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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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14話


 ノクスグラート領の領民は、セレナが「死は、戻らない」として、拒否した一件から何泊かの夜を経験していた。


 だが、また再び小さな噂が広がっていた。


「衛兵は、蘇らされたらしい」


 最初は、酒場の隅で交わされた軽い話だった。


 魔物との戦いで致命傷を負い、誰もが朝まで持たないと思っていた男。

 呪いが全身に回り、息をするたびに黒い血を吐いていた若い兵。


 彼らは、確かに死にかけていた。だが、死んではいなかった。


 白の魔女が行ったのは、消えかけた命を精一杯の魔法で正常に戻したことだけ。


 しかし、その違いを正確に語れる者は少ない。


 夜、酒場で杯を傾けた衛兵が、笑い混じりに言った。


「いやあ……正直、あの時はもう終わったと思った」

「白の魔女のおかげで、生き返ったようなもんだ」


 冗談めいた言葉だった。

 感謝と安堵が、少し誇張されただけの表現。


 けれど、その一言は、酒と共に膨らんでいく。


「生き返った、だってさ」

「やっぱり噂のネクロマンサーは本当だったんだ」

「白の魔女は、死者を蘇らせる」


 いつの間にか、言葉から「ような」が消え、事実から「かもしれない」が削ぎ落とされる。


 残ったのは、都合のいい結論だけだ。


『衛兵は、白の魔女に蘇らされた』


 その噂は、人々の口を渡り歩き、奇跡が歪む。



◇◇◇◇



 その日も、セレナはいつもと変わらず、衛兵の治療を終えた。


 詰所の中には、血と鉄の匂いが残っている。血の匂いを好まない彼女は、ふらりと身体が揺らめき、小さく息を吐いた。

 癒やされた兵たちは、深く頭を下げ、あるいは何も言わず、ただ視線を逸らした。

 それはいつものことだった。


 扉を押し開け、外に出た瞬間だった。


 ざわざわ。と空気が揺れる。


 気づけば、詰所の前には人だかりができていた。

 数ではない。密度だ。逃げ場のない距離で、セレナを囲んでいる。


「白の魔女様」


 誰かが、そう呼んだ。


 声は震えていた。恐怖ではなく、切実さに。


 次の瞬間、堰を切ったように人々が押し寄せる。


「お願いします」

「話を聞いてください」

「うちの息子を……」


 魔物の襲来で、家族を失った者。仲間をお墓に埋めたばかりの者。すがる先を探していた者たち。


 誰もが、同じ目をしていた。


 まだ、間に合うはずだ、と。


 噂は、彼らに希望を与えた。そして、その希望は、形を変えた絶望となる。


 距離が、さらに詰まる。


 セレナは、感情を向けなかった。向ければ、心が崩れると知っているからだ。


 白い外套の裾へ、無数の手が伸びる。

 触れようとする指先が、彼女を囲い込んでいく。


 ここにいるのは、敵ではない。

 ただ、救われなかった者たちだ。


 いくつかの夜をセレナが見捨てて、取りこぼされていった命。

 その積み重ねが生んだ歪みを前にして、セレナは、後悔しながらも冷静であろうとした。








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