バラされる思い、気づけば周章狼狽
「なっ……なっ……なんでっ………」
なんでその事を知っているのか。
そんな言葉が喉から出る前に驚きで言葉に詰まった。
確かに私は、カイルさんに少なくとも好意を持っているということを自覚したばかりだ。
それ故に、その好意と言う物に、"恋情"が含まれているかというのはまだ明確に自認していない。
まぁ、少なくともカイルさんが私にとって憧れの人なのかと言われれば、その仕事に対する姿勢を含めた全てのカイルさんを見習わなければなと思う程には敬意を持っているし、好感も持っている。
しかし、それは私の心内で自覚した話であって、これを他の誰かに話した訳でも、悟らせた訳でもないはずなのに。
それなのに…………
「なんでっ!?」
バレるはずの無い感情を衆目に晒されたかのようなこの羞恥に頬がカッと熱くなるのを感じる。
それでも、その疑問は何ら不思議では無いと納得せざるを得なかった。
何故なら私は、表情を取り繕うのが絶望的に得意ではないということがつい先日、自分でも自覚したからなのだ。
自分では必死に隠していたつもりでも、要所要所の私の行動で察しのいいマリエッタちゃんは見抜いていたのか。
となれば、もしかしてカイルさんも分かっていたというのか………!?!?
『うふ!だって昨晩の二人の慌てよう!好き合っていないと不可能なんですもの!』
「………昨晩の慌てよう!?なっ、なにを言って……」
知らないはずであろう昨夜のカイルさんのやり取りをまるで知っているかのように語るマリエッタちゃんに疑問を持ち、隣に並び立つカイルさんへ視線を送る。
「…………っ! おっ、奥様!!」
そこに立っていたカイルさんは、その両の目を閉じ何かをこらえるように左手を握り口元にかざしていた。
若干肩を震わせ、気まずそうに私の方から少し顔を背ける。
カイルさんが悲鳴にも近い声をあげれば、マリエッタちゃんがしまったと言うように、「あ、」と声を漏らせば溜め息を着くようにお義父様が息を吐く音が聞こえる。
『………実はね、昨日マリエッタから渡されたこの宝石は、正しくは特殊に加工された聴取専用の魔石なんだよ』
「聴取………専用!?!」
『……………すまないナツメ。我々はこの魔石を通して昨日のナツメと、ミアの全ての言動を記録しそれぞれのアリバイ、事件の確固たる証拠を掴む為、私、マリエッタを含む他一部の公爵家所属騎士団、王家所属騎士団・魔術師団の団員が証人として交代制で聴取していた………』
「まさか、ずっとですか!!?!」
居てもたってもおられず、ついには座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、目の前に鎮座する通信機に向かい前のめりに迫る。
もしそれが本当に本当に、事実ならば。
その通信機を使い、私とミアの状況をまた違う通信機でカイルさんと連絡を取り、私が間違えても睡眠薬入りの紅茶を飲みそのまま眠りにつく前にタイミング良く入室してきたのだとしたら。
事件の仔細を逃さない為ある程度高性能の集音機能が備わっていたのだとしたたら。
昨日の一日メイド体験中は愚か、私の自室でのだだ漏れの独り言も然り、寝る前に交わしたカイルさんとのあとやり取りも、先程のやり取りもこの魔石に集音されていたのだとしたら。
それを……………お義父様やマリエッタちゃん、不特定多数の信頼が置ける騎士団や魔術師団の人達が聞いていたという事になる。
つまりは、盛大に慌てふためき、完全にカイルさんへと羞恥を晒していたあの音声が、間借りさせてもらっている寝台近くのテーブルに置いてある魔石が拾っていたのだとしたら…………!!!
「う、う……………うぅぅうううぅぅ………………」
今まで感じたことの無いほどの熱が襲い掛かり、私の顔面を真っ赤に染め上げ、机についた手から力が抜け、へにゃりと机上へ突っ伏していく。
言葉に表せれない語彙が単語として生成されず唸り声として吐き出される。
「無理無理無理無理ぃ!?!恥ずかしすぎる………なにこれ何これ!?え、バレとるん??バレとるん??うちもまだ自覚してなかった事を先にマリエッタちゃん達が分かっていたとでも………!?」
「………ナツメ様」
「うっ!?ぅぅ〜…………」
噛み締めたような声色で私の名前を呟いたカイルさんは、机上に突っ伏した私の背中に手を当て落ち着かせるように摩ってくる。
今までであれば、そのカイルさんの行動によって安心感を得られていたのだが、今この状況に対してでのこの対応は逆効果だった。
優しく上下するその掌が今、本人を目の前にして私の心象を吐露されほぼ間違いないと確信出来るほどの私の態度が公開された。
こんな半ば強制的に私がカイルさんに向ける生々しい好意の感情があると言うのがバレてしまっていれば、その居た堪れなさに伏せた顔を上げる勇気は私には持ちえていない。
どうしてくれようこの空気!!!!!
気配でわかる限り、私の斜め左後ろには未だに一晩中ドア前で護衛をしてくれていた女騎士が居る。
彼女にも申し訳ないほどのこの気まずさ。
いっその事今、此処で!!誰か私を気絶させてくれぇえええええ!!!!!!
身悶える思いでその場で身動ぎをし、防御体制を取るかのように頭を抱える。
一瞬触れた熱く熱を持った耳に、己の首から上がこれでもかと赤くなっているのだろうという事実を分からされる。
『マリエッタ………悪手だったね』
『ご、ごめんなさい………つい、うっかり零してしまいました。浅慮でしたわ』
耳で聴こえる、通信機越しの二人の会話を拾い、大丈夫だと言葉を返したかったものの、やっぱり心情的には全くもって大丈夫ではなかったので口を噤む事にした。
先程までこの事件の仔細を聞き、とりあえず一件落着!良かったね!!みたいな流れだったのに。
こんなことになるなんて思わなかった。
大人しく、上がりきった体温を下げる為にゆっくりと摩られる掌を変に意識しないよう、息を整えながら鼓動を落ち着かせていく。
『それでも一つ、ナツメには伝えておくよ』
『君は、我が公爵家の長子であるナツメ・エリアルであり、このハイディア王国の聖女でもあり、今後英雄になり得るであろう異界人だ』
淡々と伝えられる事実と、少し聞き逃せない重大な情報がお義父様の口から発せられる。
『この国においての聖女や、英雄には独自の地位が与えられその地位に値する者の行動は、何人たりとも本人の意向を無下にする事が不可能だ』
夜の静けさに沈んだ部屋の中に、通信機から零れる少しの雑音とすりすりと背中を摩る衣擦れ音がやけに耳奥へとこびり付く。
『聖女や英雄と言う地位は公爵家長子としての身分よりも優先される。
故に、ナツメ。お前は公爵家の跡継ぎと言う重荷を背負わずお前が心から想う相手と添い遂げる事が出来る。この意味がどういう意味かは、聡いお前達ならば分かるだろう?』
「「!!」」
まるでそれが合図だったのかと言うように、近くに居たであろう女騎士がこの場から離れて行く。
反射的に、まだ赤みの引いていない顔をガバッと上げ、足音がしていった方向を振り返れば、女騎士は既にこちらに一礼をしこの部屋の扉を静かに閉めた。
このままじゃなにか不味い流れになると察した私は、再び通信機のある目の前の机上に視線をやり口を開こうとする。
『んふふ!元はと言えば私の早とちりのせいでしたけれど……私は尚の事、スワン様も反対はいたしませんわよ!』
がしかし、それはマリエッタちゃんの耳を疑うような言葉によって阻止されてしまった。
『あぁ。カイル、お前は今日非番だ。トリスタには急だが代理を務めてもらおう』
「だっ!旦那様!!?」
『カイル。私が知らないとでも思ったか?大人しくナツメとの今後を話し合うのだな。何、トリスタも手放しで喜ぶ事だろう』
『ナツメも、少し早い時間だけれど、カイルはとても紳士だから大丈夫よ!しっかりお話し合いをしてね?』
「マリエッタちゃん!!!ちが、違うんです!!」
もう既に二人の中で私達が好き合い、心が通じ合っているとでも思っているのか。
私達の意志など関係ないというかの如く、本来ならば通常業務を行う筈であったカイルさんを非番にしてでも私とカイルさんの今後についての話を進めさせようと、雇用主権限により手を回される。
普段からは想像出来ないほど狼狽するカイルさんとは反対に、妙にウキウキした様子で『ではまた、朝食で報告を待っているからな』と、言い残しプツッと言う電子音が鳴ったと思えば早々に通信が切られた。
待ってという声を発せず、その場にお義父様の体がある訳でも無い筈なのに、引き止めるように差し出した行き場の無い右手が空ぶる。
二人が話す度に淡く光っていた魔石が光を失い、青く光っていた台座に刻まれた文様も元の白い光へと戻っていた。
恐らく、お義父様側の台座のボタンによって通信スイッチの操作がされ電源か何かが切られたのだろう。
「………………っ」
「…………………」
静けさを帯びた空間に、私とカイルさんの生きるために発せられる呼吸が、僅かに聞こえる。
今はその呼吸音でさえ、この空間に私達が二人きりでいると言う現実の証明になり、また羞恥が湧き上がってくる。
どうしていいか分からず、変わらず私の背中に手を添えたまま傍に控えているカイルさんの方を向けずにただ、目の前に広がるシンプルなカーテンの模様を目で追う。
体温が上昇したことにより、じわりと発汗した汗がツッと首元を流れる。
「………ナツメ様」
「は、はい!!?」
カイルさんから静かに呼びかけられ、その声色とは比較にならない程の上擦った声で返事をする。
自分でも分かるぐらいカイルさんを意識している自身の声色に、これ程までに私は態度を取り繕えない人間だったのかと遂には呆れが出てくる。
強ばり、肩がいかっていたことに気付き一つ深呼吸を行いゆっくりと力の入った肩を下ろしていく。
周りの空気を極限まで読み、臨機応変の対応が出来る真面目なカイルさんの事だ。
きっと、私がカイルさんに向けている自覚したばかりの恋情を感じ取ったのかもしれない。
それに加えて、カイルさんにとっての雇用主であるお義父様からの半強制的な私との話し合い要請。
生真面目なカイルさんであれば、それを実行しない択など存在しないだろう。
となれば、真正面からぶつかってくるであろうカイルさんとこのままの状態で話すというのは正式な話し合いと言うには些か態度が悪すぎる。
もうここは覚悟を決め、私も心内をぶちまけよう。
そして、思いっきり振られよう!!!!!
誰が、こんな厄介な人間と一生を添い遂げたいと思うのか!!!!!
先程のお義父様の言葉が事実で、聖女となった私の意向を否定する事はほぼ不可能ならば!
潔く公爵家に籍を置かせてもらったまま必要最低限の庇護だけをいただき、公爵家のメイドでも、今後絶対産まれるであろうマリエッタちゃんの子供達のお世話係なりして生きて行けばいい!!!
なんかちょっとニートみたくなるかもしれないけど、お国がそれで良いって言うならそうやって生きて行くよ!!!??
そんな覚悟を密かに決め、恥ずかしい思いなら既に初日にエスコートが分からずにギュッとお義父様の手を握った時に感じたと謎の比較対象を作り、くるりと体の位置を右側へと変える。
それにより背中にあったカイルさんの手が必然的に離れ、意を決し立っているカイルさんの瞳を見つめようと上を見上げた。
するとそれに驚いたカイルさんは一度目を見張れば、直ぐに、その場に跪き、あろう事か一瞬にしてその顔と顔との距離が縮まった。
「キュッ………!!」
顔面同士が離れた状態で話が始まると思っていた。
故に、間近で意識をしている人の表情を見る驚きにより聞いた事のない小さな悲鳴が漏れる。
「私は貴方様の事を………非常に好ましく思っております」
「……………へ!?!」
律儀に、真っ直ぐ見つめられたまま告げられたその言葉は私の予想していない言葉だった為に、思案していたフラれた後に送る自分に対しての励ましの言葉が全てスッパ抜けていった。




