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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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15話


「セレナに近寄るな!」


 怒声が、密集した空気を切り裂いた。


 フェンが一歩踏み込み、セレナと領民の間に立つ。剣に手は掛けていない。だが、その立ち姿だけで十分だった。


 ざわめきが、一瞬で後ずさる。


「あら」


 背後で、セレナが小さく笑った。


「私は、あなたに守られるようなお姫様じゃないわ」


「分かってる」


 フェンは振り返らず、視線だけを後ろへ向ける。


「だがな……俺が間に入らなきゃ、血気盛んな若い連中が、何をしでかすか分からん」


 詰所の扉の奥には、治療を終えた衛兵たちが並び立っていた。


 無言。だが、その視線は鋭く、領民を牽制している。


 魔物との最前線に立ち続けた彼らは、もう知ってしまったのだ。


 白の魔女は、身分を見ない。功績も、勲章も、肩書きも。


 ただ、生きて戦える者を救う。それだけを、淡々と続けてきた。


 血に塗れ、呪いに蝕まれ、もう剣を握れないと覚悟した夜。

 そのすべてを、彼らは覚えている。


 詰所を出るころには、白の魔女が倒れそうなほど消耗していることも。


 そんな彼女を、悪と呼べるのか。


 フェンもまた、その答えに辿り着いた一人だった。


「死人は、蘇らない」


 フェンは振り返り、領民たちを正面から見る。声は、強く、はっきりと。


「もう、やめてくれ」


 一歩、前に出る。


「魔物で死んだ奴らは、俺の仲間だ。全員、このノクスグラート領を守って死んだ」


 拳が、震える。


「お前らを守るために死んだんだよ。笑って死んだやつもいた。俺に家族を託して死んだやつもいた」


 噛みしめた歯の隙間から、怒りが滲む。


「だからな」


 怒号が、叩きつけられた。


「お前らが、戦士の誇りを汚すんじゃねぇ!!!」


 沈黙。


 誰も、言い返せなかった。


「……生き返らせてみろよ」


 フェンの目が、獣のように光る。


「そんな真似をしたら、俺が一人残らず殺してやる。それが、あいつらへの弔いだ」


 その言葉は、剣だった。白の魔女の噂を斬り捨てる剣。


 


 フェンの言葉が終わり、ヒヒーン、と馬のいななきが響いた。


 硬いひずめの音が、石畳を打つ。空気が変わる。


 バリスハリス騎士団が街へ到着し、詰所前に展開したまま、先頭の騎士が一歩前に出た。


「状況を説明しろ」


 問いかけられたのは、衛兵の鎧を着たフェンだった。


 視線の重さで、偉いのだと分かる。バリスハリス騎士団、王都直轄。ノクスグラートの衛兵とは、立場が違う。


「魔物の襲撃は、何とか食い止めています」


「そうか。それはご苦労であった」


 騎士は頷く。


「明日、魔物の殲滅を行う。それまで休め」


「はっ!」


 フェンはできるだけ簡潔に答えた。


「それでこの集まりは何だ?」


「魔物襲来の負傷者を、治療していただけです」


 騎士の視線が、領民へ向く。何も言わず、周囲を見渡す。


 その沈黙に、フェンは気づいた。まずいと。


 彼は一歩、横へずれる。意図せず、背中で何かを隠す形になる。


 白い外套のセレナを庇うように。


 その瞬間だった。


「ほら、見ろ!」


 人垣の中から、声が弾ける。


「やっぱりだ! 衛兵たちは、白の魔女に洗脳されてる!」


「何を言っている!」


 フェンが吠える。だが、その声は止まらない。


「だってそうだろ! 死人を蘇らせる女だぞ! そんな奴を、守る理由がどこにある!」


『違う』


 そう叫びたいのに、言葉が間に合わない。


 騎士団の視線が、一斉に集まる。フェンへ。そして、その背後へ。


 白の魔女セレナは、何も言わなかった。ただ、静かに立っている。


 騎士が、わずかに目を細める。


「……洗脳、か」


 その一言で、場の温度が落ちた。


 疑念は、刃になる。理屈よりも早く、人を傷つける。


「あの噂の白の魔女が、まさかバリスハリス王国にいるとはな」


 騎士は、腰の剣に手を掛けた。


「退去せよ。禁忌の魔女が、踏み入れてよい国ではない」


 白の魔女セレナは、救っただけ。


 それでも、物語は、裁かれる側へと静かに踏み出していた。









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