絶対にみんなには内緒
新年あけましておめでとうございます
本年もどうぞよろしくお願いします
セラはまだ自分がTS転生したことに気がついていません…いつ気が付くのでしょうね?
手品(本人は魔法だと言い張っている)を見せてもらうためにワクワクしながら待っていると、ウィルは乱れた身だしなみを整えながら「いいかい?」と前置きをして話しだした。
「セラ、魔法っていうのは、あんまりほいほい使っちゃいけないんだ。魔法使いは魔法の安売りをしちゃいけないって、魔法使い同士のお約束があってね…」
ふむふむ。
「おかねもらわなきゃ、だめー??」
「ええっと…知ってたの?」
ウィルがとても驚いたような顔をしているけれど、こっちだって男娼として働いている。商売である以上、手品師だって芸を無料で披露していては商売上がったりなんだろう。
「おしごとは、おかねかかる」
「あはは…そう、なんだよ。そっか、セラもここで働いているんだもんね」
困ったように頭を撫でてくれるが、ウィルはさっき魔法を見せてくれると言ったのだ。お金は出せないけれど、有耶無耶にされないようにちゃんと見せてもらわねば!!
「まほう、みせてくれるっていった!!」
「ふふっ、もちろん。見せるって約束したからね」
どうやら見せてくれるつもりはあるらしい。さっきの前置きは何だったんだ?
「でもねセラ、最初にも言ったけど、みんなには内緒にしてね?僕は魔法をもっと気軽に使ってもいいと思うんだけど、偉い人たちは絶対にダメって言うんだ。もしバレたら…うーんと、どうなるかわからないけど、偉い人たちがとっても怒ってしまうだろうから、絶対にみんなには内緒だよ。お約束できるかい?」
真剣な表情でお約束と言うウィルに、僕も真剣な顔でこくこくと頷く。
ここにいる少女達には教えてあげるけど、客のみんなには内緒だ。そうすればバレないし、怒られない。だから大丈夫なのだ。
屁理屈じゃないよ?ダイジョーブダイジョーブ。
「じゃあ…まぁ、もう隠す必要も無いか」
そう言って苦笑いするウィルに首を傾げつつ、ウィルの手品が始まるのをワクワクしながら待っていると…
「ほら、まずは右手。見ててね」
差し出されたウィルの右手の上に、いつの間にかビー玉くらいの大きさの水の玉が乗っかっていた。
「えっ!?おみず!!」
いつの間に!?最初は何も無かったと思ったのに…
驚いている間にも水の玉が少しずつ大きくなって、あっという間にピンポン玉くらいの大きさになっていた。
「えっ!?えっ!?」
驚き過ぎて言葉にならない。
ウィルを見ると、まるでイタズラに成功した子どもみたいに無邪気に笑っている。
「ここからが本番だよ?ちゃんと見ててね」
そう言うと、今度は手のひらの上の水玉が宙に浮き始め、横に出された左手の手のひらの上に移動する。
今度は水玉が横に長く伸び始め、両手の上に橋を作った。
ウィルの両手の上で様々な形に姿を変える水の塊。
正直いって、理解が追いつかない。
何も無いところから水の玉が出てくるのはまぁ、手品でもある話かもしれない。
でも、宙に浮いたり、形が変わるのはどうなってるんだ!?全くわからない…
そうしているうちに終わりなのか、ウィルは最後に手の上で動かしていた水の塊を離れたところにある魔道具のケトルに向かって、指でポーンと弾いて飛ばし、見事に中に収めて見せた。
………
開いた口が塞がらないとはまさにこの事で、僕の理解の範疇をゆうに越えている手品の数々に、僕の頭の中は???でいっぱいになっていた。
「どうかな?これが魔法。すごいでしょ」
ウィルが得意げに言っているが、何一つ否定する気が起きない。凄すぎである。
「す、すご、すご…かた…」
思わずカタコトになってしまう凄さだ。
これはなるほど、魔法と言ってしまうのも納得の出来だ。安売り禁止?バレたら怒られる?それも当然だと思う。
今見たものは今までテレビで見てきた手品やマジックとは一線を駕していた。プロとはこれ程までに凄いのか。
タネを明かしてみんなに見せてあげようなんて思っていたのに、全く真似できそうにない。むしろどうやってるんだ!?改めて思い返してみると疑問しかでてこない。
…浮かすのは無理でも、手のひらに水の玉を出すくらいならできないかな?
やり方なんて全く想像つかないけど…何かの仕掛けを使ってるんだろし、やり方教えてくれないかな!?みんなにやって見せるのは無理だろうけど、普通にやってみたい!!水を動かすのとかすごく面白そう!!
「セラにもできる!?」
「いやぁ…セラには…どうかな…」
案の定苦笑いされてしまった。
が、おめおめと引き下がる僕ではない。なにせ僕は見た目は子どもでも、中身は大人だ。厚かましく教えを乞うくらいの図々しさくらいは会得している。
「セラもできるかも!!おしえてー!!」
「いや、魔法は簡単に使えるものじゃなくって…」
やはり簡単にはやり方を教えてくれないらしい。
うーむ…
…そういえば、さっきウィルのポッケになにか入ってたな。
「さっき、ぽっけになにかあった!!」
「え?ポッケに?…ああっ!?い、いや!!何も無いよ!?」
急に慌て出すウィル。やはりそのポケットにある何かで水を操っているに違いない。
「あったもんー。みしてー」
「や!!ない!!ないからね!?違うんだ!!」
ポケットを触ろうとすると、ひょいと逃げられてしまう。
そのままウィルが逃げ出し、少しの間追いかけっこが始まった。
「みしてー!!」
「違うんだ!!ごめん!!何も入ってないから!!」
「あったもん!!」
「ないよ!!」
ベットの周りを走り回り、ベットを飛び越え、椅子からジャンプし…
「つかまえたー!!」
「はぁ…はぁ…げほっ…せ、セラ…すごい…ね…」
少し走り回っただけなのに、息も絶え絶えのウィル。
「ウィル、うんどうぶそくー??」
「あ、あはは…セラはすごいね…あんなに、動き回ったのに…全然息が、上がってないなんて…」
「ふっふーん」
伊達に毎日走り回っているわけではない。
脱出したら体力との勝負になるはずで、その為に毎日走り回っている成果はきちんと出ているようだ。
…とはいえ、走り回ったので喉は乾いた。
紅茶はさっきこぼしてしまったし、魔道具のケトルには…ウィルの謎水が入っている。
あれは…飲めるのか???
「…のど、かわいちゃった…」
「はぁ…はぁ…そうだね…」
ウィルはまだ息を整えている。
まだ若いんだから適度に運動しなきゃダメだよ?
しかし…改めて紅茶をこぼしてしまったことを思い出したら、また悲しくなってきてしまった。
「…こうちゃ…」
こぼれた紅茶を見る。カーペットにベッチャりとシミができてしまっているが、そういえば大丈夫なんだろうか。
このカーペット、ふかふかでお高そうなんだけど…
「ああ、紅茶…そのままにはできないね」
ウィルはそう言っておもむろに立ち上がると、こぼした紅茶のところまで歩いていく。
僕はウィルを逃すまいと抱きついたままなので、とても歩きずらそうだ。
「自分で作った水じゃないから、ちょっと扱いずらいんだけど…」
そう言ってこぼした紅茶に手をかざすと、こぼした紅茶が染み込んだカーペットから琥珀色の水滴が上に浮かび上がっていき、琥珀色の水玉になっていく。
「ッ!?!?!?」
思わず息を飲んだ。
べちゃべちゃしていたカーペットから水気が無くなっていき、乾いた状態のカーペットの見た目になる。
驚き固まって見入っていると、今度は琥珀色の水玉が棚の上まで浮かび上がり、テーブルからも紅茶の水気を集めだした。
…何が…起きてる?
まるで理解が追いつかない中、カーペットと棚の上にこぼした紅茶の水気を回収しきったのか、琥珀色の水玉がウィルの手にしたティーポットの中に戻って行った。
「匂いはちょっと残っちゃったかもしれないけど…そこは後で謝っておこう」
ウィルが呑気なことを言っているが、そういう問題では無い。
…何が、起きた??
ウィルは今、何をした!?
ウィルが水を操る装置を持っているのは分かっていたが、予め用意していた特殊な水とかじゃなくて、そこら辺の水も動かすことが出来るのか!?
それって…大発明じゃないか!?!?
考えてみれば僕を子どもにした手術なのか薬なのかはわからないが、それだってとんでもない事だ。
改めてここの施設のヤバさを実感する。
こんな大昔みたいな不便な暮らしを僕達にさせているくせに、未来的な技術を魔法とか言って使っている。
一体全体なんなんだ。意味がわからない。美味しいものくらい食わせろ。たまにはジュースもよこせ。
あまりの混乱具合に意味のわからない思考に陥っていると、ウィルがポツリと呟く。
「…ゴミを取り除けば、紅茶は飲めるか…??」
!?!?
「こうちゃのめる!?」
あまりの衝撃発言に大声で聞き返してしまったが、冷静に考えたら、カーペットにこぼした紅茶なんて飲みたくないのが本音だ。
…本音はそうだが、紅茶を飲みたい気持ちもある。ただし、綺麗な紅茶なら、だ。
いやぁ、でも、こぼした紅茶か…不純物を濾して綺麗にしたら…いやいや、どう考えても汚いだろう…カーペットの出汁入り紅茶なんて最悪だ。冷静になれ。冷静に。
綺麗な紅茶なら飲みたいが、どう足掻いても綺麗にはならないので諦めるべきと言う天使と悪魔の囁きが、僕の頭の中で無駄100%のバトルを繰り広げる。
そんな思考の宇宙に旅立っている僕を他所に、ウィルはティーポットから再び紅茶の水玉を取り出すと…水玉を両手で掴み、何やら集中し始める。
再び始まった魔法に宇宙の彼方から一瞬で帰ってきた僕も何が起きるのか集中して見ていると…
水の中心に何かが集まっていって、BB弾みたいな茶色い小さな塊ができた。
…これは??
「…よし。これでどうかな…」
ウィルは小さな塊だけ水玉から弾き出し、水玉をティーポットに戻す。
そのまま自分の分のティーカップに紅茶を注いで…
の、飲むのか!?それ!?飲むのか!?!?
ごくり。
僕が止める間もなく、一口飲んでしまった。
「………」
「………」
その顔は…おい…しい??おい…しくない??どっちだ…!?
数秒、ウィルは紅茶を味わうように口の中で転がし…
「…うん、成功だ。変な匂いも変な味もしないし、美味しい紅茶になったよ」
「ッ!?」
ほ、本当か!?まさか僕を騙そうとして…!?
ウィルは僕の分のティーカップにも紅茶を注いでくれる。
スプーンでかき混ぜ、どうぞと手渡してくれたティーカップはすっかり冷めているけれど、とてもいい匂いが漂ってくる。
…ごくり。
この紅茶、飲んで大丈夫なものなのか…
ウィルを見ると、いかにも美味しそうにもう一口飲んでいる。
………
…ま、まぁ、カーペットの出汁入り紅茶を飲んでも、最悪お腹痛くなる程度でしょ…ダイジョブダイジョブ…
理性はやめとけと叫んでいるが、いい匂いの誘惑には抗えず…
おそるおそるティーカップに口を近付け、一口。
すすっ。
「ッ!?おいしい!!」
「うん。美味しいね。初めて試してみたけど、成功してよかったよ」
「ウィルすごい!!」
「そ、そうかな?ありがとう」
ウィルは照れくさそうにしているが、本当にすごい。美味しいは正義だ。どうやっているのかますます気になる。
…ああ、紅茶、美味しいなぁ。
甘い。いい匂い。美味しい。
これが飲めるなら、客の相手もいいものだ。ウィルが来るなら毎日でもいいのに。
こくり。こくり。
………
……
…




