ジュリがくる!!
アッポも収穫の時期を迎え、みんなで毎日わいわいと収穫をする。
今年も赤い実を咥えて飛び立つバカ鳥が美味しそうに太ってきた頃…
「…セラ、クルカラ。話がある。片付けたら食堂に残っていてくれ」
今朝もアッポとビグルミをいくつも収穫し、「なぜお昼ご飯にはフルーツがつかないのか」と毎度のように愚痴をこぼしながら僕たちが食器を片付けに行くと、何やら思い詰めた様子の世話人が声をかけてきた。
………
またか。またなのか。世話人が食後に呼び止めてくる時は本当にろくな事がない。
今回もきっと例に漏れず、また客の相手だとか言い出すんだろう。
しかも世話人の暗い表情を見る限り、今回の客はいい相手じゃなさそうだ。
…それにしても、クルカラも?どういう事だ??
………
……
…
「ジュリがくる!!どうしよう!!」
世話人との話が終わったあと、クルカラはなぜか混乱したかのように…狂乱と言った方が正しいか?涙目になりながら、とにかく目についた少女たちみんなに抱きついてどうしようと聞き回っている。
おかしくなってしまったクルカラを放っておくわけにもいかず、僕もドタドタと走り回るクルカラについて回っているが…なぜ…
なぜみんな、そんな暗い表情になるんだ…??
なぜ黙る??
ジュリだよ??去年まで一緒に暮らしてたじゃないか。みんな仲良かったよね??
…あれ??
仲がいいように感じていたのは僕だけで、僕の知らないところでは、みんなジュリの事を疎んでいたのか??
クルカラが声をかけるたび、少女たちが暗い顔で押し黙るたびに、僕がここでみんなと過ごしてきた思い出が否定されていくような気がした。
ジュリが来るのは明日の昼。
今までは遅くても2週間ほど前に言われていたため、あまりに急な話で驚いてしまったが、どうやら世話人がわざと伝えるのを遅らせていたらしい。
「相手をする事実は変えられないが、不安に思う時間は減らせるだろう」
…との事だ。
その気遣いになんの意味があるのか。
その時はさっぱりわからなかったが、クルカラやみんなの様子を見る限り、世話人の判断は間違っていなかったのかもしれない。
その日の夜ご飯はデザートにアッポもビグルミも出たけれど、全然美味しくない。
いつも聞こえるはずのおしゃべりや笑い声も聞こえず、木製の食器がカタカタと鳴る音だけ。
これじゃあまるでお通夜のようだ。
………
「…セラ。わたしのアッポ、1こあげる」
「えっ?」
突然、オープルが僕にアッポを1つ分けてくれると言い出した。それに続くように、私も私もと周りの子たちがお皿を持って集まってくる。
デザートが増えるのは嬉しいが、ちょっと待ってほしい。
「ま、まってまって!こんなに、たべられないよ!?」
「食べたい分だけ食べていいよ!」
「遠慮しないで」
「食べさせてあげよっか〜」
「あ!ずるい!ほらセラ、こっち!あーんしてー?」
きゅ、急になんだ!?
さっきまでシーンと静かだったのに、突然やいのやいのと騒がしくなった。
あまりの展開に理解が追いついていないが、一つだけハッキリしていることがある。
「みんな、きょう、へん!!」
僕の叫びに、再びみんなが黙ってしまう。
…なんなんだ。
「みんな…へんだよ…」
「だって…ッ…」
だって、と言って再び黙ってしまうクルカラ。
………
「みんな、ジュリのこと、きらいなの?」
日中ずっともやもやしていて、でもみんなの様子がおかしくて、聞けなかった。
「…きらいじゃないよ」
「ッ!!…じゃあどうして…ジュリがくるって!!みんなっ…うれしくないかおするの!!」
みんなジュリが来ると聞いて顔を曇らせ、言葉を詰まらせていた。誰もジュリが来ることを喜ばなかった。
「それはっ」
「セラは、ジュリとあえるのうれしいのに!!みんな、うれしくないかおする!!…なんで…」
改めて言葉にしたら涙が出てきた。
あんなにみんな、仲が良かったのに。
今日ずっと、みんながどう思っているのか聞くのが怖かった。
本当はみんな仲なんかよくなくて、上辺だけで仲がいいように取り繕っていただけなんじゃないか。
「…セラは…ジュリのこと…だいすきなのに…」
僕が感じてきた暖かな気持ちは、みんなと過ごした1年は、全部全部、紛い物だったんじゃないか。
「…なんで…」
どうしてみんな、そんなに不安そうな顔をしているんだ。
悲しい。悔しい。感情がぐちゃぐちゃで涙が止まらない僕の両肩を誰かがグッと掴む。
顔を上げると、そこにはいつも無表情のシアノが、少し険しい顔をして立っていた。
「セラ、聞いてください。私たちは誰もジュリのことを嫌っていませんよ」
「でもっ」
「私たちはセラ、あなたのことが心配なんです」
「セラの、こと…??」
意味がわからない。先日ウィルが来た時は心配なんてしてなかったじゃないか。
「セラは…気が付かなかったのかもしれませんが。ジュリはあなたの事になると、その…人が、変わるのです」
突然何を言い出すのかと思えば…
それは…周知の事実なのでは…??
とても気まずそうにしながら出てきた言葉に、おもわずポカーンとしてしまう。
「ジュリはもう長い間、セラに会っていません。毎日一緒にいてもあのような様子だった彼女が…久々にあなたと会うんです。どんな恐ろしい事になるか。私たちはそれが不安で不安で仕方がないのです」
長い間、だなんて大げさな。確かに半年も会っていないけど、言い換えれば、たかが半年だ。
毎晩くすぐられながらの窒息落ちは大変だったが、それはシアノが相手になった今でも大して変わらないわけで…
いや待てよ…よくよく思い返してみると、ジュリの時は何度か死にかけてる…ような…?
…何度か、で済む話だっただろうか。
………
ジュリがちゃんと生きてた。そして遊びに来てくれる。
施設の外に連れていかれた後にどうなったのか、全く分からない状況だったからこそ最悪の想定が頭の片隅にいつもチラついていて、ジュリが生きていたってだけで安心しきってしまった。
が、言われてみれば確かに。
ジュリはたまに暴走する。
………
い、意識したら急に怖くなってきたぞ!?
心なしか、目の前の景色もぐるぐる回っているような…
「ダ、ダイジョブ!!ダイジョブ!!」
「セラ?」
「キニ、シスギ…アハ、アハハ…」
「セラ、しっかりしてください」
「セラがおかしくなっちゃった!?」
「こ、これ!!はい!!アッポたべて!!」
もぐっ!?
何を思ったのか、手元にあるフルーツを僕の口に遠慮なく突っ込んでくるクルカラ。
あ、あまくておいしい…でもジュリが…もごっ!?ちょっ、突っ込まないで!?まだ口の中に…食べてるから…むぐぅ!?
どんどんと底の見えない不安が押し寄せる中、考える暇も無いほどに口の中にねっとりと甘いビグルミと、さっぱり瑞々しいアッポをどんどんと詰め込まれる。
甘い。怖い。美味しい。苦しい。
…あっ、喉につまって…息が…うぐぅ…
美味しいはずのフルーツも、どんどんと遠慮なしに突っ込まれ続けるのは拷問でしかなく…
速攻で喉に詰まらせて、意識は闇の底へと落ちていくのだった。




