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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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43話

◇◇◇◇



 両軍が、ぶつかった。


 乾いた平原を震わせ、数千の兵が一斉に走り出す。盾がぶつかり、槍が空気を裂き、怒号と金属音が一つに混じり合った。


 最初に衝突したのは、先に駆け出していたバリスハリス王国軍だった。


 勢いのまま、盾列を押しつける。


 鋼と鋼がぶつかり、ヴァルディウス王国の最前列が軋んだ。


 数では圧倒的に劣るはずの軍勢。


 だが、その突進は重かった。


 まるで、大地そのものが押し寄せてくるかのようだった。


 ヴァルディウス軍の兵たちが異変に気づいたのは、ほんの一瞬遅れてからだった。


 押されている。


 こちらが。


 倍以上の兵をようするはずの自分たちが、前線で押し返されている。


 理解が追いついた頃には、すでに遅かった。


 最前列の兵たちが、次々と倒れていく。


 盾が砕け、槍が折れ、血が土を濡らす。


 その瞬間。


「魔術師団、詠唱開始!」


 後方から怒号が飛んだ。


 ヴァルディウス王国が誇る魔術師団が、一斉に詠唱を始める。


 幾重にも重なった魔法陣が空中に浮かび上がり、戦場の空を埋め尽くした。


 光が重なり、回転し、巨大な術式へと変わっていく。


 次の瞬間。


 雷光が、落ちた。


 空を裂く稲妻が幾筋も平原へ叩きつけられ、兵ごと大地を焼き裂く。


 続いて。


 無数の氷槍が降り注いだ。


 鋭く研ぎ澄まされた氷の刃が雨のように落ち、突進していたバリスハリス兵を次々と貫いていく。


 爆ぜる土。砕ける鎧。吹き上がる血。


 前線は瞬く間に地獄へ変わった。


 それでも。


 バリスハリスの兵は、止まらなかった。


 倒れた仲間の亡骸を踏み越え、さらに前へ進む。


 槍を握り、盾を構え、ただ前へ。


 彼らの視線の先には、一人の男がいた。


 レオニス・バリスハリス。


 バリスハリス王国の王。


 最前線に立つその背が、兵たちを導いていた。


 王がいる限り。


 この軍は、折れない。


 レオニスは戦場を駆けていた。


 一騎当千。


 その言葉が誇張ではないと証明するかのように、手に握る剣は、バリスハリス王家に伝わる魔剣ディスパテル。


 銀線が閃く。


 ひと薙ぎ。


 それだけで、ヴァルディウス兵が十人ほどまとめて斬り伏せられた。


 盾ごと裂かれ、鎧ごと断ち割られ、兵が血煙とともに崩れ落ちる。


 周囲では、両軍の魔術師団が激しく魔法を撃ち合っていた。


 雷が空を裂き、炎が地を焼き、氷が槍となって降り注ぐ。


 戦場は光と爆音に包まれ、もはや昼なのか夜なのかも分からない。


 それでも、バリスハリスの兵は、一人として立ち止まらない。


 ただ王の背を追って、突き進んでいく。


 戦の流れが、わずかに傾き始めた。


 バリスハリス優勢。


 その兆しが見えた瞬間。




 空から、影が落ちた。


 巨大な戦斧。


 大男の胴ほどもある刃が、凄まじい勢いでレオニスの頭上へ振り下ろされる。


「なんだッ!」


 殺気に気づいたレオニスは、咄嗟に身をひるがえした。


 次の瞬間。


 轟音。


 地面が爆ぜた。


 レオニスが乗っていた馬は、押し潰されたように砕け散り、大地には巨大なクレーターがうがたれる。


 土煙が舞い上がり、戦場の空気が一瞬止まった。


 それまで押し込んでいたバリスハリス軍の勢いも、そこでようやく止まる。


 土煙の中から、一人の男が姿を現した。


 巨体。


 片手で巨大な戦斧を持ち上げると、それを軽々と肩に担ぐ。


「初めましてだな」


 低い声が響いた。


「レオニス・バリスハリス」


 レオニスはゆっくり立ち上がる。


 視線を鋭く向けた。


「誰だ、お前」


「俺か?」


 男は愉快そうに笑った。


「俺はグリオラだ」


 その名を聞き、レオニスの目が細くなる。


「……お前が、エルピアータの王か」


 グリオラの手にある戦斧から、黒い気配が静かに滲み出ていた。


 禍々しい圧。


 まるで武器そのものが生きているかのようだった。


「その斧……呪いの武器か?」


「ご名答」


 グリオラは肩を揺らして笑う。


「これで斬った者はな」


 戦斧の刃を軽く振る。


「圧縮されて潰れる」


 にやりと笑った。


「その整った顔が、情けなく潰れる瞬間を見せてくれんか」


 周囲ではなお、魔法が飛び交っている。


 雷鳴が轟き、炎が爆ぜ、槍と盾がぶつかり合う。


 だが。


 戦場の中心。


 レオニスとグリオラ。


 二人の王の周囲だけが、不自然なほどに空いていた。


 兵たちは本能で理解していた。


 ここは王たちの戦場だと。









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