表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/72

38話

◇◇◇◇



 城の廊下は明るく照らされていた。窓の外はすでに真っ暗だ。


 磨き上げられた床に、セレナの足音が静かに響く。


「待て」


 低く、抑えた声。


 振り返ると、細身の男が立っていた。


 切れ長の目に、知性を宿した光。整った顔立ちに銀縁の眼鏡がよく似合う。隙のない装いをしている。


 男は、眼鏡のブリッジをくいっと押し上げた。


「お前がセレナか」


「はい。貴方はどちら様で?」


「大臣のダルフィードだ」


 名乗りに迷いはない。


「お偉い方だったんですね」


「見え透いた敬語などいらん」


 冷ややかな視線が突き刺さる。


「陛下に取り入って、何を考えている。この国をヴァルディウス王国のように、内部から腐らせる気か?」


「……なんのことかわかりません」


 セレナは静かに返す。


「私はお前が気に食わん」


 ダルフィードの声は低いが、激情は抑え込まれている。


「陛下は、お前のために国まで賭けようとしている」


 その言葉に、セレナの指先がわずかに強張った。


「……はい」


「わかるだろう。つい最近まで人を救うことを使命としていた白の魔女なら、何が間違っているかぐらい」


「わかります」


 迷いなく、答える。


 ダルフィードの眉が、ほんのわずかに動いた。


「私では、もう陛下を止められない。お前から正しい道へ導いてくれないか」


「私にどうしろと?」


「ヴァルディウス王国へ自ら帰れ」


 圧のある声が、セレナに突き刺さる。


「陛下には隠すことになるが、馬車はこちらで用意する。欲しいものは何でも揃えよう」


「欲しいものは、死んだら持っていけないわ」


「いらないならそれでいい。これは私なりの善意だ」


 ダルフィードは淡々と言う。


「踏み付けてもらっても構わん。どうせ私は、お前に残酷なことをしようとしているのだから」


 セレナは小さく息を吐いた。


「いいえ。国と私なら、比べるまでもないわ。陛下がおかしいのよ」


「……まったくだ」


 即座に同意する。


「陛下は勝てると仰ってくれた」


 セレナはまっすぐダルフィードを見る。


「大臣のダルフィード様から見て、バリスハリスはヴァルディウス王国に勝てるの?」


 鋭い問い。


 ダルフィードは一瞬だけ視線を逸らし、そして言った。


「陛下が仰ったなら、勝つ。どんな手を尽くしてもな」


「どんな手を尽くさないと勝てない相手、ということね」


 沈黙。


「私も、この国の人たちに傷付いてほしくないのは、貴方と同じ」


 セレナは微笑む。


「馬車はいつ? 今から?」


「今からでも出せる」


「そう。私が従順でよかったわね。手荒なことをしなくて済む」


 その瞬間。


 ダルフィードの手が、ゆっくりと腰の後ろから出てくる。


 そこに握られていたのは、白いハンカチと小さな薬瓶。


 透明な液体が、わずかに揺れている。


「……なぜわかった」


「魔女は鼻がいいの」


 セレナは一歩、近づく。


「魔女を眠らせたいなら、効力を弱めてもいいから無臭の薬を使わないと」


 ダルフィードは眼鏡を押し上げた。


「それは今後に生かそう」


「今後がないといいわね」


 静かな、からかい。


 廊下の外では、平和な城の時間が流れている。


 だがその中心で、国の未来を左右する選択が、静かに揺れていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ