あるいは
訂正:小鹿亭には5才になった日にやって来て、13才になった日に小鹿亭から大人専門の娼館へいきます。
何話か出ていくのを12才と間違えて書いてる話があったので、後日修正しますね。
アイビスが小鹿亭から出ていった。
今年来た5才組の子たちは戸惑っていたけど、他のみんなはなんとなくこうなるんだろなって、薄々思っていたんだろう。
毎日あるお勉強。
毎日目を腫らして帰ってくるアイビス。
明るく気丈に振舞っていても、無理しているのは一目でわかる状態だったから。
「おみせやさんではたらくの。みんな、おとなになったらおかいものしにきてよね」
どんな店なのか。どこにあるのか。詳細なことは何もわからない。
それでも、みんなアイビスの旅立ちを心の底か祝福した。
「しあわせになってね」
最後だけみんな泣いてしまったけれど、これは悲しみの涙じゃない。
これまで頑張ったね。辛かったね。これからはきっともう大丈夫だからね。
そんな想いを込めた願いが、涙になったのだ。
アイビスがいなくなってしょんぼりしていたみんなも、数日もすれば元気を取り戻していた。
ビグルミの甘い匂いが漂い始めたことで食欲が刺激され、食欲が刺激されると心の中を漂っていたどんよりとした気持ちが自然と端の方に追いやられ、気付いた時には消えている。
落ち込んだ時は甘いものに限るということだろう。
………
……
…
「そういえばさいきん、ジュリ来ないね」
ビグルミの収穫に精を出していたある日、クルカラの何気ない一言に胸騒ぎを覚える。
「そういえばそうですね。ここひと月ほどでしょうか?セラ、今日は私と一緒に寝ましょうね」
「えー!!リビアンこないだもいっしょにねてたじゃん!!今日はクルカラたちといっしょにねるのー!!」
「リビアンばっかりずるい…」
「わっ、私は1番上の姉さまですから…!!」
みんなキャッキャと今晩誰が僕と寝るかを話し合っているが、僕の心はそれどころではなかった。
ここひと月ほどジュリが来ていない。
確かに最近は当初に比べて、ジュリが来る頻度が減ってはいたのだ。
週に4日ほど入り浸っていたのが、週3日、2日と減っていき、しばらくの間は週に1日だけという日々が続いていた。
ジュリが来ない。
それ自体はいいのだ。
ジュリも無理をしているわけではないようで、顔色が悪くなっていたり疲れている様子もなかったから。
ジュリの僕への依存が弱くなるのは…本音をいえば一抹の寂しさはあるものの、依存なんか無ければ無いほうがいい。
だけど…
「ジュリ、しばらくこないなんて…いってなかった…」
春に客が沢山来て忙しくなる時だって、来週は来れないといった時も、ジュリは事前に教えてくれていた。
半分は自分自身に言い聞かせるように、覚悟を決めるように、「しばらく来れないの」と。だからめいいっぱい甘えさせてくれという要望の為だったりしたけれど…前回来た時はそんな素振りは一切なかった。
どうしたんだろう…
世話人に聞いてみても、「平和でいいな」とか頓珍漢な答えが帰ってくるのみで、ちっとも頼りにならない。
"便りがないのはよい便り"なんて言葉はあるが、ジュリに関しては当てはまらないだろう。
むしろいろいろと怖い。
何の連絡もなく過ぎる日々に言いようのない不安な気持ちを抱えたまま、アッポとビグルミの収穫時期が終わり、冬の気配が近付いてきた頃。
「…セラ、この後少し話がある。食堂に残っていてくれ」
食後に食器を片付けに行ったところ、世話人に呼び止められた。
やっとジュリが来るのかと思ったが、それにしては世話人の様子が少しおかしい。
世話人は普段通りにしているつもりかもしれないが、戸惑うような、なにか不審がっているような。そんなわずかな違和感があった。
「ジュリじゃないの?」
もう随分長いことジュリが来ていない。
話の内容はジュリのことではないのか。
待ちきれなくて聞いてみたが、世話人は短く「ああ」と答えるだけ。
食堂からみんなが出ていき、世話人の片付けが一段落したところでやっと戻って来た世話人から出てきた言葉が、僕の不安をより一層高めることになる。
「1週間後にジンムカ様がいらっしゃるそうだ」
ジュリではなく、ジンムカ様が来る。
一瞬理解ができなかった。
ここにジュリはいない。ジュリがいない小鹿亭に…なぜジンムカ様がくるのか。
僕だけが食堂に残されているのだから僕を指名しているのだろうが、一応確認してみる。
「…セラに、あいにくるの??」
「ああ。セラ1人を指名している」
やはり僕に会いに来るらしい。
なぜ??なんのために??
全く意味がわからないのはどうやら僕だけではないようで、世話人も眉を寄せて不審そうな表情を隠そうともしていない。
「…ジュリもいっしょ??」
「…いや、ジュリが来るという話はなかった。セラはまだ娼婦として満足に働くことはできないと伝言は出したんだが、向こうからは話がしたいと返答があるだけでな…」
話がしたい…か…
ジンムカ様と最後に会ったのはジュリがいた時だから…もう1年半、2年近く前のことだ。
その時もお話をしているうちに僕は寝落ちしてしまって、目覚めた時にはジュリは美味しく頂かれた後だった。
あの時の苦い記憶と葛藤は今も嫌な思い出として胸に深く残っているし、なんなら今でも思い出す度にムカムカする。
ここが異世界であることや、高級娼婦が孤児出身者の勝ち組なのだとしても…僕はまだ、子どもが身体を売るのを仕方がないことだと割り切ることはできていないのだ。
………
…というか、僕もここでは娼婦なんだ…
「まだ満足に働くことはできない」って、世話人はフォローしてくれてるつもりだろうけど…"まだ"じゃなくて…僕的には永遠に無理…
この身体は確かに女の子なのかもしれないが、僕としては男として生きた30余年の記憶があるわけで…何が悲しくて男の人とイチャコラせねばならんのだ状態である。
できることならそういった行為は断固として拒否したい。
…そう考えたら、この前アイビスからの一緒に商人にならないかという誘いを断ったのは失敗だったかもしれない。
みんなの事が心配で断ってしまったが、僕がここにいても娼婦として働かなければいけないし…
ここは僕が暮らしていた地球と違って、魔法があるファンタジーな世界だ。僕のように地球の倫理観を元に考える人なんかいない。
孤児は娼婦になる以外にまともな働き口もないらしいし、なによりこの世界の娼婦には日本とは比べ物にならないほど充実した支援体制も整っている。
…ここは地球ではないんだ。
そんな中で高級娼婦に選ばれたみんなに"娼婦をやめよう"なんて言える道理が見当たらない。娼婦になりたいみんなはこのまま娼婦として、娼婦になりたくない僕は別の仕事をして、そうやって別々の道を生きていけばいいのではないか。
最近ではそう思うようになってきた。
「…手紙を持ってきた下働きの者の様子が少しおかしかったから話を聞いてみたんだが、どうやら最近、ジンムカ様の様子がおかしいらしい」
脱線していた僕の思考を呼び戻したのは、世話人の不穏な情報だった。
「何かに悩んでいたり…たまに物に当たったりする姿を見るようになったそうだ。…考えたくはないが、ジュリに何かあったのかもしれない」
「…なにか??って、なに??」
何かってなんだ??考えたくないとか意味深な言葉を使われると…不安な気持ちになってくるんだけど…
僕の不安が顔にそのまま出ていたようで、世話人は苦笑いしながらすまんなと続きを話しだした。
「不安にさせたな。何があったのかはわからないが、何かがあったんだろう。ジンムカ様はジュリを気に入っていらっしゃっただろう?可能性は幾つかあるが、もしかしたら…ジュリが病気になったとか、あるいは妊娠したのかもしれない」
にん…しん…妊娠!?!?
「あれだけジュリの事だけを指名し続ける方だ。誰の子かわからなければ、心も乱れるだろう」
ジュリが…妊娠…お母さんに…!?
それは…どうなんだ??僕はどんな反応をすればいい!?
えっ、そうか…お腹に赤ちゃんがいたら…ジュリが僕の事なんて忘れちゃっててもおかしくは無い…のか…???
「もしかしたら、セラに娼婦としての行為を求めてくる事もあるかもしれん」
!?!?!?
「えっ??なんっ…えっ??なに…どう、して…??」
世話人からのトンデモ発言に上手く言葉がでてこない。
全くもって意味がわからないし、大迷惑である。
ジュリが妊娠して、ジンムカ様が僕に行為を迫ってくる??は??なんで??こっちくんな。
「それはまぁ、妊娠中の行為はお腹の中の赤ん坊によくない影響があるかもしれないからな…娼婦も妊娠中は国から手厚い支援が出るし、働かなくていいんだ」
娼婦が妊娠したら、出産まで国が衣食住の全ての面倒を見てくれる。
それなら確かに働く必要は無いし、リスクのある性行為などしないか。
そして、行為ができなくていろいろ溜まっている&誰の子かわからないからモヤモヤしているジンムカ様が、僕に会いに来ると……??
………
いやいやいやいや、怖いんですけど!?!?
ア、アイビス!!僕、今からでも商人になれるかなぁ!?
もう遅い??
いやだ!!助けて!!!!




