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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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44話

◇◇◇◇



 最初に押していたのは、レオニスだった。


 巨体の王、グリオラが振るう戦斧は、大木をへし折るほどの重量を孕んでいる。

 その刃が唸りを上げて振り下ろされるたび、空気そのものが裂けた。


 だが。


 レオニスの剣筋は、揺らがない。


 魔剣ディスパテルが閃く。


 銀の軌跡が走った瞬間、グリオラの皮膚が裂け、赤い線が巨躯に刻まれる。

 斬撃の余波に兵たちが思わず身を引き、戦場の円がわずかに広がった。


 次の瞬間、巨大な戦斧が振り下ろされる。


 レオニスは半歩だけ身体をずらした。


 紙一重。


 刃が地面を叩き割るよりも早く、踏み込む。


 そして斬る。


 銀線。


 風を裂く鋭い音。


 その一閃ごとに、グリオラの巨体がわずかに押し戻されていく。


 周囲の兵たちは息を呑んでいた。


 戦場の中心。


 二人の王が、ぶつかり合っている。


 しかし。


 その均衡は、長く続かなかった。


 後方。


 ヴァルディウス軍の高台に立つ男、ユークリッドが、ゆっくりと腕を上げる。


「魔術師団」


 怒りを含んだ声。


「照準を変えろ!」


 詠唱を続けていた魔術師たちが、ユークリッドの視線の先を見据える。


 ただ一人の男へ。


 レオニス・バリスハリス。


「奴だけを撃て!」


 命令は、短かった。


 次の瞬間。


 空に展開していた無数の魔法陣が、ゆっくりと回転する。


 術式の向きが変わる。


 光の軸が収束する。


 狙いは一点。


 レオニス。


 落ちた。


 轟音とともに、白い稲妻が戦場を裂いた。


 雷撃が地面を焼き裂き、閃光が兵たちの視界を白く塗りつぶす。


 続いて、炎の波が地を舐め、爆ぜる熱風が砂と血を巻き上げた。


 さらに。


 空が暗くなる。


 無数の氷槍が、雨のように降り注いだ。


 すべてがレオニスを狙っている。


 爆炎と氷片が乱れ飛び、土煙が戦場を覆う。



 レオニスはそれを難なく凌いで、煙の中で、銀が閃いた。


 雷を斬り裂くように刃を走らせ、氷槍を弾き飛ばし、爆炎の隙間を縫って前へ踏み込む。


 しかし。


 次の瞬間、巨大な影が覆いかぶさった。


 グリオラの戦斧。


 山をも断つような一撃が振り下ろされる。


 レオニスはそれを受け流す。


 だが、空からは魔法が降り続ける。


 雷。


 炎。


 氷。


 休む間もなく襲いかかる魔法の嵐。


 前には巨斧。


 怒涛の攻めだった。


 やがて。


 レオニスの肩に、赤い線が走る。


 氷槍がかすめた。


 次の瞬間、腕に裂傷が生まれる。


 鎧が砕け、血が滲んだ。


 小さな傷が、ひとつ。


 またひとつ。


 増えていく。


 それでも、レオニスは剣を振るう。


 しかし、足がわずかに後ろへ下がる。


 巨斧の圧。


 空から降り注ぐ魔法。


 二つの嵐が、レオニスを押し潰そうとしていた。














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