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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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23話

◇◇◇◇



 ヴァルディウス王国は、静かに傾き始めていた。


 だが、その中心に座す国王ユークリッドだけが、その揺らぎに気づいていない。


「うるさい、今考えている!」


 謁見の間に怒号が叩きつけられる。報告はどれも同じだ。


 原因不明の病。広がる呪い。止まらぬ死者。


 兵が倒れ、農夫が倒れ、子どもが倒れる。労働力は落ち、民は飢え、街には不穏な咳が満ちていた。


 それでも王は理解できない。


 なぜ急に、国が崩れ始めたのか。


「王様」


 静かな声が、怒号を切り裂いた。


「おお、帰ったか。星篝の魔女よ」


 白銀の髪を揺らし、星篝の魔女は膝をつく。その背後に、もう一人の姿はない。


 それだけで、答えは明白だった。


「なぜだ! なぜ貴様ほどの魔女が、白の魔女一人連れ戻せぬ!」


 怒りというより、焦燥。追い詰められた獣の声だった。


 星篝の魔女は顔を伏せたまま答える。


「白の魔女は、バリスハリスの王。レオニス・バリスハリスに守られています。王命のもと、厳重に」


 その名が落ちた瞬間、空気が凍る。


「指名手配の魔女を庇い、バリスハリスがヴァルディウスに歯向かうというのか」


 白の魔女。


 かつて追放した存在。

 病を祓い、怪我を癒し、呪いを鎮めてきた唯一の存在。


 彼女がいなくなった日から、均衡は崩れ始めていた。


 だが王は、まだそこに思考を至らせない。


「……何が起きている」


 怒りは薄れ、代わりに滲むのは困惑だった。


 星篝の魔女は、違和感を覚えていた。


 城の空気が重い。ただ淀んでいるのではない。


 まとわりつく。


 肌の上を這うように。呼吸の奥に入り込むように。


「王様、ここ数ヶ月で何がありましたか。周辺領地に呪いの濃度が上がっていました。ですが……ここまでとは」


「分からない!」


 王は机を叩く。


 その隣で、王妃アメリアがゆっくりと息を吐いた。


 黒い吐息が、細く漂う。


 それが空気に溶けた瞬間、近くの兵が、王が咳き込んだ。


 星篝の魔女の背筋に、冷たいものが走り、口を抑える。


 王妃の身体の内側で、何かが蠢いている。


 あれは、もはや病ではない。呪いが宿主を侵食し、形を持とうとしている。


「私らには、白の魔女の血が必要だ!」


 王の声は叫びではない。


 祈りだった。


「それさえあれば、アメリアは救われる! 国中の病も呪いも、すべて消える!」


 古文書に記されていた『禁忌の魔女の血は万能薬となる』と。


 その古文書の存在を王に伝えたのは、星篝の魔女自身なのだ。


 それは伝承だ。確証はない。誰が書いたのかも分からない。


 王妃を救うためではなく、国を安定させるためについた戯言。


 王に希望を持ってもらうための方便だった


 だが今、そんなことは言えないほど、王は血に飢えていた。


「禁忌の魔女の血を手に入れろ!」


 

「ああ……この国ももう終わりだな」


 小さく漏れた楽観的な声音。


「何か言ったか?」


「いいえ」


 王は気づかない。


 玉座の足元に、黒い染みが広がっていることに。


 それはゆっくりと、確実に、王の影と溶け合っていった。


 ヴァルディウス王国は、まだ自分が死にかけていることにすら気づいていない。









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