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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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46話

◇◇◇◇



 拮抗していた戦線が、わずかに揺らいだ。


 レオニスは、あの呪い斧に触れさせぬよう、戦闘の最初から神経を研ぎ澄ませていた。魔剣で刃を受け流し、間合いを崩し、斧の軌道を逸らす。だがヴァルディウス王国の魔術師団が放つ無数の魔法が、その動きを確実に削っていた。


 空気が裂ける。


 火が弾ける。


 氷が地を穿つ。


 その嵐のような魔法の合間を縫いながら、レオニスは戦い続けていた。


 そして、ついにグリオラの戦斧の刃が、レオニスの左腕へ触れる。


 ほんの掠り、それだけの接触。


 だが、それで十分だった。


「チッ!」


 鈍い音が響く。


 次の瞬間には、左腕が内側から押し潰された。


 肉と骨が砕け、形を失い、腕は無残に歪む。


 レオニスは、迷わなかった。


 右手の剣を振り上げる。


 刃が、肩口を一息に走る。


 斬ッ!


 断ち落とされた腕が宙に舞う。


 血が噴き上がる。赤い飛沫が大地へ降り注ぎ、鉄の匂いが濃く漂った。


 だが、地に落ちた腕は、そのままでは終わらない。


 崩れた肉が、縮み始める。


 骨も肉も、血も。


 すべてが内側へ吸い込まれるように凝縮されていく。


 一瞬で、手のひらに乗るほどの赤い玉となった。


 レオニスの肩から大量に血が流れ続けている。


 肩口から溢れ、鎧の隙間を伝い、地面へ滴る。


 それでも。


 レオニスの瞳は、少しも揺らいでいなかった。


 硬く強い、強い意思を宿している。


 その様子を見て、グリオラの目が見開かれた。


「そんなに早く腕を落とせるものか?」


 驚愕が声に混じる。


 レオニスは血を振り払うようにして剣を構え直した。


「使えぬ腕などいらん」


 短い答え。


「そうかよ」


 グリオラは歯を剥いた。


 そして、間髪入れず踏み込む。


 血を失い、足元が揺らいでいるレオニスへ、怒涛の攻め。


 空気を引き裂き、暴風のように戦斧が振り回される。


 その一振り一振りが、致命の一撃。


 レオニスは片腕で魔剣を操り、必死に受け流す。


 火花が散る。


 衝撃が腕を痺れさせる。


 そして空から、氷の槍が降った。


 鋭く細い氷柱が、矢のように一直線に落下する。


 回避は、間に合わない。


 氷槍がレオニスの太ももへ深々と突き刺さった。


 肉を貫き、骨に届く。


 その衝撃で、身体が止まる。


 ほんの、一瞬。


 だが戦場では、それが致命的だった。


 グリオラの目が、獲物を捕らえた猛獣のように輝く。


「いっちょあがりィィィイイイ!!!」


 咆哮。


 巨体が跳ぶ。


 空を裂くように戦斧が振り上げられる。


 そして、レオニスの頭上から振り下ろされた。



 刹那。


 戦斧が、あり得ない角度で真上へ弾き飛ばされる。


 巨斧が空を舞う。


 グリオラの目が見開かれた。


「……なにッ!?」


 そこに立っていたのは、一人の男だった。


 拳を高く掲げたまま、斧を打ち上げている。


「またせたな」


 低く響く声。


 教皇バルタザールだった。


 レオニスは、息を吐きながら言う。


「遅い」


「バリスハリスの王妃に挨拶してきたからな」


「それなら、もう少しゆっくりしててもよかったぞ」


 バルタザールが、ガハハと腹の底から豪快な笑い声。


 その横で、レオニスもくくく、とくぐもった笑いを見せた。


 戦場の中央で、戦場には似合わない光景だった。



 グリオラの瞳に、怒りが滲む。


「……エリシュニカ聖教国は、この戦争に手出ししないと聞いていたが?」


 バルタザールは肩をすくめた。


「盟友のピンチを助ける」


 そして、ゆっくりと言い放つ。


「これに国は関係あるのか?」


「なに!?」


 怒声。


 バルタザールは鼻で笑った。


「小さい」


 そして一歩踏み出す。


 拳を鳴らす。


「あぁ、小さな王よ」


 重く響く声が、戦場に落ちた。


「胸を貸してやろう」


 拳を構える。


「覚悟してかかってこい」


「バルタザール」


 グリオラの頬が、ぴくりと痙攣した。









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