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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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25話

◇◇◇◇



 レオニスがノクスグラートを発つと聞いたとき、フェンは正直ほっとしていた。


 王が去れば、城壁の空気も少しは軽くなる。

 それに何より、セレナがいる。


 白の魔女セレナ。


 彼女に命を救われたのは、一度や二度ではない。

 呪いに侵された仲間を助け、傷だらけの兵を治し、文句ひとつ言わず夜通し働いた。


 ノクスグラートの衛兵で、彼女を嫌う者などまずいない。


 フェンも、その一人だった。


 いや、それ以上だった。


 だからこそ、聞いた瞬間、胸が冷えた。


「……は?」


 帰還の日、ノクスグラートに広まった報せ。


 セレナも共に、バリスハリス王城へ向かう。


 レオニスの客人として。


 胸の奥が、ざわつく。


 王の客人。

 それはつまり、王の手の届く場所に行くということだ。


 面白くない。


 まったく、面白くない。



 出立前の式典。


 広場には兵と民が集まり、魔物討伐の功労者が一人ずつ名を呼ばれる。


「フェン」


 名を呼ばれ、前に出る。


 片膝をつき、頭を垂れる。


「見事だった。望む褒美を言え」


 簡易的な玉座の前で立つレオニスは、王の顔をしていた。


 堂々とした声。揺るがぬ威圧。


 フェンは一瞬、視線を横へ向ける。


 少し離れた場所で、セレナが困ったように拍手していた。


 自分のことのように、嬉しそうに。


 その笑顔が、胸を締めつける。


「……陛下」


「言え」


 フェンは顔を上げた。


「俺も王城へ連れて行ってください」


 ざわざわ、と空気が揺れる。


 レオニスの目が細くなる。


「理由は」


「俺はまだ、セレナに恩返しをしていません」


 真っ直ぐな声だった。


 飾らない。取り繕わない。


 だが、その視線は一瞬だけセレナへ向く。


 柔らかく。


 守るように。


 レオニスは、それを見逃さなかった。


「セレナか」


 空気が変わる。


 王の瞳が、わずかに冷える。


「……そうか」


 鋭い声。


 だが口元は、わずかに笑っていた。


「受けて立とう」


 静かに、挑むように。


 フェンの背筋がぞくりとする。


 二人の視線がぶつかる。


 火花が散る。


 王と兵。


 間に流れるのは、無言の宣戦布告。


『俺の女に触れるな』


 言葉にしなくても、伝わる圧。


 フェンも引かない。


 守りたいと思った。救われた恩以上に、隣に立ちたいと願ってしまったから。


 広場の空気がぴりりと張り詰める。


 その中心で。


「……?」


 セレナだけが、小首を傾げていた。


「フェンも来てくれるの? それは心強い」


 にこり、と笑う。


 何も知らない。


 何も気づかない。


 その無垢さが、さらに火に油を注ぐ。


 レオニスはゆっくりと椅子に座った。


「良いだろう」


 フェンは頭を下げる。


「はっ」


 視線だけは逸らさない。


 式典は再び進み始めた。


 だがその日、ノクスグラートを出る隊列には、見えない火種がひとつ増えた。


 そしてセレナだけが、最後まで気づかなかった。


 自分を巡って、男たちが本気で張り合っていることに。









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