見た目はキラキラ
中途半端な文字数になったため、途中まではセラ視点、最後の方は小鹿亭のオーナー視点の話に変わります。
文字も計算も、最初はアイビスを始めとした大半の少女たちには好評だった。
すぐ半数の子は興味を失ない、全く参加してくれなくなったけど。
初めて見る模様。読めるようになる楽しさ。
みんな絵本の文字を自分で読めるようになりたいからか、僕達の勉強に嬉しそうに参加していた。
が、日に日に人数は減っていき、結局残ったのは僕とアイビス、それと数人の少女だけだった。
「書いててもおもしろくないし。読めればよくない?」
なんて言われてしまえば、確かにノートもメモ帳もないここでは例え文字を書けるようになっても、その必要性を見出すことはできないだろう。
魔法についても…練習している子はかなり少ない。
僕が使えるのは水と火の魔法だけだし、適性のない子に魔力の色を教えるのは…僕が初めてウィルから教えてもらったときの衝撃を思い出すと、正直いってかなり怖かった。
それに水はともかく、火の魔法は純粋に危険だ。
火の魔法を披露した時には何も知らずに触ろうとする子がいて危なかった。
ここにいる子たちは生まれてから今まで火を見る機会が無く、そもそもその存在を知らない子がほとんどだったのだ。
「"ひ"は、とってもあぶないの。さわるとあつくていたくて、やけどしちゃう。あとがのこってきえないの」
頭に???を浮かべながらよくわからなそうな顔をしているみんなに火の危険性を教えるには…直接火を触ってもらう訳にはいかないし、実際に何か燃やして見てもらうしかない。
少し残酷だとは思ったが、葉っぱの上でくつろいでいるイモ虫を火の魔法で包み、焦げて丸まり死んでしまった芋虫を見せることで、みんな火の危険性はそれなりに理解してくれたようだった。
「…ひはきけん…ダメ…ぜったい…」
リリカに至っては静かに涙を流しながら身体を抱えて怖がってしまって、火に拒絶反応を起こすようになってしまった。
前にイモ虫がどうのとか触角がどうのとか言ってたし、虫が好きなのかもしれない。悪い事をしちゃったな…
火は見た目はキラキラしていて綺麗なんだけど…危ないんだよね…
安全性の問題はあるものの、何はともあれ、魔法を使うためには魔力を操作できるようにならなければスタートラインにも立てない。
そのためみんなの髪色に合わせて、青髪の子には青色の魔力を。赤髪の子には赤色の魔力を。
そうではない髪色の子には少し青色に近付けた魔力、少し赤色に近付けた魔力を優しくやさしーく流し込んで身体の中に魔力があるのを体感してもらい、魔力を動かす練習をするように伝えたのだ。
みんな、それはもう張り切って練習していた。
毎日少しずつ練習するといいよと言っても、みんな黙って集中していた。
が、集中は長く続くものでもなく、魔法の練習はすぐに成果が出るものでもない。
僕とアイビスと一緒に魔法の練習をする子は日に日に減っていき、日替わりで数人が一緒に練習するくらいに。結局ほとんどの子はガヤガヤと魔法を見ているだけに落ち着いてしまった。
魔法を見るのは楽しいのか、外野は結構いるけどね。
僕の魔法はというと、最初の頃より結構上達したように思う。
特に火の魔法が使えるようになった事は嬉しかった。
ウィルは危ないからと最初の1回以外は見せてくれなかったが、幸いなことに僕には前世の記憶がある。
その記憶を頼りに火を鮮明に思い描き、魔力を燃料にして火が燃えているイメージでなんとか火の魔法を使うことに成功したのだ。
しかし火の魔法は魔力の消費が激しく、すぐにヘトヘトになってしまう。
その場に留めておける水と違って、このやり方では魔力の消費が激しいのだろう。誠意練習中だ。
特にアイビスといる時は火の魔法を積極的に練習している。
アイビスの真っ赤な瞳と赤茶の髪はどう考えても火系統だし、火について理解を深めなければ火の魔法は使えないのだ。
「"ひ"は、もえうつっていくの」
「うつる?」
「そう。まほうでだしたときは、まりょくがなくなればきえちゃうけど。もえうつった"ひ"は、ひろがっていっちゃうの」
落ちている木の枝に、指先に出した魔法の火を近付ける。
火がちゃんと燃え移ってから魔法を消すと、木に燃え移った火だけがのこるのだ。
火のついた木の棒に、もう1つの木の枝を近付ける。
すぐに燃え移るのを期待したが…残念ながら火はつかなかった。
「うつらないじゃない」
「ちょ、ちょっとまって…」
青色の魔力で木の枝を包み、染み込ませ、木の枝から水分を抽出する。
ウィルが絨毯に零した紅茶を取り出していたのを参考にやってみたが、上手くいったみたいだ。
「みず??ひにみずをかけると、きえちゃうんじゃなかったっけ」
「きのなかには、おみずがはいってるの。それをとってあげたから…ほら、うつった!!」
火のついている枝に水分を取った枝を近付けると、しっかりと燃え移ってくれた。
火のついている枝は2本もいらないので、最初の枝は湿った地面に擦り付けて消化だ。
「"ひ"は、あつくてあぶない。おみずはしたにおちるけど、"ひ"のあついのはうえにとんでくの」
火の上の方に手をかざし、熱すぎない高さにアイビスにも手をかざしてもらう。
「ほんとだ…ふわふわ…あったかいのがあるわ」
「"ひ"にちかづくと、どんどんあつくなるからきをつけて」
「私も触ってみたーい」
「じゃあ私はセラにさわろ〜」
周りでガヤガヤしている子たちも実験のようなことをしていると興味をひかれるらしく乱入してくるので、あまり危ない事はできないけど。
風で熱気の昇る方向が変わるのを体感してもらったり、木の棒を横にして燃え広がるのを見えもらったり。
軽く吹いて火の燃え広がりを助け、逆に強く吹いて火を消したり。
アイビスやみんなに火を見せ、火の危険性も同時に知ってもらいながら、便利さと危険さを併せ持つ火の扱い方を説明しつつ。
国語、算数、理科。ここに社会が来たらもう小学校みたいだなと心の中でくすりと笑いながら、毎日があっという間に過ぎていった。
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(小鹿亭オーナー視点)
「この数ヶ月、進展は無し…これ以上の改善は見込めそうにない…か…」
「申し訳ありません、オーナー」
「いや、世話人が謝る事じゃない。寧ろよくここまで改善させてくれた」
一時期は男を視界に入れることすら困難なほどの男性恐怖症状態だったアイビスも、1年以上のリハビリを経て、今では異性との"多少"の接触なら他の娼婦と同等のレベルまでできるほどに改善された。
だが、それ以上の行為をする事ができない。
時間をかければ改善の見込みはある。
今までの様子からそう期待していたが、トラウマの根はこちらの想像以上に深く根付いており、これ以上リハビリを続ける事が彼女の為になるとは思えない。
で、あるならば。
「…アイビスの受け入れ先を探す必要があるな」
毎年の事だ。一応受け入れ先の目処はつけているものの、少女の状態によって状況は大きく変わる。
そして今回は…
「アイビスは計算ができます。それと、今は文字の読み書きの練習をしているようです」
「文字も?計算の練習をしている事は窓から見て知っていたが…そうか、ジュリの持ち込んだ絵本か…ふむ…」
ウルイル様が数字を教えたことでセラが数字や計算に強い興味を持ったという話は聞いていたし、その次の日からセラとアイビスが毎日壁に数字を書いていることも知っていた。遠目にはよく見えないが、恐らく計算しているのだろうとも。
計算ができるのなら受け入れ先は大きく広がるし、そこに文字の読み書きができるのならば…
アイビスはまだ6才。能力だけを見るなら将来性は十分過ぎるほどだ。
しかしそこに"性的なことができない"という項目が1つ加わる事で、需要は大きく激減する。
性的なことができないという事は、将来、子が望めないということだ。
養子に、嫁に、という将来性を見込めなければ、できる事が多くてもやはり受け入れ先は限られてくる。
ましてアイビスは、そもそもが中級娼館に選ばれるような見目の良い少女だ。
無理矢理に、というような下心のありそうな相手だけは避けなければならない。
下手に見てくれがいいだけに扱いずらく、下手な相手を選べない、能力の高い少女。
これは…はぁ。いつにも増して受け入れ先探しに骨が折れそうだ。
……そういえば。
「世話人、計算や文字の練習をしているのは全員か?」
「いえ。最初こそ皆で見ていたようですが、今は多くても数人かと。私の見ている限りではありますが。…聞いておきましょうか?」
「そうか。いや、わざわざ聞かなくてもいい。少し気になっただけだ」
セラとアイビスがあれだけ毎日熱心に壁に向かって勉強しているのだ。
これでもし全員が勉強しているのなら、まず間違いなくセラが魔性を持っている事になっただろう。
だが、結果はそうではない。
セラが魔性を持っているなど、やはりただの杞憂だったようだ。




