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回想録«カイル»①

 

 カイル・ウィリタース


 私はウィリタース子爵家の三男としてこの世の生を受けた。


 三男ともなれば、子爵家の当主になる確率など限りなく低かった。


 幸い、私自身にも当主になりたいなどという願望も無かった為、物心がついた時から将来自身の生家を出て独り立ちが出来るようにと両親に紹介されるがまま行儀見習いへと出されていた。


 その仕え先というのが、ハイディア王国で王家に次ぐ地位と名誉を持つエリアル公爵邸であった。


 己より二歳年上であるスワン・エリアル公爵子息。


 私は、行儀見習いとして将来的にスワン様の侍従になるべく側で仕えることとなった。


 自身が七歳になった時から公爵邸へ行儀見習いへ行き、その三年後。


 スワン様が十二になった年。


 ハイディア王国に現存する由緒正しき王国立カーミリア学園の中等部に入学するにあたり、スワン様の侍従見習いである二歳年下の私は編入試験を受け同じく王国立カーミリア学園の初等部へ編入した。


 そしてスワン様のお側に居なければ侍従としての意味が無いと奮起した私は、編入後直ぐにスワン様と同じ学年になろうと飛び級制度を使い中等部へと進学した。


『…………お前、凄いな!!』


 初等部へ編入した私が、入学まもなくして自身と同じステージへと上がってきた事にスワン様は関心なされ私の事を誇りだと宣言してくださった。


 当時、友人として、主従として公私共に親愛と信用を積み上げて行った我々の間柄に花が咲いた。


 それからの日々は、主であるスワン様の身の回りのお世話及び、自身がこの学年に留まる為の勉学に精を出していた。


 スワン様が中等部に上がる前まで、将来の侍従として様々な経験を積むと同時に、公爵家の使用人としてのマナーを学びながらスワン様と共に家庭教師のお世話になっていた。


 それも幸いし、中等部で受ける授業に関してはそれに必要な基礎学力は己に焼き付いており多少苦労しつつもスワン様と充実した学園生活を送っていた。


 その更に三年後。私が十三、スワン様が十五になった年。


 晴れてカーミリア学園の高等部に進学してまもなく、エリアル公爵家唯一の御子であるスワン様の婚約が発表された。


 それが、この国の王家にお生まれになった"マリエッタ・イリス・ハイディア"第一皇女様。


 美しいブルートパーズの髪色と瞳を持つ、全ての貴族子女たちから憧れを抱かれる愛らしいさを持つ少女。


 王家とエリアル公爵家はこの国で最も密接な関係性であるが為、過去にも王家から公爵家へと嫁入りした記録がある所謂親戚筋の家紋である。


 礼節を重んじ、身分を傘に立てず次期公爵家当主としての自覚を持ち得たスワン様は普段から厳格でありながらも、年相応の少年でもあった。


『ど、どうしようカイル………!俺はマリエッタ皇女とどう接したらいいんだ!?』


 故に、学園で人格者として慕われていたスワン様は、表面上での対応は問題なくこなせるものの、生涯のパートナーとして女性に接することに慣れていなかった。


 それに、スワン様とマリエッタ皇女は七歳差と言う、子供時代ではとても大きな年齢差だった為そのぎこちなさは火を見るより明らかだった。


『………瞳を見て、宝石のように美しいと褒めてみては?実際に皇女様の瞳はキラキラと輝く宝石のようですから』

『その後は!?!』

『えぇと………お、お茶に誘ってはいかがでしょう?最近下町で話題になっている焼き菓子があるようなので、私が買ってきましょう』


『七歳も年下なのにこんな将来おじさんになる男と婚約させられているんだぞ!?そんなのでいいのかな!?!』

『あはは………将来おじさんになるのは私もですからそんなご心配なさらなくても………』


 私と同じ年頃であらせられるスワン様はそれはそれはまだ可愛らしさの残る小さきお姫様を相手に、毎度毎度どうすれば良い、俺は嫌われてしまうだろうか、もっと相応しい男がいるのでは無いかと泣き言ばかり吐いていらした。


 二歳年下であり、侍従である私が口を出せる問題ではなかったが、その姿があまりにもなものだった。


 それからは、毎度お二人の逢瀬に関して、不肖ながら私が提案して来た。


 普段から様々な規律に縛られているマリエッタ皇女のお心を思い、堅苦しい形式のお茶会は避け、公爵邸の庭園でのピクニック。


 公爵に連れられ参上した王宮にて、私達の居場所を見つけたマリエッタ皇女による秘密のお茶会等。


 当時、幼くお転婆だったマリエッタ皇女はスワン様に兄のように懐き、共に行動する私もお二人の逢瀬__と言うよりは密やかな遊びに連れ出してくれていた。


 そんなお二人の様子は王宮に務める侍女達、既に社交界デビューを果たした高等部の生徒達により徐々に広まって行った。


『スワン様とマリエッタ皇女……とても可愛らしくて応援したくなりますわね〜』

『スワン様は完璧そうに見えて実は皇女様の前ではとても恥じらっているって話ですわよ?』

『きゃ〜!!』


 広がっていく噂は、尾ひれはひれがつき、ある事ない事が平等に拡散されて行く。


 日々、スワン様と行動を共に出来ない時間帯、周囲の様子に気を配っていれば自ずとその噂が、曖昧かつ聞き手側に良いように解釈されていっているのを肌で感じていた。


 良い噂もあれば、悪い噂もある。


 そして悪い噂に踊らされた同じ学園内外の貴族子女達によって更に噂は捻じ曲げられていった。


 学園に通う貴族子女の中には、家を継げる男児が居らず、婿入りしてくれる相手を探す者。


 反対に、既に継げる男児がおり、自身の家の人脈を広げる為、子女を出来るだけ位の高い爵位の子息へと嫁げるようにと繋がりを求める者。


 そう言った人々は、まず、この国一番の権力である王族に取り入ろうとするものの残念ながら、マリエッタ皇女の兄である皇子達には尽く、婚約者がおり、果ては長子である第一皇子に関しては既にご成婚している。


 その末のマリエッタ皇女に関しても、スワン様と縁を結んでしまっている。


 となれば、次に有力なのが皇太子達が属する王宮に忠誠を誓う側近候補達だ。


 そして何故か、スワン様がマリエッタ皇女と縁を結んでいるにも関わらず、皇女様が幼いということでまだチャンスがあると思われた貴族子女によりスワン様が数々のアプローチを受け始めた。


 その頃には、もうスワン様も幼くも気高く育っていくマリエッタ皇女に惹かれ始めお互いがお互いを想い合っていた。


『………カイル様、どうかこちらをお受け取りになってくださいませ!!』

『……え、』

『是非スワン様にお渡しいただけたら……!!』


『…………なんだいその山は……』

『貴方様宛てのお手紙(ラブレター)ですよ』


 学園から持ち帰った全ての手紙やプレゼントをスワン様の自室である机へと積み上げれば、呆れた様な迷惑そうな、そんな表情でそれを見つめる。


 そしてスワン様とお近付きになる為の橋渡しとなっていたのが、程良く爵位が低く在籍する学年に対して年齢も年下で話しかけやすい。


 スワン様に最も近しい侍従候補である私だった。


 日に日に増すスワン様へと送られるお茶会の誘いや、プレゼントの数々。


 最初こそ、スワン様も幾つか頂いた手紙の中を拝読していたものの、如何せん数が数だった為早々に切り上げる羽目となる。


 尚も続く多くの手紙とささやかな贈り物。


 日に日に刻まれて行くスワン様の額の皺。


『お茶会………恋文………恋文…………』


 上等な素材で作られた精巧な紋様があしらわれた女性らしいレター。


 一つ一つ封を開けてみればふわりと香ってくる数々の甘い香り。


 どれもこれもが、スワン様に向けた求婚まがいの恋情のぶつかり合い。


 スワン様には偉大なる王国の皇女である婚約者が居るというのは周知の事実なはずなのに、解釈したい様に捻じ曲げられた噂話を信じた者達によって送られる好意。


 人の感情と、行動を制限するのは難しく、それはなかなか減る事が無く、時が経てば経つほど学園生活を送る中でもスワン様へ好意を訴えかける子女が後を絶えなかった。


 対策を練ろうと、事前にスワン様への接触を避けようと私自身、誰がどの様な接触を図りそうかというのを予想立てリスト化した。


 私経由で届けられるお手紙達は、その日以降スワン様の目が届く前に申し訳なくも一度目を通し処分していた。


 貴族社会での横の繋がりは非常に貴重なものな為、大衆の面前で特定の誰かを邪険にすることが難しいスワン様に代わり、彼の憂いを少しでも減らす為微力ながらも被害を縮小するよう努力した。


 しかしそんなある日、大事件が起こった。


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