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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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お膝の上は特等席

リアルが忙しくて更新遅くなりました。

手を止めないようにしなければ…!!

 春のお客様ラッシュはあっという間に過ぎていった。


 世話人が言っていたように怖いお客様が来ることもなく、イリスもエミリーもリクポンも、みんな元気に春を越すことができて一安心だ。


 ジュリの務めている娼館もこの時期は忙しいらしく、一月ほど会えない日々が続いた。


 次に泊まりに来た時、以前の様にボロボロになっていたらどうしよう。


 そんな不安は杞憂に終わり、戻ってきたジュリは少しスキンシップが激しかったものの、例年ジンムカ様のみを相手にしてきた春とは違い、沢山の客から様々な話を聞くことができて楽しかったと、色々話して聞かせてくれた。


 楽しい話が沢山あったが、その中にひとつ、気になるものが…


「地方の領主様が孤児院から子どもを攫おうとしたんですって」

「えっ…」


 孤児院の子どもに手を出したら犯罪、それも終身刑とかの重罪だったはずだ。


「お貴族様が重罪を犯すなんてもうずっとなかったみたいで、どうしようってお城中が大騒ぎになったらしいわ」


 ………あれ??


 孤児院から、子どもを??


 …そういえば今年の春は、孤児院から来たばかりの子どもばかりを狙う変態貴族が来なかったような…


「…もしかして…」

「ええ…名前は出なかったけど、たぶんモーラス様だと思う。今年は小鹿亭にモーラス様は来なかったのよね?」


 ジュリもその話を聞いた時、真っ先にモーラスのクソ野郎の事だと思い当たったようだ。


「うん!!みんなうれしそうだった!!」


 今年は誰も怪我することなく、みんなで和気あいあいと賑やかな春を過ごすことができた。


 不安の原因である汚客様が不祥事を起こしてくれたおかげで、僕たちは平和に過ごすことができたんだな。


 因果横暴だ。ざまあみろ。


 そこまで考えたところで、攫われた子の事を思い出し不安が押し寄せてきた。その子は無事なのだろうか。


「…さらわれちゃったこは、だいじょぶだったの??」

「…セラは本当に優しい子ね…食べちゃいたいくらい」


 ジュリを縛るロープがギシリと音を上げ、ジュリは僕に寄りかかりながら頬ずりしてくる。


 もしかしたら僕を押し倒そうとしたのかもしれないが、天井に繋がっているロープはジュリがベットの端にギリギリ寝転がれるくらいの長さに調節されているのだ。


 おかげで前よりも押しつぶされて窒息しそうになる回数が随分と減った。


「…その子も大丈夫だったって聞いたわ。あまり領民の人たちに好かれていない領主様だったみたいで、その場にいた人たちみんなで領主様を追い返したそうよ」


 領民に追い返される領主って…なんでそんな人が領主になってしまったんだ。世襲制らしいけど…もう少しマシな人は居なかったのかな…


「りょうしゅさま、おこらなかったの?」


 ちょっとマヌケな話だが、いくら性格が悪くとも権力だけはあるはず。


 ましてや自分の領地なのだから、いくらでも悪さできるものではないのだろうか?


「ううん、すっごく怒ったみたい」


 そりゃあそうか。しかし、ジュリの話は「でもね」と続いた。


「領民だけじゃなくて、そこで働いてる使用人たちも一緒になって『領主様は間違ってる。おかしい!!』って怒って、領主様をお屋敷に閉じ込めちゃったんですって!!その話が王様にまで伝わって、その領主様はとっても怒られたそうよ。王都には毎年春に貴族が全員集まるんだけど、しばらく領地から出て来ないようにって言われたらしいわ」


 うわぁ…全員集まるはずのその中に1人だけ居ないって…それじゃあいくら名前を隠していても、誰が起こした事件かバレバレなのでは?


 …もしくは、それ自体が罰なのかな。


 まぁ僕には関係ないか。


 今年だけとは言わず、数年、願わくば一生領地で謹慎していてほしいな。




「そうだった!!ねぇセラ。今日はプレゼントを持ってきたの。なんだと思う?」


 プレゼント??なんだろう…ジュリに何かを欲しいと言った記憶もないし…


 プレゼントといったら、ジュリにとっては衣装や装飾品だろうか?ジンムカ様からもらったプレゼントをとても大切にしていたし。


 でも僕が衣装や装飾品にあまり興味を示していないのはジュリも知っているはずだ。


 うーん…ジュリはきっと僕が喜びそうなものを選んでくれたんだろうし…今まで僕は何で喜んできたっけ…


 嬉しい…楽しい…喜んだ記憶…


 ………


 …ダメだ。


 いくら思い返しても、お風呂と果物とバカ鳥の事くらいしか思い出せない。


 お風呂は無いとして、バカ鳥も季節じゃない。


 つまり、果物だろうか?


 甘くて瑞々しいアッポの実を思い出し、自然とヨダレが口内に溢れてくる。


「フルーツ!!」

「ふふふっ、セラは食いしん坊さんね。でもごめんなさい、フルーツじゃないの。今度買ってきてあげるわね」


 どうやらフルーツではなかったらしい。


 甘くて美味しい未知のフルーツへの期待で膨らんでいた胸は、まるでフォークで突つかれたように急激に萎んでいった。


 …そんなに食い意地張ってるように見えるのかな。僕は食いしん坊じゃないやい。


「そんなにむくれないで?からかってごめんね…うぅ、むーってしてるセラも可愛すぎるよぉ…」


 口では謝りつつも、はぁはぁと嬉しそうに頬ずりするジュリを受け入れつつ…


「…プレゼント、なにをもってきてくれたの??」


 あまりジュリに好き勝手させていると、どんどんエスカレートしてしまう。


 かといってジュリの届かない場所に離れすぎたり、素っ気ない態度をとっていると…それはそれで、後から恐ろしいことになってしまうのだ。


 適度に受け入れつつ、好き勝手にさせすぎないように舵取りしながら過ごすのはなかなかに骨が折れる。


 …が、しかしそれでジュリが心身ともに健康に過ごすことができるなら、この苦労も安いものである。


「そうそう、プレゼントだったわね。あっちの扉の方に包みがあるから、持ってきてくれるかしら」

「うん!」


 お客様が出入りするほうの扉に向かってみると、荷物置きの棚に薄っぺたい包みがひとつ。


 持ち上げるとふにゃんと形を変えるこれは…服…にしては固めだし、紙かな??


「ジュリー、これなにー??」

「ふふっ。とってもいいものよ。セラ、お膝の上に来て?」


 ジュリの膝の上は危険がいっぱいだ。


 モチモチとした座り心地に、ふわふわとした首かけが甘い香りを放ち僕を虜にしようと誘ってくる。


 普段なら最大限に警戒するところだが…ジュリの声色的に今回はそういった意図はなさそうな気がする。


 両手も後ろ手に縛られてるし…大丈夫だよね??


 うんしょと膝の上に失礼する。やはりジュリの膝の上はモチモチで最高の座り心地だ。


「ねっ、早く包みを開けてみて?」


 ジュリの楽しそうな様子に、僕も少しワクワクしてしまう。


 一体何を持ってきてくれたんだろう??


 包みを開けてみると…


「わぁ!!えほん!?」

「そう!!セラは絵本を見たことがなかったでしょう??」


 なんと、ジュリが持ってきてくれたのは数冊の薄い絵本だった。


 1冊目の表紙には知らない文字の他に、イケメンの青年が可愛らしい少女の手を取りお城を指差している様子が描かれている。


 本というより紙の束を紐で括った冊子のようなもので、薄く色が塗ってあるのを見るに…手作りなのかな??


「これ、ジュリがかいたの??」

「ふふっ、まさか。雌鹿邸に絵を描くのが大好きな子がいてね、その子にお願いして描いてもらったの。本当は孤児院にあった絵本を用意してあげたかったんだけど…本って思ってたよりずっとずっと高いのね。びっくりしちゃった」


 本は高いのかぁ…世話人に絵本をお願いしたことはあるけど、その時は却下されてしまったのだ。


 この絵本に使われている紙は植物紙っぽいけど、絵本が高いということは、この世界では製紙産業がまだまだ発展途上なんだろうな。


 っと、いけないいけない。そういう事を考えるのは後でいいか。


 これでやっと念願のこの世界の文字が練習できる。


「ジュリありがと!!」

「あ〜〜可愛いぃぃ…はぁ…はぁ…読んであげるから絵本を開いてみて??」


 ジュリは鼻息を荒くしながらも、案外しっかり絵本を読み聞かせてくれた。


「お膝の上は特等席なの。孤児院では先生のお膝の上はいっつもみんなで取り合いになって…ふふっ、結局取り合いしてる子はみんな怒られて、大人しくしてた子がお膝の上に乗せてもらえるの。私のお膝の上はセラが一人占めね」


 懐かしそうに話すジュリはどっちだったんだろう?


 大人しくしてた子の方かな?…意外と取り合いしてる子の方だったりして。



 それからは日中の算数の勉強に、文字の読み書きが加わった。


 みんなジュリが持ってきてくれた絵本に大喜びだった。


 普通に声に出して読んでいるので文字が読めるのかとびっくりしたけど、どうやら僕の早とちりだったらしい。


 みんなちょっとずつ話す内容が違うので、どうやら孤児院で読み聞かせてくれた内容を覚えていて、雰囲気で読んでいるだけだったようだ。


 それでも凄いけどね。


 そして…


「『ぬ』はこう…」

「それ『め』じゃなかった?」

「これは『ぬ』だよ。『め』はこっち」

「うぬぬぬぬ…なんで、にたもじがおおいのよ!!」

「ねーねー。セラもアイビスもお絵かきしよーよー」

「もじ書くより、お絵かきのほうがたのしいよ?」


 クルカラもオープルも、隣で楽しそうにお絵描きをしている。


「もじもすうじも、できたほうがいいんだよ?」


 確かにお絵描きは楽しい。でも、お勉強も大事なのだ。


 アイビスだけは勉強も頑張ってくれるけど、どうしたら他のみんなにも勉強してもらえるんだろう…


「いいじゃない。クルカラもオープルも、こんなのおぼえなくてもやっていけるんだから」


 アイビスの一言にドキリとする。


 何も負の感情が入っていない様な、純粋な呟き。


『こんなの』といいながらも、自分には必要かもしれないからと頑張るアイビスの真剣な横顔を見るのが少し心苦しかった。

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