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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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33/72

32話

◇◇◇◇



 バリスハリス王国に来てから、早くも一ヶ月。


 その間、レオニスはほぼ毎日セレナと過ごしていた。


 城下の貸切レストラン。


 王と白の魔女のために用意された豪奢な個室。磨き上げられた銀食器、宝石のように盛り付けられた料理。


 セレナが一口、料理を口に運ぶ。


 ぱっと表情がほころぶ。


「……美味しい」


 その仕草に、レオニスは完全に見惚れていた。


 竜すら屠った男が、ただ一人の女の笑顔に沈黙している。


「陛下、私に毎日構ってて……お仕事は大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ」


 レオニスは言い切った。その横から、冷水のような声が差し込む。


「大丈夫なわけありません」


 クリスだった。


「書類は積み上がり、決裁待ちは増え続けております。事実として、仕事は溜まる一方です」


「お前は俺の味方だろ」


「はい。ですが、事実は事実です」


「ふん」


 レオニスはワインを口に含む。


 セレナが困った顔をする。


「ちゃんとお仕事してくださいよ」


「している。毎日、その日の分は終わらせている」


「じゃあクリスさんは何を怒っているんですか」


「最近ゴタゴタしていて、仕事の量が毎夜増えているだけだ」


「それはダメでは?」


 思わず身を乗り出すセレナ。


 レオニスは涼しい顔だ。


「問題ない。これも重要なことだ」


「だったら早く仕事を終えて、ちゃんと寝ないと疲れが取れませんよ」


「セレナと話していないと、最近どうにもやる気が起きんのも事実だ」


「なんでですか!?」


「知らん」


 本気で分からない顔をする王。


 クリスが静かに額を押さえた。


「ですが、本日の遊びはここまでです」


「まだ数分だ」


「一時間経っております」


「……早いな」


「同盟国エリシュニカ聖教国との会食があります。王が不在では示しがつきません」


「めんどくさい」


 その瞬間。


「めんどくさいとは、何事だ」


 低く、重い声。


 いつの間にか席に着いていた男。


 聖教国の教皇バルタザール。


 司祭服の下に隠しきれない体躯。袖から覗く手は岩のように分厚い。


 まるで聖職者の皮を被った戦士だ。


「その風体で影が薄いとはどういうことだ」


 レオニスが軽く顎を動かす。


「クリス」


 クリスはすでに帯刀した剣の柄に手をかけていたが、レオニスに制され、手を離す。


「これで何度目だ。あまりクリスをからかうな。お前の胴が二つになっても知らんぞ」


「そう言うな。ここの王が我らを待たせるからこうなる。毎度な。レオニス、お前もそう思わんか?」


「ふん」


 鼻で笑う。


 バルタザールの視線が、ふとセレナに向く。


「……で、この美しい淑女はどなたかな」


「お前も知っている有名人だ」


「我が知る淑女に、これほど美しい方はいないが」


 真顔で言う。


 嘘も誇張もない声音。


 セレナは一瞬固まり、みるみる顔を赤くした。


「そ、そんな……」


 視線を下げる。


 レオニスの眉がぴくりと動く。


「白の魔女だ」


 静かに告げる。


 一瞬、空気が変わる。


「……何だと」


 バルタザールの目が見開かれる。


 戦場を幾度も潜った男の顔が、初めて明確な驚きを浮かべた。


「噂の……白の魔女か」


 レオニスはワインを揺らす。


「俺の城にいる」


 わずかな独占の響き。


 バルタザールはゆっくりと頷いた。


「なるほど……ヴァルディウスが動く理由も理解できる」


 その言葉に、空気が再び重くなる。


 レオニスの目が細くなる。


「手は出させん」


「ほう?」


「誰にもだ」


 穏やかな食卓の裏に、確かな戦火の気配が漂っていた。


 だが当のセレナは、まだ料理を見つめている。


「これ、冷めちゃいますよ?」


 場違いな一言。


 沈黙。


 そして、バルタザールが豪快に笑った。


「ははははは! なるほど、確かに白の魔女だ」


 レオニスはため息をつきながら、どこか満足そうだった。











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