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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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28話

◇◇◇◇



 バリスハリス王国、王城。


 重厚な扉の向こう、レオニス王の執務室には、いつもより多くの人影が集まっていた。


 壁際には近衛騎士。長机の周囲には大臣と魔術師たち。中央の机には、ノクスグラート周辺の地図が広げられている。


 その中でひときわ目を引く男がいた。


 銀縁の眼鏡を掛け、整った顔立ちに理知的な光を宿した青年。大臣のダルフィード。


 長い指先で書類を整え、静かに状況を見極める姿は、戦場よりも書斎が似合うようでいて、どこか底知れない冷静さを纏っている。端正な横顔と無駄のない所作は、宮廷の令嬢たちの噂にも上るほどだ。


 レオニスは椅子に深く腰を下ろし、指先で机を叩いた。


「報告をまとめろ」


 魔術師の一人が進み出る。


「今回の魔物襲撃ですが、自然発生ではありません。魔力の残滓を調べた結果、強制的に群れを形成させられた痕跡がありました」


「孤高種が群れるなど、通常ではあり得ません」


 近衛騎士が付け加える。


 壁際に立つフェンも頷いた。


「私も違和感がありました。あの森の魔物は縄張り意識が強い。あんな統制はしない」


 ダルフィードの視線が地図へ落ちる。


「仕掛けたのはやはり、陛下の仰られていた通り、星篝(ほしかがり)の魔女」


 室内がざわつく。静かに眼鏡の位置を直した。


「しかし、あの魔女が単独で動くとは考えにくい」


 落ち着いた声。感情を排した理論の響き。


「背後にいるのは」


「ユークリッド・ヴァルディウスだろう」


 レオニスは即答した。空気が一気に重くなる。


「ヴァルディウス王国の王、ユークリッド。その王の狙いは何なのか。この場の誰もが知っている」


 ダルフィードはゆっくりと顔を上げた。


「白の魔女」


 沈黙。


 レオニスが続ける。


「ヴァルディウス王国と戦争が起きるかもしれない。準備を進めろ」


 その一言に、張り詰める空気。


「お待ちください、陛下」


 ダルフィードは一歩前へ出る。眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。


「ヴァルディウス王国との戦争は、被害が尋常ではないと予測できます。兵力差、資源量、魔術師の総数。どれを取っても楽観視できない」


 理路整然と、感情なく積み上げる。


「その戦争は何故起こるのですか? 狙いは明白です。バリスハリスから白の魔女を取り戻すこと」


 室内の視線が一斉に集まる。


 ダルフィードは静かに言い切った。


「白の魔女をヴァルディウスへ引き渡せば戦争は無くなります。それで済む話なのです」


 近衛騎士たちの空気が凍る。


「なぜ、しなくてもいい戦争を、一人の女のために?」


 冷酷ではない。ただ合理。


 その横顔は美しく、だが言葉は刃だった。


 レオニスはゆっくりと彼を見た。


「ならん」


 重い一言で断じる。


「それは絶対だ」


 一歩、前へ。


「ダルフィード。白の魔女は俺の嫁になる器だ」


 執務室の空気が固まる。


 フェンの目が見開かれ、魔術師が息を呑む。


 ダルフィードの眼鏡の奥の瞳が、わずかに揺れた。


「俺の命はこの王国だ」


 レオニスは胸に手を当てる。


「だから俺は、好きな女のために命を掛けると言っておるのだ」


 静寂。


 だがレオニスは続けた。


「一度でも俺の女を守り切れないとなれば、この国の誇りは地に落ちる」


 声が鋭くなる。


 ダルフィードは黙って聞いている。


 やがて、ゆっくりと息を吐いた。


 眼鏡のブリッジを押し上げる仕草は、いつもの冷静さを取り戻す合図。


「……なるほど」


 膝を折る。


「失礼いたしました。合理だけでは測れぬ価値もある、ということですね」


 その声音には、わずかな敬意が混じっていた。


「戦争準備、即座に整えます」


 理知的な大臣は、王の覚悟を理解した。


 レオニスは静かに頷く。


「ヴァルディウスが動くなら、こちらも応じる」


 窓の外、旗が風を受けてひるがえる。


 戦の気配が、確実に近づいていた。










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