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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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35話

◇◇◇◇



 ヴァルディウス王国とエルピアータ帝国の会食の席。


 金で縁取られた長卓の上に、山のような肉料理と果実酒が並ぶ。


 その中心で、エルピアータ帝国王グリオラは、ナイフも使わずに肉を鷲掴みにしていた。


 べちゃり、と脂が卓に落ちる。


 拭う者はいない。


 グリオラは構わず豪快にかぶりつき、骨を床に投げ捨てる。


「ガハッ……やはり他国の料理は味が薄いな」


 口の端から肉汁を垂らしながら笑う。


 その後ろ。


 控えているのはメイドでも騎士でもない。


 ぼろ布を纏わされ、手錠と首輪を嵌められた四人の女。


 姿勢だけは崩れていない。


 立ち振る舞いでわかる。敗れた国の令嬢だ。


 だが目に誇りはない。誰もが疲れきった目をしていた。


 その光景を前にしても、ユークリッドは視線を逸らさなかった。


 いや、逸らしたまま食事を続けていた。


 王妃もまた、何も言わない。


「乗ってきたか、バリスハリスは」


 骨を噛み砕きながら、グリオラが問う。


「はい」


 ユークリッドは淡々と答える。


「言ったろ。国を持つ男はな、自分の守る者を物扱いされたら引き下がれない。白の魔女を万能薬とした意味があったな」


 にやりと笑う。


「それにしてもヴァルディウスしかり、バリスハリスしかり……なんでそんなに白の魔女が欲しい? そんなに良い女なのか?」


 下卑た視線が宙をなぞる。


 ユークリッドはワインを揺らした。


「貴方が言うように白の魔女は良い女ですよ。でも私は血が欲しいだけです」


 静かな声。


「血を抜けば、あとは貴方の好きにしていいです」


「そりゃいい」


 グリオラは大口を開けて笑う。


「魔力を抑える腕輪でもはめて、後ろのコイツらの隣に立たせるか。魔女の血で作る万能薬の出来も試してぇ」


 ガハハハ、と下品な笑いが響く。


「しかもさすがヴァルディウス王国様々だ。バリスハリスに協力する国はない。バリスハリスも一国で俺たちとやり合う気らしい」


 肉を噛みちぎりながら続ける。


「だがな、お前らも同じだ。俺たち以外に手を貸す国はなかった。お前らの同盟国も薄情な奴らばっかだな」


「あぁ」


 短い返事。


「淡白な返事だな。まぁいい」


 酒を煽る。


「こっちは品の良い女と、食料と、宝石さえ貰えりゃ十分だ。なんでも協力してやるよ兄弟」


「貴方と兄弟になった覚えはありません」


「そうかよ」


 グリオラは歯に挟まった肉を指でほじり出し、床に弾いた。


「そういえばな。この前貰った女の一人が、この城の元メイドでな。妙なことを言っていた。少し鳴かしたら吐くわ吐くわ」


 ユークリッドの手が止まる。


「死んだ王妃の話だ」


 沈黙。


「もし本当ならよ、『強く清く正しく』を掲げるヴァルディウス王国様が、人の道を外れたことをやってるってわけだ」


「……何が言いたい」


 空気が、鋭く張り詰める。


 背後の令嬢たちも、息を潜めた。


 グリオラは口角を上げる。


「なぁ兄弟。仲良くしようぜ」


 肉汁に濡れた指を広げる。


「俺たちは同じ穴のムジナだ。エルピアータ帝国と同じステージまで堕ちたんだよ。そうだろ? お前の一時の過ちのせいでな」


 ユークリッドの瞳が冷える。


「だから他の国は協力しねぇ。匂いでわかるんだよ。腐った国の匂いがな」


「……だからこそ」


 低く、押し殺した声。


「白の魔女の血が必要なのだ」


 視線が鋭くなる。


「私たちは、まだ立ち直れる」


「そうかよ。この滑稽さは笑うしかないな」


 グリオラは肩をすくめて、プッと吹き出し、ガハハと笑う声が、金の天井に反響した。


 豪奢な会食の裏で、二つの国の腐臭が静かに混ざり合っていた。








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