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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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42話

◇◇◇◇



 平原の風は、乾いていた。


 草を刈り払った大地の上を、冷たい風が滑っていく。

 数万の兵が立つその場所には、もう自然の匂いは残っていない。鉄と汗、革と土。戦の匂いだけが漂っていた。


 ヴァルディウス王国軍の最後列。


 兵の列のさらに奥。

 戦場全体を見渡すために築かれた簡素な高台があった。粗く組まれた木組みの足場だが、そこに立てば平原の端まで視界が届く。


 その上に、二人の王がいた。


 ヴァルディウス王国の王、ユークリッド。

 そしてエルピアータ帝国の皇帝、グリオラ。


 二人はまるで戦場を眺める観客のように、悠然と腰を下ろしていた。


 背後では二つの旗が風を受けて鳴っている。


 青地の王旗。

 その中央には剣が掲げられ、その背後に盾の紋章が描かれていた。


 その隣に翻るのは、黒の帝国旗。

 同じく剣が掲げられているが、その裏には巨大な蝶の紋章が広がっている。


 似ているようで、決定的に異なる旗。


 だが今は、その二つが並んで風に揺れていた。


 ユークリッドとグリオラは、ただ前方の戦列を眺めていた。


 その視線の先。


 平原の向こう側。


 バリスハリス王国軍。


 数は明らかに少ない。


 旗の数も、槍の列も、こちらの半分ほどしかない。

 整然とはしているが、戦場を埋め尽くすほどではない。


 普通に考えれば。


 勝敗など、すでに決まっている。


 それでも。


「……レオニス」


 ユークリッドが、低く呟いた。


 視線の先。敵軍の最前列。


 一頭の馬が兵の前に出ていた。


 その上に乗る男。


 黒い外套を風にひるがえし、静かに軍を見渡している。


 レオニス。


 バリスハリス王国の王。


 ユークリッドの喉が、わずかに乾いた。


 グリオラもその存在に気づいたらしい。


「ほぅ」


 興味深そうな声が漏れる。


「アイツが竜殺しの英雄レオニスか」


 言葉には軽さがあったが、視線は鋭かった。


 普通なら。


 数で劣る軍はざわめく。


 恐怖が広がり、兵たちは互いの顔を見合わせる。槍を持つ手は震え、盾の列はどこか歪む。


 だが。


 あの軍は違った。


 遠くからでもわかる。


 兵の列が、揺れていない。


 むしろ熱を帯びている。


 まるで。


 すでに勝利を確信している軍かのように。


 レオニスはまだ剣を抜いていない。


 それでも。


 兵たちは、ただ王を見ていた。


 ただ見ているだけだ。


 だが、その視線には迷いもない。


「……ふざけた話だ」


 ユークリッドは小さく笑った。


 数はこちらが上。


 兵力も、武器も、戦歴も。


 すべて上だ。


 それでも。


 遠くの王が、ゆっくりと剣を抜いた瞬間。


 平原の空気が、わずかに震えた。


 それは錯覚かもしれない。


 だが、確かに。


 ヴァルディウス軍の列が、ほんのわずかに揺れた。


 恐怖ではない。


 熱だった。


 敵兵の熱が、こちらへ流れ込んできたのだ。


 こちらの兵が全員理解する。


 敵の王は、自分たちの王とは違う。


 ユークリッドは舌打ちして、弱音を飲み込んだ。


 隣で、グリオラが笑っていた。


「どうした、ヴァルディウス王」


 挑発的な声だった。


「顔色が悪いぞ」


 ユークリッドは視線を外さない。


「……笑わせる」


「何がだ?」


「数はこちらが倍だ」


 それでも。


 平原の向こうの軍は、少しも小さく見えない。


 むしろ。


 さっきよりも、大きく見えた。


 ユークリッドはゆっくりと息を吐いた。


「それなのに」


 そのとき。


 レオニスが剣を掲げた。


 遠くの軍勢が、波のようにうねる。


 兵の雄叫びが集まり、平原のあらゆる音をかき消した。



「なるほど」


 愉快そうな声がグリオラの口から出た。


「面白い王だ」


 ユークリッドは答えない。


 ただ遠くの男を見ていた。


「あの王がいる限り、この戦は数の戦いにはならない」


「そんなことは分かっている」


 ユークリッドの苛立ちをよそに、グリオラは立ち上がった。


 巨体が高台の上でゆっくりと伸び上がる。


 次の瞬間。


 大男の胴ほどもある巨大な戦斧を、片手で軽々と持ち上げた。


 刃が鈍く光る。


 それを肩に担ぎながら、グリオラは笑った。


「まぁ待っていろ」


 その声には、恐れがなかった。


「俺が、殺してくる」


 レオニスという脅威は。


 グリオラにとっては、その程度の言葉で片づく存在だった。









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