表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/72

22話


 ヴァルディウス王国は、静かに、しかし確実に傾き始めていた。


 最初は、誰もそれを異変とは呼ばなかった。


 白の魔女がいなくなっただけだ、と。


 たった一人の魔女が消えたところで、王国は揺るがない。そう信じていた。


 だが、ほころびは小さなところから生まれる。


 病に倒れる者が出た。


 怪我が治らず、床に伏す者が増えた。


 そして、呪い。


 ヴァルディウス王国にとって呪いとは、恐れるべき災厄ではなかった。白の魔女のもとへ運びさえすれば、消えてなくなるものだったからだ。病の方が辛い、と冗談めかして語る者さえいた。


 その認識が、崩れる。


 呪いは、消えない。


 呪いは、移る。


 宿主が死ねば、次の生命を探す。弱った者へ。子どもへ。老人へ。そして、働き手へ。


 命が尽きるたび、呪いは新たな肉体にすがりついた。


 畑を耕す男が倒れた。


 織機を踏む女が崩れ落ちた。


 鍛冶場の火が途絶えた。


 魔物を狩る者が、一人、また一人と失われていく。



 人が足りない。


 誰かが倒れれば、誰かが穴を埋める。だが、代わりに立った者もまた、やがて倒れる。


 収穫は減り、流通は滞り、備蓄は削られる。


 飢えが広がる。


 飢えは体力を奪い、体力を失った者は呪いに抗えない。薄暗い空気は病も呼び込んだ。


 悪循環だった。


 そこでようやく、王国は思い出す。


 ヴァルディウスには、魔法医療という体系がほとんど存在しないという事実を。


 研究もない。


 育成もない。


 呪いを解く理論も、継承もない。


 なぜなら、必要がなかったからだ。


 白の魔女がいた。


 病も怪我も呪いも、彼女のもとへ運べばよかった。祈れば、救われた。


 王国は何百年ものあいだ、その奇跡を当然のものとして享受してきた。


 他国は違う。


 呪いに備え、莫大な資金を魔法医療に投じ、術師を育て、研究機関を築き、対抗手段を積み重ねてきた。


 ヴァルディウスは、それをしなかった。


 する必要がなかった。


 その分の資源は、街道に、城壁に、農地に、商業に回された。戦は少なく、治安は良く、飢饉も抑えられた。


 平和だった。


 だがその平和は、白の魔女という、たった一人の柱に支えられた均衡に過ぎなかった。


 柱を一本、抜けばどうなるか。


 答えは、今、王国の隅々で示されている。


 傾きは止まらない。


 ゆっくりと、しかし確実に。


 白の魔女を追放したその日から。


 ヴァルディウス王国は、自らの未来を、静かに削り始めていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ