凄くスムーズに入ったけど…
優しく頭を撫でられているのも悪くはないが、このまま身を任せていては危うく寝かしつけられてしまいそうだ。
次いつウィルが来るか分からないし、気が付いた時には帰ってましたなんて事だけは避けなければならない。
まだ魔法について全然教えて貰っていないんだ。
「もうまほうつかえる?」
「…少し色が違ったから、それを直したら、あとは練習あるのみだね。休憩はもういい?」
「やった!!うん!!」
どうやら少し色が違ったらしい。
前に1回教えてもらっただけだし、当たり前といえば当たり前か。
道理で魔力を外に出せるようになってから「みずでろ〜みずでろ〜」なんてやってみても水が出てこなかったはずだ。
やり方が合っていたのかは知らないが、色を合わせた後はイメージすれば魔法が使えるって言ってた気がするし、そこら辺もこれから教えてくれるに違いない。
「それじゃあ魔力を流すけど、気持ち悪かったり、変だと思ったらすぐに教えてね」
ウィルは僕のみぞおちの辺りに手を添え、青色にした魔力をゆっくりと流し込んでくる。
ジュリから流れ込んでくる魔力を思い出して少し身構えてしまったが、ウィルの魔力はジュリのとは違い、ふんわりと優しい感覚が伝わってきた。
「凄くスムーズに入ったけど…もしかして、色を合わせてくれてた?」
「わかるの?」
「うん…前回と違って全然抵抗がなかったから驚いたよ」
今回は事前に体内の魔力を青色に合わせていたおかげか、ウィルに初めてしてもらった時のような気持ち悪さや違和感が全くない。
…確かに、僕が練習してきた色と少し違うな。
ウィルの流してくれる魔力に合わせ、身体の中の魔力の色を調整していく。
………
…うん、この色だ。身体の中を動かすのも…問題ないな。
「ウィル、このいろであってる?」
僕は身体に満たした青色の魔力を左の手のひらに集め、ウィルに差し出した。
「ん?…もしかして、もう合わせたのかい??」
「うん!!さわってみて??」
「う、うん…っ!?…こ、この色だよ!!セラ!!」
もう合わせたのかと驚いていたが、僕の手を取ってさらに驚いていた。少し興奮しているのか、鼻息を荒くしている姿がすこし笑いを誘って来て困る。
そこまで驚くことだろうか?と思いつつも、毎日の練習が実を結んだことは素直に嬉しいし、こんなに驚いているのを見ると頑張った甲斐があるというものだ。
「いっぱい、れんしゅうしたからね!」
ふんすっ!と胸を反らす僕の頭を少し強めにくしゃくしゃ撫でた後、ウィルが本格的に魔法の使い方を教えてくれた。
「いいかい、魔法はイメージだ。何を生み出したいか、何をしたいか、明確にイメージしなくちゃいけない」
「おみずだすときは?」
「水を出す時は水をイメージするんだけど…セラはお水がどんなものか思い出せるかな?」
水が…どんなもの…??
水は水じゃないのか??H2Oとかそういう詳細を聞いてるとか…なわけ無いか。
「ちょっと難しい質問だったかな、ごめんね。水は比較的簡単なんだ。火と違って、直接触れるからね」
あまりに抽象的な質問になんて答えたらいいか考えていると、ウィルは笑いながら水の玉を目の前に浮かせて見せてくれた。
「触ってみて?」
ウィルに促されるまま、両手で包み込むように水の玉を触る。
ひんやりしていて、表面はツヤツヤ。見る角度によっては光を反射し、透き通っている液体。
うん。大きい水玉はふつう宙に浮いていないということを除けば、水ってこんな感じだよね。
「水がどんなものか感じて、しっかり覚えるんだ。そして覚えたら、青色の魔力を放出しながら"この魔力は水だ"って強くイメージする。すると、本当に魔力が水になるんだ」
そ、そうなのか??説明を聞く限りものすごく胡散臭いんだけど…
い、いや、ここは前世の地球じゃないんだ。その証拠に、以前は全く感じることのできなかった魔力もある。
友達やテレビに向かって両手を突き出し「はぁー!!!」なんてやっても何も起きなかった地球とは違う…違うんだ…違うといいなぁ…これが盛大なドッキリじゃない事を願うばかりだよ…
少し前世の黒歴史を思い出しナーバスな気分になってしまったが、ウィルとの時間を無駄にする訳にはいかない。
僕は自分の手を見つめながら、青色に変えた魔力を手のひらに集めていく。
ウィルの作ってくれた水玉を触ったことで濡れたままの手は、空気に触れて少しひんやりとした感覚を伝えてくる。
…手のひらから染み出している魔力が…水になるイメージ…
…さっき触った水玉を…強く思い出して…
…水…水…水……??
「水は動いて、流れていくんだ。魔力も同じ。触れば動き、押せば揺れて、押し出すと流れていく。魔力は流れ、水も流れる」
…水も…魔力と同じ…
確かに似ているかもしれない。
身体の中を動く魔力は、水のようだと表現できる…気もする。
魔力は水…流れて…手から…染み出している魔力は…手から染み出しているのは…水……水………
「っっ!?!?」
その瞬間、手から水が湧き出し、溢れた。
その水は僕の足とウィルの足を濡らし、ソファに濡れた染みを作る。
「…!?……!?!?……」
突然湧き出た………いや、"イメージした通り"に湧き出た水に、僕は混乱していた。
水が出たのは一瞬だけ。
コップ一杯分もなかったが、強くイメージした通りに手のひらから魔力…ではなく水が溢れ、そのまま重力に従ってこぼれ落ちた。
一瞬しか出なかったのは、驚いて集中を切らしたからだろう。
…しかし…
「お、お、お、おみっ、おみっず……!?!?」
頭の中に現状を冷静に分析している自分と、驚きすぎてパニックになっている自分がいる。
身体は正直であまりにも動揺しすぎて口から出た言葉はどもってしまっているが、こればかりは仕方がない。
だって魔法だ。
僕が、魔法を使ったのだ。
………
うえぇぇぇ!?マジか!?!?マジだ!!!!すげぇ!?!?マジで出た!!!!どうなってんの!?!?
僕の中の冷静な部分が現状を詳しく分析した結果、遅れて混乱の極みに達し、頭の中を様々な感情が駆け巡る。
…そうか…僕はこれ程までに魔法というものに憧れていたのか…
あまりの感動に口をパクパクさせながら、この感動をどう表現したらいいのかわからないまま、とりあえず魔法を教えてくれた恩人であるウィルに報告しようと顔を向けると…ウィルは静かに涙を流していた。
「うぃ、る…??」
「…ごめっ…すごい…すごいよ…セラ…本当に…すごい…すごいんだ…ごめん…へ、変だな…涙が出ちゃって…」
なんで…そんなに泣いてるんだ…??
泣いて謝りながらぎゅうっと強く抱きしめてくるウィルからは、普段とは少し違う感じがした。
…ウィルも何か、悲しみや後悔を抱えているんだろうな。
失敗のない人生なんかない。自分の思い通りになんかならないし、望んでいない悲劇だって幾らでも起こるものだ。
「だいじょーぶ。だいじょーぶよ。もうだいじょーぶだからねー」
ウィルが僕をぎゅっと抱きしめるのから解放してくれたので、今度は僕がウィルの頭を抱えて背中をトントンしてあげる。
僕が悪夢に魘されて泣いてしまった時や、怪我をした時にいつもジュリがやってくれた、大丈夫のかけ声。
何が大丈夫なのかわからない。けれど、心が揺れる何かを思い出してしまったのだろうから。
少しでもウィルの心が晴れるといいな。
その後、落ち着くのを待ってから赤色の魔力も確認してもらった所、ウィルは更に驚いていた。
一瞬今日はもう魔法の話はこれまでにしようかとも思ったのだが、次にいつウィルに会えるかわからない。
なので正確な赤色の魔力も知っておきたかったのだ。
ただ赤色の魔力は教えて貰えたものの、火の魔法は見せてくれなかったし、使ってはいけないと釘を刺されてしまった。
「火はとても危ないんだ。火で火傷すれば一生痕が消えないし、火事だって起こるかもしれない」
前回来た時は気軽に(ウィルは一瞬で力尽きていたが)見せてくれたのに、もうとにかく危ないからダメだとコンコンと説明を受けることになってしまった。
要約すると、もう少し大人になったらね、との事らしい。
そりゃそうか…僕の身体はまだ6才だったのだ。忘れてたよ。
そうしてひとしきり魔法の話で盛り上がり、街の様子や仕事の話を聞いていると終了を知らせるブザーが鳴ってしまった。
楽しい時間はどうして過ぎるのが早いんだろう。
「そういえば髪型が変わってるな。ウルイル様にやってもらったのか?」
髪型??
…そういえば途中でウィルに髪型を直してもらったんだっけ。
「ぐしゃぐしゃなったから、なおしてもらった!」
「ぐしゃぐしゃ?何かあったのか?」
「おくち…あっ!!なっ、なんでもない!!ねっころがったら、ぐしゃぐしゃなっちゃっただけ!!」
火傷でまだほんのちょっぴりだけ痛い口に手を当てようとして、慌てて止めた。
世話人が怪訝そうな顔で聞いてきたのでうっかり口を滑らせそうになったが、美味しそうな紅茶の玉にかぶりついて火傷したなんて恥ずかしいし、問題になったら困る。
暴力客は貴族なら断れないが、一般の客なら断ることができるみたいだし…ウィルが来れなくなったら僕が困ってしまう。
世話人には悪いが、火傷したことは僕とウィルだけの秘密なのだ。
「せわびとにはないしょー。ねっ」
「うっ…えっと…その…へ、変なことは何もしてないですよ!?」
ウィルがあたふたしているが、まぁ子どもに火傷を負わせたなんて言えないし、なにより言わない約束もしたのだ。
お互いのために助け舟をだしてあげよう。
「せわびと、ウィル、やさしかったよ?セラはだいじょぶ」
「…セラはこの部屋で少し待っていなさい。…ウルイル様、お帰りはあちらです」
「あの、変なことは!!何もよからぬ事は、してなくて…!!…本当なんです…信じて下さい…」
世話人は複雑そうな表情で僕の頭を優しく撫でると、少し怖い顔で項垂れるウィルを連れて行ってしまった。
まったくもう。ちょっと口を滑らせてしまった僕も悪いけど、ウィルも黙ってれば僕が火傷したことなんてバレないんだし堂々としていればいいのに。
ウィルは心配性すぎるし、世話人は過保護すぎる。
あの様子じゃ、口を割るのも時間の問題かもしれないな。




