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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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34話

◇◇◇◇



 城下町を見渡せる場所。


 石造りの城門の上は、風がよく通る。


 セレナが大好きな場所のひとつだった。


 青く広がる空。遠くまで連なる屋根の彩り。行き交う人々のざわめき。パンの焼ける匂い、子どもの笑い声、商人の呼び声。


 生きている国の音が、ここにはある。


 風にクリームベージュ色の髪をなびかせながら、セレナはそれらを眺めていた。


「セレナ様、陛下がお越しになりました」


 クリスがそう言うと、セレナは背後に振り返る。


「なんだか、元気がないように見えます」


 レオニスは隣に立つ。


「そうか? いつもどおりだ」


 城下を見下ろしながら、短く答える。


「だが……そうだな。バルタザールの陽気に当てられたのかもしれん」


 わずかに苦笑する。


「初めてお会いしましたけど、陽気な方でしたもんね」


 セレナがくすりと笑う。


 その横顔。


 その穏やかな表情ひとつで、国の命運が揺れる。


 皮肉な話だ。


 バリスハリスの戦況は、絶望的だった。


 同盟国は次々と白紙撤回を選んだ。ヴァルディウス王国と正面からぶつかるとなれば、誰もが及び腰になる。


 それだけでも不利だ。


 そこにエルピアータ帝国まで加われば。


 勝算は、限りなく薄い。


「セレナ」


「はい?」


 彼女は素直にレオニスに振り向く。


 疑いも、警戒もない瞳。


「少し……お前に触れてもいいか」


「ん? はい、いいですよ」


 何の躊躇もなく、頷く。


 次の瞬間。


 レオニスはセレナを強く抱き寄せた。


「え、え、え!?」


 驚きの声が城壁に反響する。


 腕の力が、想像以上に強い。


「へ、陛下……っ、く、苦しいです」


「……もう少し、このままで」


 頼りのない声。


 声は震えてはいない。


 だが、抱く腕だけがわずかに震えていた。レオニスは必死だった。


 壊れかけた信念を、抱き締めることで繋ぎ止めるように。


 セレナは、気づいた。


 これは独占欲ではない。


 恐怖だ。


 国を守れないかもしれないという恐怖。


 自分を守れないかもしれないという焦り。


「……私を、手放してください」


 静かに言う。


「ならん」


 信念の言葉。


「私が死ねば、戦争はなかったことになります。それくらいは私でもわかるんですよ」


 セレナの言うことは事実としてある。


 レオニスの腕が、さらに強くなる。


「俺を誰だと思っている。バリスハリスの王だ。俺が負ける未来なぞ、まだ決まっておらん」


 耳元で低く響く。


「そしてお前が生きる未来くらい、俺が作ってやる」


「でも……」


「黙れ」


 強く言い切る。


 力強く、そして温かい。


 守ると決めたものを、絶対に離さないという意志。


 セレナは、抵抗をやめた。


 城下町の喧騒が遠くにある。


 空はどこまでも青い。


 風が二人を包む。


 絶望の足音が近づいているとしても。


 この瞬間だけは、確かに温もりがあった。









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