ぺろっ。ぺろっ。
ウィルはいつまで笑っているつもりなのか。
全くもって心外だ。
一体全体、いつ僕が食いしん坊ムーブをしたというのか。
思わず頬を膨らませてしまった僕を見て、ウィルが笑いながらごめんごめんと言う。
「いやだって、さっきの紅茶の時も…ふふっ…こぼしちゃった時もすっごく悲しそうにしてたし、飲めるようになった時はすっごく嬉しそうで…今度は水…あははっ!!」
…そう言われてみれば、食いしん坊ムーブをぶちかましていたかもしれない。
飲み物だから呑んべぇムーブか?…それは違うな、うん。
思い当たる節は沢山あったものの、素直に認めるのはすごく癪に障るのでぷいっと横を向いて誤魔化すことにした。
ぷいっ。
「怒らないでっ…ふふっ…ほら、はいどうぞ。魔法で作った水は食べても大丈夫だよ」
そういって目の前に水玉を差し出してくれるが、本当だろうか?
お腹壊したりしない??
「ウィルがたべてみて」
「疑り深いなぁ…はむっ。うん、普通の水だし、井戸の水よりずっと綺麗だから、沸かして消毒しなくても飲めるんだよ。大きな店の行商人が水魔法を習いに来たりするくらいだからね。飲み水にも向いてるんだ」
ウィルがつらつらと説明してくれるが、説明を聞けば聞くほど怪しさが増す。
旅でいちばん大変なのが飲食の確保だというし、魔法とやらで水を出せるなら、そりゃあ重宝するだろうな。
まぁいろいろ疑わしくはあるが、ウィルも食べてたし…飲んでも大丈夫…なのかな??
再び差し出された水玉を、恐る恐る…
ぺろっ。
食べるのは勇気がいるので、とりあえず味見として舐めてみる。
味は…水…かな??
ぺろっ。ぺろっ。
見た目も透き通って綺麗な水の玉で、変な味もしない。大丈夫そうだ。
ぱくっ。
ん!?
「おいしい!!」
「ふふっ、そっかよかった」
無味無臭。少し体温よりひんやりしていて、ミネラルウォーターのような味ではないけれど、変なカルキの味もしない。ただの水。
言うなれば、蒸留水のような感じなのだろうか。
いい匂いと甘い味の付いている紅茶もよかったが、日本人として幼少の頃から慣れ親しんだ『ただの水』は、スープ以外の液体を飲むことが出来ない監禁生活を続けていると改めて美味しく感じるし、前まであった当たり前のありがたさを今更になって痛感する。
水源が綺麗なおかげでいつでも水道を捻れば美味しい水が出てきていたし、学生の頃は山に湧き水を汲みに行ったりもした。
懐かしいなぁ。
「もっといる?」
「っ!!うん!!」
ウィルが指先に出してくれた水玉を、速攻でパクッと食べる。
何度か続けていたが、いちいちぱくぱくするのは面倒になってきた…そうだ!!
僕は口を開けて、自分の口の中を指さす。
「おくひのなかに、だひて??」
「え…えっ!?え、いや…え?」
何故か目を泳がせてキョドキョドし出すウィル。
なんだ?さっさと水をよこすのだ。
「はーやーくー。んー!!」
口をパクパク動かして催促する。
ウィルが意味不明にあたふたしているが、さっさと水を出して欲しい。出し惜しみか??それとも意地悪か??
「いじわるは、いくないー」
口をパクパクさせながらウィルににじり寄る。
…なんかパック〇ンになった気分だ。改めて自分の姿を俯瞰してみると…姿が子どもだからまだいいものの、大の大人がやる事じゃないな…ちょっと恥ずかしくなってきた。
「え、と、ちょっと…そ、そうだ!!水玉をいっぱい並べてあげるよ!!はいっ!!」
何やら焦った感じのウィルが水玉をベットの周りに等間隔で並べだした。
口に出してくれればすぐ味わえるのに…
ウィルのわからず屋加減を少し残念に思ったが、せっかく水玉が浮いているのだ。食べない訳にはいかない!!
宙に浮いた小さい水玉をパクパクと食べながら進んでいく。
1粒ずつ飲み込むのもいいが、口の中に溜めていって大きくなった水を飲み込むのもいい。
最初の1周はベットの周りをくるっと回っただけだったが、その後は部屋のあちこちに列を作る水玉を追いかけてパクパク、ジャンプしてパクッと。
本当のパッ〇マンのように遊ばれている気もするが、美味しいのは正義だ。
ウィルも何だか楽しそうだし、僕も美味しい。
そのまま夢中になって追いかけ、沢山の水玉をお腹いっぱいになるまで頬張るのだった。けっぷ。
………
……
…
チリリン…チリリン…
久々に普通の水をたらふく飲みこみ、お腹も気持ちもいっぱいで大満足の僕がウィルに小鹿亭での出来事や愚痴をこぼしていると、部屋の片隅から可愛らしいベルの音が聞こえてきた。
「すっかり話し込んじゃったね。そろそろ終わりみたいだ」
どうやら終了を知らせるベルらしい。
それから少し話をしているうちに世話人がやってきた。
「セラはとても楽しかったようですね」
世話人が少し安心したような表情をしている。
あれだけ大丈夫だとか心配いらないとか言っていたが、少しは心配してくれていたらしい。
僕も最初は不安でいっぱいだったけど、終わってみたらとても楽しかった。
すごい手品も見られたし、水もお腹いっぱい飲めた。
大満足だ。
「いっぱい、だしてくれた!!」
ギョッとした表情をして、勢いよくウィルの方を見る世話人。
「ち、違います!!ちょっと!?セラ!?」
突然素頓狂な声を上げて両手を横に振るウィル。
…そういえば魔法のことは内緒だったな。
「せわびとには、ないしょー」
「…ウルイル様。お時間ですので外へ」
「違うんです…本当に…信じてください…」
「セラは少しこの部屋で待っていなさい」
ウィルは何故か項垂れながら世話人に連れられて部屋を出ていった。
世話人がいつもより少し怖い顔をしていたのは接客モードだからだろうか?
仮にも客の案内をするのなら、もう少し表情筋を緩めたほうがいいと思うけど。
…まぁどうでもいいか。
世話人は何年もこの仕事をやってるんだろうし、ちょっと怖い顔をしていても問題ないんだろう。
そんなことよりも…
結局ウィルは水を操る装置を使わせてくれなかったな。ちぇっ。
世話人が戻ってくるまでは暇なので、ふかふかのベットに寝転がる。
ああ…いいなぁ…
小屋の布団はシーツの下に藁が敷きつめてあるだけで、ちっともフカフカしていないし、チクチクして寝心地が悪い。
1人1ベットとか贅沢なことは言わないから、せめて床には藁じゃなくて敷布団をひいてほしいものだ。
………
………
………
身体の中に意識を向けると、自分の意思で動かせる"何か"の感覚がある。
それは身体の隅々まで満ちていて、一部を動かすと、余波のようなものが周りに震えて伝わる…ような感じがする。
みぞおちの辺りをさすったり押したりしてみても、特に機械が埋め込まれてるような感覚はないんだけど…
うっ…
水をたらふく飲み込んだせいでお腹が膨れていて、お腹を押すと気持ちが悪い。
…お腹が減ったらまた確認してみよう。
しばらく身体の中にあるモヤモヤした感覚を動かして遊んでいると、世話人が戻ってきた。
やはり先程は仕事モードだったようで、戻ってきた世話人の顔付きは普通…むしろ、少し機嫌が良さそうだ。
ウィルは次はいつ来てくれるのか。
世話人にワクワクしながら聞いてみたが、いつ来れるかはわからないという。
だがまた来たいと言っていたそうなので、近いうちに遊びに来てくれるかもしれない。
次こそ水を動かして遊ばせてもらうためにも、ウィルが言っていた"色を合わせる"というのを練習しておこう。
身体の中で何かが動く感覚もなんだか面白いし…
しばらく暇とは無縁の生活が送れそうだ。
遂に魔法が出てきましたね!!!
セラは魔法だと思っていませんが…とにかく、やっと魔法が出てきました。長かったですね…
それに伴い、リビングヒーローアーマーのほうの投稿を再開しました。えっちな展開はありません。
『異世界にTS転生した僕』と同じ世界の物語なので、こっちのほうで魔法についてある程度出てくるまでは先を書きたくないなぁ、と思っていました。やっと更新できます…長かったですね(2回目)
『異世界にTS転生した僕』と違い、結構短編(?)の予定で、書き方も変えてさっくさく進めるつもりです。多分30ページもいかないで終わるんじゃないかなと予想してます。月一更新とかものすごくゆっくりな更新になる予定ですが、よければたまに覗いてやってください。




