていた。


 轟音。


 空気が震え、衝撃が戦場を揺らす。


 グリオラは二人の攻勢に押され、一歩後退する。するとヴァルディウス側の兵もゆっくりと確実に後退した。


 レオニスの剣。


 バルタザールの拳。


 二つの猛威が、交互に、容赦なく叩き込まれる。


 グリオラは防戦一方だった。


 だが勝ちが確定した戦争で負ける訳にはいかない。戦斧を振るうたび、火花が散り、衝撃が空を震わせる。


 グリオラに余裕は無くなっていた。


 巨斧を振り上げる。


「ッラァァ!!」


 狙いはバルタザール。


 呪いを宿す戦斧が、天から落ちる雷のように振り下ろされた。


 その瞬間だった。


 バルタザールの体が、煌々と光を放つ。


 まばゆい白金の輝き。


 聖堂の奥深くに灯る神秘のような光だった。


 斧がその光に触れる。


 衝突。


 だが次の瞬間、斧は弾き返された。


 キィィィィンッッッ!!!


 金属が悲鳴を上げる。


 巨大な戦斧が、あり得ない角度で跳ね上がった。


 グリオラの目が見開かれる。


 呪いの斧だ。


 触れた肉体を侵し、骨を砕き、命を押し潰す。


 それが。


 まるで意味を持たないかのように、バルタザールはかすり傷も付いていない。


「……なんだ!」


 グリオラは再び斧を振るう。


 叩きつける。


 振り抜く。


 だが結果は同じだった。


 光が弾き返す。


 何度やっても変わらない。


「なんだその力は!!」


 驚愕と苛立ちが声に滲む。


 その時だった。


 レオニスが、二人の間へ滑り込む。


 空から降る魔法がバルタザールへ集中する。


 火球。


 雷槍。


 氷柱。


 だがレオニスの剣が舞う。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 魔法が次々と断ち落とされ、空中で砕け散る。


 刹那の時、雨を斬り払うようだった。


「お前に教えると思っているのか?」


 レオニスが添える。


 グリオラは眉間に皺を寄せた。


「お前は知っているのか!」


 その問いに答える者は、別にいた。


 バルタザールだった。


 レオニスと入れ替わるように前へ出る。


 巨体が一歩踏み出す。


 拳を振りかぶる。


 空気が軋んだ。


 そして、ゆっくりと言い放つ。


「盗人の国の王とは……こんなものか」


「なッ!?」


 その瞬間。


 拳が振り抜かれた。


 轟音。


 衝撃。


 まるで大砲が至近距離で炸裂したかのような一撃だった。


 拳はグリオラの顔面を捉える。


 骨が軋む音が響く。


 グリオラの巨体が宙を舞った。


 吹き飛ばされる。


 兵の隊列を突き破る。


 ヴァルディウス、エルピアータの兵たちが巻き込まれ、弾き飛ばされていく。


 土煙が上がる。


 その勢いは止まらない。


 グリオラの身体はさらに後方へ叩き飛ばされ。


 ついには、ヴァルディウス王が座している高台へ激突した。


 簡素に組まれていた高台は、轟音とともに崩れ落ちた。


 静寂。


 戦場の空気が、一瞬止まる。


 そして。


 バルタザールが静かに言った。


「戦争は我らの勝ちだ」


 その言葉に、レオニスが肩を揺らして笑う。


「良いところを持っていくな」


「我がこの戦争にトドメを刺したのは事実だ」


「まあいい」


 バルタザールを見て、苦笑する。


「俺は腕も取られた。お前にも良いところを取られた。というのに今、実に気分がいい」


 レオニスは短く息を吐く。


「血を出しすぎたな」


「ああ、まったくだ」


 二人の言葉は軽い。

 だが、その背後には、幾千の刃と魔法が交差した戦場の重みがあった。


 止まっていた戦場の空気が、ゆっくりと動き始める。


 兵たちはまだ動けない。

 誰もが、今起きた出来事を理解しきれていなかった。


 グリオラは崩れた高台の瓦礫の中。

 勝敗は、すでに誰の目にも明らかだった。


 レオニスは剣を肩に担ぐ。


 バルタザールは拳を軽く鳴らした。


 二人は並ぶ。


 そして。


 止まってしまった戦場に、勝敗を確定させる為の一歩を踏み出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ