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仕事仕事!気付けばルビーのビンズ!?!

 

 時間をかけながらも、少しずつお粥を食べ進めたマリエッタちゃん。


 満足そうににこやかに笑うその表情に、もう何も物申せないと察し、大人しく持ってきていたナプキンでマリエッタちゃんの口元を拭う。


「ふふ。ありがとう。そうだ、ナツメに差し上げたいと思っていたものがあるのよ」


 食べ終わった食器をサイドテーブルに置かれたトレイの上に置こうと立ち上がれば、マリエッタちゃんは傍で待機していたミアにドレッサーの引き出しにある何かを持ってきて欲しいと頼んでいた。


 ドレッサーの引き出しを探り、ミアが持ってきたのは赤を基調とした鍵付きの小さな小箱と、その鍵。


 ミアから手渡された小箱を持ったマリエッタちゃんから再びこっちに寄るよう催促され、寝台の近くに寄る。


「私ね、ナツメが家族になると聞いて直ぐに用意した物があるの」

「物?」


 コクリと頷いたマリエッタちゃんは、その手に持った小さな鍵で小箱を解錠し、ゆっくりとその蓋を開ける。


 中に入っていたのは、綺麗な赤色をしたルビーの宝飾だった。


 あまりの輝きと、自身とは縁が無さすぎて間近で見たことが無かった事の衝撃で言葉を失う。


「これを貴方にあげようと思って特注したのよ」

「とっ、特注!?!?」


 更には私の為にオーダーメイドをしたという耳を疑うワードまで飛び出す。


 庶民的感覚を持つ私には、宝石と言う物自体触ってきたことも直接見た事もなくオマケにオーダーメイドの商品を買ったことも無い。


 そんな人間の前に突然、本物の輝きを持つであろうルビーの宝石があしらわれた宝飾が現れた。


「ほら。屈んで??」

「い、いえ。いえいえいえいえ!!!幾らそんなっお高いもの私には似合わないし分不相応です!!」


 小箱に入ったビンズのように加工されたルビーを私のヘッドドレスに付けようとするマリエッタちゃん。


 流石にこんな一粒おいくら万円か、それ以上しそうな代物を易々と受け取る訳には行かず全力で拒否する。


「ナツメはエリアル公爵家の長子よ?身分なんて王族や大公に続く身分だし、何よりこの国の聖女。分不相応なんて事はないわ」


 私を諭す様な声色でそう告げられるののそれで、はいそうですか。と受け取れるものではない。


たしかに私は国王から聖女の肩書きを賜ったが何一つそれに見合う功績を自身の力だけで収めた事など無い。


 ただの不可抗力による転移でたまたま持ってきていた水筒や、お墓参り用の花。それらにこの世界の事象が奇跡的に掛け合わされて本来持たない力を持った。


それに加えて、私がうろ覚えながらも覚えていた知識がこの世界では存在していなかったのも相まり、それら全てを齎した私が代表として神聖視されただけ。


 そして、運良くこの公爵邸に引き取られ長子として養子縁組されただけの何も持たないただの凡人。


 そんな凡人が高価なものを、なんの見返りも無しに受け取るなんて到底無理な話だ。


 頑として口を閉ざし受け取るのを拒否していれば、マリエッタちゃんは再び頬を膨らませその眉間に皺を寄せる。


「まぁ、なんてそんなに頑固なのかしら」

「で、ですから」

「もう!受け取らなければ私は家出してしまいますよ!」

「えぇ!?!み、ミアぁ………」


 自らの腰に手を当てプリプリと怒り始めるマリエッタちゃん。ただでさえ体調が悪いのにもしかしたら私のせいでもっと悪化させてしまっているのではないかと言う心配がよぎる。


 今度こそミアに助けを乞おうと、寝台の反対側にいるミアへ視線を投げかけるとミアは困ったように笑いながらチラリとマリエッタちゃんの方へ視線を投げかけた。


「ナツメ様。貴方は誰になんと言われようとこの国の()()で既にこの()()()()()()なのです。ここは奥様のわがままを一つ聞いて差し上げると良いですよ」

「で、でも〜………」


 聖女、と公爵家の長子と言うワードを妙に強調させミアですら私に妥協するよう語り掛ける。


「では、毎日宝石を贈られるのと、今だけこのルビーを受け取るのではどちらが良い?」


 何故こんなにも必要以上にこの宝石を受け取らせたがるのか理解が出来なかった。


 単なる家族としての証か、記念なのか。


 が、しかしマリエッタちゃんのこの二つの選択肢を迫られれば勿論後者を選ばざるを得なかった。


 しかも多分これは冗談で言っているものではない。公爵家の財産であれば毎日宝石を送ることもきっと容易だろう。


 ただ無意味に宝石が毎日贈られ、増えていく方が恐ろしすぎて耐え難い話だ。


「私の体調が治るまででいいの。それまでつけていて??」


 キラキラと強請るように懇願されれば、私も折れざるを得ない。


「わっ………かりましたっ」


 ぐっと唇を噛み締め、様々な葛藤を振り払いそれでも目の前の人を大切にしたいと思い至り私は静かに頷いた。


 またもやコロコロと掌の上で転がされているように見事に流されていると自覚はあるものの、妥協策がそれしか無いのであればもう従うしかない。


 それにこれがもしかしたらマリエッタちゃんの単純なる愛情表現なのかもしれないと言う淡い想像をすれば、断りすぎるのも相手にとって失礼にあたるのかもしれない。


 大人しく、受け取る為に再びマリエッタちゃんが座る寝台に近づき言われるがままに頭を垂れる。


 小箱に収まっているルビーのビンズを取り出し金具を外し、ふわりと頭上を包むように腕の気配がやってくるのを感じる。


 俯きマリエッタちゃんの膝の上にある開いた小箱の中を眺めていれば、赤く光りつつも何処か少し翳って見えるもう一つのルビーの宝飾が入っているのを見つける。


「んふ。ほら出来たわ。ミア、手鏡を」

「はい、奥様」


 ミアから手渡された手鏡をマリエッタちゃんが私の前に持ってこさせれば、必然的に美しい彫刻がなされたフレームの中央にある鏡に目がいく。


 パッと見た瞬間、自身の黒髪と取り付けられたヘッドドレスの白が引き立て役かと言わんばかりに煌々と輝くルビーが鏡に映っていた。


「えぇ、えぇ!やっぱりとても似合うわナツメ」

「あぁぁ………なんて恐ろしいものが頭に」


 その本当の価値がこの世界でどれ程のものか私の物差しで測れたものではないが、とにかく私はこの期間中、絶対に頭を振り被らないよう細心の注意を払うよう心に誓った。


「ふふ。そしてこっちのはミアのよ」

「え、私の、ですか?」


「えぇ。だって貴方は私の大切なナツメの専属メイドよ。それ相応の褒美があってもいいと思うのよ」

「……いえ、しかしそれでは他の方たちに顔向けが……」

「えぇ、えぇ、だからミアにも私の体調が良くなるまでお守りとして制服の中に忍ばせていて欲しいの」


 なるほど。ここに入っているもう一つの宝石はミアの為のものだったようだ。


 確かに。私がミアに掛ける迷惑は恐らくお義父様やマリエッタちゃんの比ではないかもしれない。


 それに専属となると、私の身の回りの全てのお世話という事になる。


 当然、部署ごとに分かれている他の専用メイドとは仕事内容が違う。いわば特別ボーナス的なあれだろう。


 そういう福利厚生は必要だ。仕事のモチベーションに関わることだ。


「…………では、有難く頂戴致します」


 納得したのか、ミアも大人しくマリエッタちゃんからルビーのビンズを受け取り、エプロンのポケットにしまい込む。


 ふと、部屋の時計を見れば既に多くの時間をマリエッタちゃんの食事時間として要していた事に気付く。


 公爵家お抱えの主治医から処方された食後用のお薬をマリエッタちゃんに手渡し、コップに注がれた水と共に飲ませる。


 食事の後は、マリエッタちゃんの体を拭き身支度を少し整える予定だ。


 グズグズしていればすぐに時間など経ってしまう。


「私がお世話される側だけれど、あまり無理しては駄目よ?ナツメ」

「はい、ま、マリエッタちゃんも静かに寝ていてくださいね?」


「はぁ〜い」と緩やかな返事を聞いた後、次の準備をする為ミアと共にマリエッタちゃんの私室を後にする。


 それからは慌ただしくも実に充実した公爵家の使用人としての一日を過ごすこととなった。



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