手品のタネ
ひんやりとした冷たさが僕の手を包み込み冷やしてくれる。
ウィルの両手に包まれた手を軽く揺らすと、まるで水の中に手を入れているみたいに、小さくちゃぷんと音を立て、液体が揺れ動く感触が伝わってきた。
「実は僕、魔法使いなんだ」
そう言いながら両手を少しだけ開いて見せてくれた中には水がいっぱい溜まっていて、僕の手に伝わってくる感触が本当に水だったんだとわかった。
…この水はどこから出てきたんだ??魔法使い??
「おみず、どこからでてきたの??」
「…ちょっと待ってて…集中してるから…」
ウィルは難しい顔をしながら閉じた両手を見つめている。
僕の手を包んでいる水が体温でぬるくなるたび、いつの間にかまたひんやりと冷たくなっている。
とても不思議だ。どうやってるんだろう?
少しのあいだ手を冷やしてもらってピリピリとした痛みもある程度取れてきたし、そろそろこの水について教えて欲しい。
「いたいの、なくなった!」
「よかった。もう少し冷やしておこうね」
痛いのが取れてしまうと、ただ黙って眺めているだけなのは暇すぎる。なのでもういいよと言いたかったのだが、ウィルはもう少しと再び黙り込んでしまった。
さっき魔法使いって言ってたけど…確かジンムカ様が魔術評議会の話をしてくれた時、水の魔法使いは水を空高く飛ばして噴水みたいにするって言っていた。
つまりウィルは、大道芸などをしてお金を稼いでいる人なのかな?きっと服の下に水を出すホースが隠してあるに違いない。
ぬるくなった水が冷たくなったりするのは、循環させているとか?
「…もう、いたくないよ?」
「………」
返事をせず、真剣な表情をしているウィル。
いつまでそうやってるつもりなんだろう…いい加減に色々教えて欲しいんだが。
黙っていることに完全に飽きてしまった僕は、聞いても答えてくれないならと空いている左手でウィルの袖をピラリと捲ってみたが、ホースっぽいものは見当たらなかった。
手首の内側に隠してあるのかもしれないが、両手を重ねているせいで見えない。
「……???」
「ふふっ、くすぐったいよ。集中してるからイタズラは後でね」
仕方が無いので、ウィルの袖の中に手を突っ込んで手探りで探してみたものの、ホースっぽいものが見つからない。
挙句の果てには僕がイタズラしていると思われてしまった。ウィルが教えてくれないせいなのに…
「もうだいじょぶ!!いたくない!!」
「ええ!?もうちょっと冷やしてた方がいいと思うんだけど…」
ちょっとカチンときて手を引き抜くと、ちょぷんといい音を立てて水が少しだけ散らばったが、まだウィルの両手の中に水の塊があるみたいだ。
…改めて考えてみると、なんで手の中に水の塊が収まってるんだ??ゼリー状の液体なのだろうか??
思わず濡れた手を舐めてしまったが、ゼリー状でもなく見た目も味も普通の水っぽい。
「まぁもう十分冷やせたのかな…セラ、痛くない?大丈夫?」
そう僕に聞きながら、ウィルは両手で包んだままの水の塊を魔道具のケトルにゆっくり注ぎ入れている。
…あのぷるんぷるんしてた水はケトルに入れて大丈夫なのか?
そもそも、僕の手を包み込んでたんだから汚いんじゃなかろうか。
…いや、今更か…ここじゃ何もかもが汚いもんね。なにせトイレの後に舐めて綺麗にするくらいだ。細かいことなんか気にするだけ無駄なのかもしれない…
戻ってきたウィルは僕の手を取って火傷がないか確認してくれるが、僕としてはさっきの水を出したことについて問いただしたい。あれはなんだ。
「大丈夫そう…かな?どう?痛くない?」
「おみず、どこからでてきたの??」
手を触られているあいだも袖の中を覗こうとしていたが、ホースらしきものは見当たらない。
水を出した後にすぐ引っ込めてしまったのかな。
「魔法で出したんだよ。僕は水を出せるんだ」
袖の周りをキョロキョロ見ている僕の姿がおかしいのか、ウィルはなんだか機嫌が良さそうだ。
まるで手品師が客を完全に騙せていると得意げになっているみたいでちょっと腹が立つ。
「どこか、かくしてるんでしょ」
「ふふっ。隠してないよ?ほら、探しても何も無いだろう?」
そう言って袖をひらひらさせているが、タネがある事はわかっているのだ。
僕の見た目が幼いからと言って簡単に騙せるとは思わないでもらいたい。
…が、水を出したホースが見当たらない。
「…もっかいみせて!」
「えぇ…うーん、ごめんねセラ。魔法はあんまり見せびらかしちゃいけないんだ」
なんだそれ。お金か?芸を見せるのが仕事だから、仕事以外では見せてくれないってことか!?それとも単にネタがバレるからか!?
「むー!!」
「そ、そんな顔されても…困ったな…」
別にただの手品だとわかってはいるが、どうやってるのかも知りたい。
単に見て「すごいね!」で終わった幼少期のような、純粋だった頃の僕とは違うのだ。
それに…みんなにやって見せたらすごい喜びそうだし。秘密とか言ってたけど、他の客に言わなければバレない…よね?
「おようふくのなかに、かくしてるんでしょ」
「何も隠してないよ。魔法だからね」
どこまでも魔法だからで突き通すつもりらしい。笑いながら聞き分けのない子どもをあやす様な優しい声が帰ってくるが、嘘なのは分かりきっているのだ。
このままでは埒が明かない。
「ぬいで」
「え??」
「おようふく、ぬいで!!」
「ふ、服!?いやいや、ダメだよ!!」
ウィルは一瞬ポカーンとしていたが、明らかに動揺して服を脱ぐことを拒んでいる。
これは…あやしい!!!
「おようふくのなかに、かくしてるんでしょ!!」
「ないよ!?魔法なんだって…ちょっと、話聞いて!?」
ウィルが魔法魔法と騒いでいるが、問答無用だ。自分からは脱いでくれなさそうだったので、僕は強硬手段に出ることにした。
洋服の裾を掴んで脱がそう…としたけれど、子どもの身体では大人の服を脱がせようとしても身長差で脱がせそうになかった。
なので洋服の中に頭を突っ込んでみたけれど、暗くて全然中が見えない。
「ちょ!?セラ!?ダメだよ!!くすぐったいって!!」
わさわさとまさぐってみても、ホースとかそれらしい装置みたいなものは見当たらない。
わさわさと探しているうちにバランスを崩したのかウィルが横倒しになってしまうが…好都合だ。立ったままよりは探しやすい。
背中の方に隠してるのかな??
「せなかー??」
「ちょっと…脇腹は…くす、くすぐったいから…や、やめて…」
ウィルの服の中で這い回りながらあちこち探したけれど、それっぽいものは何も見つからない。
ふぅ…服の中って暑いな。一旦外に出よう。
グッと顔を上げるとすぽんッと顔が外に出たけれど、どうやら洋服の首の部分から顔だけ出たらしい。
出口を間違ったようだ。
「はふぅ…あっつい…」
「はぁ…はぁ…」
ウィルは顔を手で隠して少し息切れしていた。
僕も暑いし、ウィルも暑いに違いない。子どもの身体は体温が高いのだ。
しかし、これだけ探してもそれっぽいものは見当たらない。水を出したホースや装置はどこにあるんだ!?
洋服の前も後ろも、肩から腕のほうまであちこち触って確認したのに…
「…もしかして、ズボンのなかー??」
「!?!?」
ポツリと呟いただけだが、ウィルは相当驚いたような表情で僕を見てきた。
当たりか!!
それなら早速ズボンを…と思ったが、流石にズボンは不味いだろう。
男同士だ。上を脱がすくらいなら気にしないけど、ズボンを脱がすのは…ちょっと嫌だなぁ。
とはいえどうやっているのかはとても気になる。このまま諦めるという選択肢は…どうしよう?
ウィルのズボンを脱がせようか、諦めようか。
悩んでいると、ウィルから降参の声が上がった。
「わかった、わかったから…セラ、降参だよ…もう1回見せてあげるから、とりあえず離れて…」
そっぽを向きながら、弱々しくそう言って頭を撫でてくるウィル。
これは…僕の粘り勝ちと言うやつだろうか。
素直に手品を見せてくれるなら、わざわざ脱がさなくてもいいのだ。
「やったあ!!」
再びすぽんッと服の中に潜り、いそいそと服の中から脱出する。
ふぃ〜。
外の空気は涼しくて気持ちいい。
全く…いらない手間をかけさせてくれたものだ。
服の中を探している時は気が付かなかったけど、外に出る時にズボンのポッケのあたりに出っ張りがあったし、ポッケに手品のタネが仕込んであったようだ。
最初からポッケを探しておけばよかったな。
今年の更新はこれで終わりになりそうです。今年も何をした訳では無いのですが、1年あっという間でした。これからもコンスタントに更新を続けていけるようにがんばりますので、来年もどうぞ『異世界にTS転生した僕』をよろしくお願いします!
それでは残り数日、よいお年を!




