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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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27話


 王都へ向かう馬車の中は、妙に静かだった。


 車輪が石畳を踏むたびに、規則正しい振動が揺れを生む。そのたび、向かいに座るレオニスの肩がわずかに強張る。


 長時間だ。本当に長時間、セレナと向かい合ったまま。


 それがどれほどの拷問か、彼以外に理解できる者はいない。


 セレナは小首を傾げた。


「……陛下?」


「……なんだ」


 短い返事。だが声に張りがない。


「お顔が優れません。酔ったのですか?」


「気にしなくていい」


 セレナは身を乗り出す。


「顔色が悪いです。お水をお持ちしましょうか? それとも休まれますか? あ、窓を少し開けましょうか?」


 近い距離にレオニスはこめかみを押さえた。


「……本当に、気にするな」


 やや強めの声。


 セレナはきょとんと瞬いた。


「はい……?」


 その反応に、今度はレオニスが僅かに視線を逸らす。


 ガタッと馬車が揺れると、セレナがバランスを崩す。


「危ないぞ」


「申し訳ありません!」


 レオニスが抱き止めたセレナは顔を真っ赤にして、すぐに離れる。


「気を……つけろ」


 彼の理性は、ここ数時間ずっと戦場にある。


 セレナの無防備な微笑み。褒め言葉の連続。純粋な瞳。


 そして無自覚。それが一番たちが悪い。



 そのとき、馬車が止まった。


 外から声がかかる。


「陛下。着きました」


 レオニスの側近の騎士クリスだった。


「そうか」


 レオニスは内心で安堵したように話す。


「早速ですが、急ぎの用が」


「……なんだ」


「例の魔物討伐について」


 討伐。確かに急ぎの案件ではある。


「……わかった」


 レオニスは立ち上がる。


「自由にしていろ」


「はい」


 素直な返事。彼はその声だけで胸が熱くなり、馬車を降りる寸前、一瞬だけ振り返る。


 セレナと目が合う。


 柔らかい微笑み。


 レオニスは堪らずに無言で外へ出た。



 入れ替わるように、一人の騎士が馬車へ乗り込む。


「クリスです。本日、護衛を仰せつかりました」


 端正な顔立ちの青年騎士。


 だがその視線は冷えている。


「よろしくお願いいたします、クリス様」


 セレナはにこりと笑う。


 その無邪気さに、クリスの眉がわずかに動いた。


「……陛下と随分親しいようですね」


「え?」


「先ほどまで、随分と楽しげでした」


 棘がある、明らかに。


 セレナは首を傾げる。


「そうでしょうか? 陛下はお優しい方です。少しお疲れのようでしたので心配で」


「セレナ様、陛下がお疲れのようすは私も分かりました……ですが、その、優しいとは?」


 クリスの声が低くなる。


「陛下は、甘い方ではありません」


「ええ、存じております。厳しくて、冷静で、とても芯が強いお方です。でも」


 セレナは微笑む。


「本当は、誰よりもお優しい」


 クリスの拳がわずかに握られた。


「……セレナ様、貴女は陛下の何を知っているのです」


 空気が変わる。


 しかしセレナは気づかない。


「全部は存じません。でも、わかることはあります」


 迷いなく言う。


「陛下は、ご自分より他人を優先なさる方です。だからこそ、無理をされる」


 クリスの目が揺れる。


「だから私は……」


 セレナは柔らかく、しかしはっきりと続けた。


「陛下のお力になりたいのです」


 その言葉に。


 クリスは、何も言えなくなった。










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