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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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39話

◇◇◇◇



 夜の馬車が静かに街道を進んでいた。


 馬車は豪華なものではない。屋根もない吹きさらしの荷台に、セレナはひとり座っている。


 御者の姿は分かりにくくされていた。分厚い服を重ね、口元まで布で覆い、さらに大きな麦わら帽子を深く被っている。顔の輪郭すら影に沈んでいた。


 荷台にはセレナのほか、新鮮な野菜と高級な干し肉が積まれている。

 どこにでもある商人の荷馬車。夜道を走るには、むしろ目立たない。


 だがセレナは知っていた。


 この馬車が向かう先は、ヴァルディウス王国。


 そこに帰れば、自分は死ぬ。


 久しぶりに見上げた夜空は、どこまでも広かった。

 群青の闇の中で、色とりどりの星が瞬いている。


 まるで、遠くから自分を迎え入れるように。


 セレナは小さく息を吐いた。


「私も、もう少しであなたたちの仲間入りね」


 星に向けて呟いた、その瞬間だった。


「いや、それは俺が許さない」


 聞き覚えのある声だった。


 セレナが勢いよく振り返る。


 御者席に座っていたのは。


「……陛下?」


 馬車がゆっくりと止まる。御者は布を外し、麦わら帽子を取った。


 現れたのは、間違いなくバリスハリス王国の王、レオニスだった。


「なんで陛下がここに!」


「セレナと馬車のデートにでも行こうと準備していたんだが」


 レオニスは肩をすくめ、少し笑う。


「こんなに早く実現するとは思わなかった。ダルフィードも行動が早い」


「……でも、なんで」


「最初からだ」


 レオニスは当然のように言った。


「セレナがバリスハリスに来た最初から、網は張っていた。ダルフィードのことだ。いつか動くと思っていた」


 静かな声だったが、確信に満ちている。


「セレナをヴァルディウス王国に帰すとな」


 セレナは首を横に振る。


「ダルフィード様は悪くないのです。帰る私に協力してくれただけで」


「いい」


 レオニスは静かに遮った。


「全部分かっている。臣下にそこまで心配させるのは、俺の落ち度だ。セレナにもな」


 その言葉に、胸が締めつけられる。


「陛下は勝てると言いました。でも……でも……」


 声が震える。


「私のせいで誰かが死ぬのは嫌なんです!!!」


 叫びが夜の街道に響いた。


 そのとき、レオニスが御者席から立ち上がった。そして荷台に向かって手を差し出す。


「セレナ」


 強く、迷いのない声だった。


「お前は俺の隣で俺を支えてくれ」


 夜風が二人の間を通り抜ける。


「それだけで誰も欠けることなく、完全勝利をしてみせよう!」


 星が流れた。


 その瞬きよりも、レオニスの真剣な瞳のほうが強く輝いていた。


「お前にはそれだけの力がある!」


 セレナは首を振る。


「……ヴァルディウス王国に対して、完全勝利なんて無理です」


「ああ、無理だ」


 レオニスはあっさりと頷いた。


「セレナが隣にいてくれなければな」


「隣にいたぐらいじゃ結果は変わりません!」


「俺を誰だと思っている」


 レオニスの目が鋭く光る。


「バリスハリス王国の王、レオニス・バリスハリスだ。口にしたことは曲げん」


「レオニス様……」


「手を取ってくれ、セレナ」


 セレナは迷った。


 それでも……。


 その手を、掴んだ。


 次の瞬間、強い力で引き寄せられる。


「きゃっ!」


 身体がふわりと浮き、レオニスの腕の中に落ちた。


 抱きしめられる。


 思ったよりも近い距離。息が触れ合うほど近い。


「死ぬ時は」


 低い声が耳元で響く。


「俺の腕の中だ」


 セレナは息を詰まらせる。


「陛下は完全勝利と約束されました」


「それは嘘だ」


 レオニスは迷わず言った。


「口にしたことは曲げないとも仰いました」


「そんな夢物語を戦の前の日は必ず考える。だか叶ったことはない。今回は兵のほとんどが死ぬ。俺も生きているかどうか分からん」


 その言葉はあまりにも現実だった。


「でもな」


 レオニスの腕に、少しだけ力がこもる。


「むざむざセレナを死なせる訳にはいかない」


 セレナは顔を上げた。


「なんで私なんですか? 禁忌の魔女で、みんなから嫌われる白の魔女なんですよ」


 震える声で問いかける。


「私以外のみんなから愛される女性なんて、沢山います」


 答えは言葉ではなかった。


 レオニスの唇が、そっとセレナの唇に触れる。


「んッ……///」


 一瞬のキス。


 けれど確かに熱が残る。


 レオニスは少しだけ笑った。


「言葉は無粋だ。俺がセレナを横に置きたい理由が分かったか?」


 セレナは頬を真っ赤に染めながら答える。


「分からないです」


「じゃあ」


 レオニスの顔が、もう一度近づく。


「分かるまで」


「えっ!? んッ……///」


 再び、唇が塞がれた。


 夜空の星だけが、二人を見下ろしていた。







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