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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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あっと言わせてやるからな!!

「ウィル!!」

「セラ。久しぶりだね」



 シアノ達12才組が出ていくまであと3日。


 そんな時にやって来たのがウルイルこと、水系統の魔法使いであるウィルだ。


 今日はシアノもお客様に呼ばれており、そちらはウィルの友達で火系統の魔法使いらしい。


 前回ウィルが来た時も一緒に来た人のようだ。


「セラ、お行儀よくな。ウルイル様、御用の際やお帰りの際はあちらのベルでお知らせください。すぐに参ります」


 今日も世話人は無駄に洗練されたお辞儀を披露し、スっと部屋から出ていった。


 普段の無遠慮さからは到底想像もできない品の良さに、思わずクスリと笑いが込み上げてくる。


「ふふっ」

「なにか楽しいことでもあったのかな?」

「ううん、なんでもない!それよりまほう!みたい!!」


 兎にも角にも魔法だ。


 僕の目の前には本物の魔法使いがいるのだ。


 前世ではどんなに願っても、念を込めても、ぐぬぬと唸り月に吠えても存在を感じられなかった魔力が、魔法が、目の前に存在している。


 向き合わねばならない問題が山詰みだとしても、それとこれとはちょっと話が違うのだ。


 なにより今は、打開策に行き詰まっているからね…決して現実逃避として趣味に走ろうとしているわけではない。断じてだ。



「いいけど…どんな魔法がいいかな?今日は紅茶を浮かせようと思ってたんだけど…」

「こうちゃ!!」


 なん…だと…!?


 そういう事なら任せてほしい。紅茶を淹れるのは得意だ!!


「こうちゃいれる!!」

「ありがとう。僕も手伝うよ」

「ウィルは、セラがちゃんとできるかみててー」


 ウィルは前に僕が紅茶をこぼして火傷してしまった事を気にしているらしい。


 僕だってあれから紅茶の淹れ方をちゃんと教わったし、ジュリの時もちゃんとできた。


 紅茶を淹れることくらいおちゃのこさいさいだ。


 …ジュリの時…か。


「…ねぇウィル。まほうつかいじゃないひとからも、まりょくがはいってくるの??」

「魔力が入ってくる?…えーっと…どういう事だろう…」


 僕は前にウィルに魔力の青や赤の色を流し込んでもらったことと、他のお客様からそれとは違う魔力が流れ込んできた事を説明した。


「…魔力を流し込むのは加減を間違うと大変なことになるんだ。魔法使いなら誰もが知っていることだし、安易にそんなことをする訳がない…いや、覚えたてで制御が上手くできてないとか…そんな訳ないか。そもそも魔力を放出すること事態が簡単じゃない」


 僕への説明は最初だけで、ウィルはあっという間に自分の世界へと旅立っていってしまった…


 ブツブツ呟いているウィルの言葉の欠片から察するに、どうやら魔力を相手に流し込む行為は結構危険なことだったらしい。


 僕はウィルにやってもらったけど…確かに青色の時は優しくて不快感はなかったが、赤色の時はウィルの適正と違うとかでぐわんぐわんと身体の中が揺さぶられ、とても気持ち悪い思いをした。


「ああごめん、放っておいちゃったね…セラが知らなかっただけで、その人も魔法使いだったとかはないかな?」


 ジュリが魔法使いの可能性…は、無いだろうな。


 魔法を見せてもらったと言った時、ジュリは魔法をまだ見た事がないって言ってたんだから。


「そのひとは、まほうみたことないっていってた」

「そうか…じぁあやはり無意識に魔力を…??…聞いたことないな…」


 魔法使いのウィルでもわからないなら、僕にはもうお手上げだ。


 帰ったら知り合いの魔法使いにも聞いてみてくれるそうなので、次にウィルが来てくれた時には何かわかるかもしれないな。


 そうこうしているうちに紅茶が美味しくできあがり、早速ウィルに浮かべてもらった小さな紅茶の玉を勢いよく食べた僕は、口の中を盛大に火傷した。



 宙に浮いていようとも、熱いものは熱いのだ。


 次からは気を付けよう…


 ………


 ……


 …



しぇあもえ(セラもね)わりょふ(まりょく)()いお(いろ)ふへへふおー(つけれるよー)ふぃ()やっは(なった)!!(!!)

「うんうん。もうちょっと口の中冷やしておこうね」


 口の中でコロコロと転がる氷が冷たくて美味しい。


 僕はウィルに長い髪の左右を三つ編みにしてもらいながら、器用だなぁと感心しつつもウィルの適当な返事にちょっとムスッとしてしまう。



 なんと今回、ウィルは前まで使えなかった氷を作りだす魔法を習得してきたらしい。


 前回僕が火傷してしまった事をどうやら相当気にしていたらしく、寝る間も惜しんで特訓してきたのだとか。



「…また火傷させてしまうなんて…ごめん…ごめんね…」


 口内の激しい痛みに地面を転がっている僕に氷を差し出しながら項垂れるウィルを宥めるのは、正直大変だった。


 口のなか痛いし。


 そんなに気を落とさなくてもいいのにな…ちょっと大袈裟すぎない?と思いながらどうにかこうにかソファに誘導し、膝の間におしりをねじ込んで乱れてしまった髪型を直してとダダをこねることで、落ち込んでしまったウィルのメンタルを修復することになんとか成功したのだ。



 さっき僕が紅茶を淹れる時もいつでも助けに入れるよう気を使ってくれていたし、ウィルにとって火傷が若干トラウマになっているのかもしれないなぁ。


 ………


 …いつまで髪を撫でてるんだろう。魔法のこと知りたいんだけど…もうそろそろいいかな?氷も溶けちゃったし。


「きれいに、なおった?」

「………」

「…ウィル?」

「…あっ、ごめんごめん、なに?」

「かみきれいになったから、もうだいじょぶ!」


 もう大丈夫ですか?と聞いたら、まだですよ、と返されてしまうかもしれない。


 それでは話が一向に進まないので、良くてもまだでももう大丈夫という事にしよう。


 お客様はウィルだけだ。多少乱れてても問題ないだろう。


 それにしても…魔法や美味しそうな紅茶の水玉にテンションが上がっていたとはいえ、年甲斐もなくかぶりついて火傷したとか…人生の積み重ねの一切を生かせてなさ過ぎて恥ずかしい…


「…ウィル…セラがやけどしちゃったの、みんなにはないしょにして…」

「内緒…いいけど、どうして?一応言っておいた方がよくないかな…」

「…はずかしいから」


 おのれ。みなまで言わせないでほしい。


 小っ恥ずかしさとウィルの察せなさに思わず睨みつけてしまったが、なにやら可愛いものを見るような目をされてしまった。


 くそう。



 …まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。そんなことは、どうでも!!


「ウィル!!」


 そ・れ・よ・り・も!!!


「セラね、まりょくのいろ、かえれるようになった!!」


 僕は魔力の色を変えられるようになったのだ。


 毎日欠かさず練習してきたし、最近は色を維持しながら身体の中を移動させる練習もしている。


 つまり。


「まほう、どうやるの!!」


 色を合わせる、身体の中で動かす。それはできるようになった。


 魔力を外に出すのも練習中で、少しだけどふよふよ出せている…はず。


 つまり、魔法を使うための最低条件を既に僕は満たしているはずなのだ。


 …しかし。


「セラ、前も言ったけど魔法はすっごくすっごく練習しないと使えるようにならないんだよ。早く使いたい気持ちはわかるけど、焦らず練習していくしかないんだ」


 ウィルはまるで聞き分けのない子どもをあやすかのように優しい声で、僕の頭を撫でてくる。


 これは…僕の言ってることをまるで信じてないな…


「ほんとにできるようになったの!」

「うんうん。頑張れてすごいぞ」


 ぐぬぬぬ…


 どうしたら信じてくれるんだ?魔力なんて目に見えないし…手の表面に纏わせて触れば、ウィルにも魔力の色が伝わったりするんだろうか?


「まりょくのいろ、どうやってあってるかみるの?」

「正しい色になってるかってこと?」


 ブンブンと首を縦に振って肯定する。


 できるのに信じてくれないと言うならば、実際にやって見せて、わからせてやるしかないのだ。


 僕は本気だぞ!!


「そうだね…一般的には師匠に、教えてくれる人に魔力を触ってもらうんだ」

「さわる??どうやって??」

「魔法を使うためには、魔力を外に放出…外に出なくちゃいけないんだ。魔法を使いたい場所に魔力を集めて塊をつくる。その魔力に触ってもらうんだよ。相手の身体に直接流し込むのは危ないし、最初のうちは威力を調整できないからね」


 ふーむ…魔力を放出して、それを触ってもらうのか。


 塊…塊を作るのは…まだできてないような気がするんだよなぁ…


「まりょく、てにくっつけるのじゃだめ??」

「手に?」

「うん。ここにまりょくくっつけるから、さわってみて?」


 左手の人差し指で右手の手のひらに円を描く。


 空気中に魔力を放出して留めるのはまだ難しいけれど…身体に纏わせたままならば、形を多少は保っていられるようになったのだ。


「えーっと…わかった。セラの魔力を見てあげるね」

「…ちょっとまってね…」


 今に見てろよ…そのしょうがないなぁという顔を、あっと言わせてやるからな!!


 身体の中、みぞおちのあたりにある魔力を、僕の元々の魔力の色である限りなく黒に近い紫から、ウィルに教えてもらった青色に変化させる。


 そして、それを右手の方へ移動させていき、手のひらの内側へ、そこから手のひらの外に染み出すように…手のひらに纏わせるように。手の内側から外側に魔力を押し出すように動かしていく。


 魔力を身体の外に出すのはまだかなり集中しないといけないけれど、ジュリがたまに暴走気味になった時に死ぬ気で抵抗をするおかげもあり、魔力の色を変化させる事と、身体の中を移動させることはかなりスムーズにできるようになったのだ。


「…いいよ…さわって…」


 声を出すと手のひらに纏わせた魔力が散り散りになりそうになる。


 まだまだ練習が必要な証だ。


 ウィルは躊躇いがちに、僕の手のひらに自身の手のひらを重ねるようゆっくり近付けていき…


「ッ!?」


 手が触れそうな距離に近付いた所で僕の魔力を感じ取れたのか、目を見開いて息を飲むと、ウィルはそのまま固まってしまった。


 ………


 5秒…10秒……20秒……30秒…


 ………


 くっ…もう…限界だ…


「ふはぁ…はぁ…はぁ…」


 恐らく1分くらいは保つ事ができたと思うが、集中力が続かなくて魔力の放出が途切れてしまった。


 魔力の色を変えたり動かしたりするのは問題ないが、放出するのは妙に疲れる。


 そしてただ放出し続けるだけならまだマシで、その場に留めようとするのがこれまた難しい。


 頭が疲れるのもそうだし、放出した後に感じる妙な虚脱感は身体の中の魔力を放出した事によるものなのだろう。


 魔力はまだまだ残っているが、確かに身体に満ちていたものが少なくなっているのがなんとなく感覚でわかる。



 …さて…


 どうだ!?ちゃんと魔力の色も、放出だってできてただろう!!


「ふぅ…ふぅ…ど、どう??セラ、できてた??」

「…あ、ああ…信じられない…」


 疲れきった僕とは対照的に、ウィルは放心状態のように驚いた顔でその場で固まってしまっている。


 そんなに驚くことなんだろうか。


 でもウィルの反応を見る限り、これで合っているようだ。良かった。


 あー、疲れたぁ。


 緊張の糸がほどけ、一気に疲れが襲ってくる。


 このまま横になりたい気分だが、生憎ここはウィルの膝の間だ。横になれない代わりにウィルにもたれ掛かることにした。


 ぐでー。


「…疲れちゃった?」


 見てわからない?めちゃくちゃ疲れちゃったよ…


「…ちかれた」

「ふふっ、そっか。頑張ったもんね…本当に凄いよ…」


 僕の頭を柔らかく撫でるウィルの顔付きは優しく、しかし、何処かなにかを思い出しているような遠い目をしていた。

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