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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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42/72

41話

◇◇◇◇



 バリスハリス王国。ヴァルディウス王国。

 そして、どちらにも肩入れしないと宣言したエリシュニカ聖教国。


 三国の国境が交わる広大な平原がある。


 本来ならば、誰のものでもない土地だった。だが今は違う。


 そこは、戦争をするための場所になっていた。


 乾いた草原を切り開き、踏み固め、兵が並ぶための空間を整えた。


 戦争はエルピアータの差し金で国技となり、見世物になった。


 平原の遠くには、木造の観客席が組み上げられていた。

 聖教国の貴族や他国の使節たちが、戦場を見下ろしている。


 旗が揺れ、ざわめきが風に乗る。


 他国にとっては娯楽。だがここに立つ兵にとっては、生死が掛かっている。


 平原の一方には、バリスハリス王国軍。


 整列する数千の兵。


 もう一方。


 ヴァルディウス王国軍。エルピアータ帝国軍の兵もいる。


 その数は、バリスハリスの明らかに倍以上。


 旗の数も、槍の列も、果てしなく続いている。


 平原は隠れる場所もない。

 森も丘もない。


 奇襲も伏兵も使えない。


 ただ、正面からぶつかるだけの戦場。


 つまり兵の数が、そのまま勝敗を決める。


 馬上からそれを見渡し、レオニスは呆れたように息を吐いた。


「勝ち目がないとは、こういうことを言うのか」


 隣に控えるダルフィードが、静かに答える。


「はい。勝ち目などありません」


 迷いのない声だった。


「しかし」


 眼鏡の奥の瞳が細くなる。


「王の『勝つ』という言葉を、現実にするために我々はいます」


 レオニスは小さく笑った。


「そうだったな」


 風が吹いた。


 平原を渡る風は強く、無数の旗を鳴らす。


 槍の穂先が鈍く光り、鎧が微かに軋む。


 レオニスは馬を進めた。


 兵の前へ。


 剣はまだ抜かない。


 ただ、戦列を見渡す。


 緊張した顔。唇を噛む兵。拳を握りしめる若い騎士。


 そのすべてを見たあとで、王は口を開いた。


「顔を上げろ」


 声は大きくない。


 だが、戦列の端まで届いた。


 ざわめきが止まる。


「敵の数を見るな」


 兵たちの視線が、ゆっくりと王へ集まる。


「お前たちは今、ヴァルディウス王国と戦う」


 レオニスは遠くの軍勢を見た。


 青い旗が無数に並び、まるで海のように広がっている。


「ヴァルディウスは強い」


 静かな声。


「兵は多く、国は広い。そして奴らは、俺たちよりも戦争を知っている」


 わずかな沈黙。


「だがな」


 レオニスの声が低くなる。


「だからといって、奴らが俺たちより強いわけじゃない」


 風が吹き抜ける。


 王の外套が揺れた。


「この戦は」


 レオニスはゆっくりと言う。


「国のための戦ではない」


 兵たちが息を飲む。


「たった一人だ」


 声がはっきりと響く。


「この国の、たった一人を助けるための戦だ」


 ざわめきが広がる。


「負ければ、全部取られる。国も、誇りも」


 レオニスは笑った。


「そして俺は、愚王として語り継がれるだろう」


 兵を見渡す。


「だからこそ言う」


 その瞬間。


 剣が抜かれた。


 鋼が空気を裂く。


「この戦いは」


 剣先がヴァルディウスを指す。


「勝つ」


 断言だった。


 レオニスは馬を一歩進める。


「見てみろ。最前列にいるのは兵だ。ヴァルディウス王国。エルピアータ帝国。王が二人もいるくせに、最前列に立っているのは兵ばかり」


 声が低く響く。


「国を背負う覚悟のない王に、俺たちが負ける道理がない」


 兵たちの目が変わる。


「守るものがある者は折れない。守る場所がある者は逃げない。大切な人を悲しませたくない者は、最後まで立て」


 剣が空を切る。風が鳴る。


「そして俺は」


 レオニスは兵を見渡す。


「そんなお前たちの王だ」


 沈黙が落ちた。


 戦場が静まり返る。


 次の言葉は、静かだった。


「安心しろ」


 兵を見つめる。


「前を向けば、王がいる」


 剣を掲げる。


「俺を目掛けて走れ! それが叶う限り、お前たちに敗北はない!」


 声が戦場を震わせる。


 そして。


「進め!!!」


 王の声が、兵の胸を貫いた。


 兵の雄叫びが集まり、平原のあらゆる音をかき消した。










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