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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
94/503

天ヶ瀬司3

意気揚々と歩く天ヶ瀬司に手を引かれながら、憂鬱な気分になってます。

あああ、お父さんを、明智くんを怒らせてしまいました。物に当たるような人じゃないんですが、かなりお怒りだったようで…つい逃げてしまいましたよ。

あのあと、すぐに関係者用の扉が開けられることも無く、破壊されるような事も無かった。それはそれで良かったと思うんですが、素直に喜べません。なぜなら彼の怒りが終わったわけじゃなさそうな気がするんで。嵐の前の静けさ…と言うのはこういうことを指すんじゃなかろうか。

「あの、花音ちゃん」

愛梨ちゃんが申し訳なさそうに声をかけてきた。

「そろそろ入り口に戻らなければ」

「あ、そっか!藤間さんを待たせっぱなしになっちゃう」

「なに?」

天ヶ瀬司が振り返る。

「入り口にお迎えの人を待たせているの。それに愛梨ちゃんはこれから用事があって行かないと」

「分かった。でも、さっきの奴が待ち伏せしているんじゃないのか?」

否定できない。つい呻いてしまったけど、私のちょっとしたお誘いでスケジュールの合間を縫うように来てくれた彼女にこれ以上負担をかけたくない。

「ごめんなさい。今日はお祖母様の供を務めなくてはいけないの、だから」

「急ごう、早く戻らなきゃ」

更に急がなくちゃ。彼女にとってお祖母様との約束は絶対だから、守らせたい。

「天ヶ瀬司くん、庇ってくれてありがとう、もういいから」

握られている手を引き抜こうとするも、拒むように強く握られた。

「俺もついていく」

「え、でもこれから色々とあるんじゃないの?」

打ち上げとか師事している先生との反省会とか…留学してたんだから、ご両親と会ったり友達と会ったり。

「危ない目に遭うかもしれないんだろ?見過ごせない」

「いや、あなた有名人だから色んな意味で危ないよ。気持ちだけもらっておくね」

もう一度握られた手を外そうとするも、力が弛まない。ちょっ、アンタも力自慢だったりするの?勘弁してよ。

「ほら、こっちだ」

手を握られたまま誘導される。もう手のひらが汗ばんできているんですが…恥ずかしいよぉ。出来ればハンカチで拭いたい。

「一旦戻るぞ」

Uターンして先程のホールに続く扉の前を通過し、幾つか扉を通り過ぎる。

「確かここかな」

一つの扉を開けると、クロークの側に出た。

「あの眼鏡野郎は居なさそうだ」

確認してから扉を大きく開いた。明智くんは眼鏡野郎だけど、学年トップを取れるほどの学力体力運動能力の持ち主なんだよ。ハンパじゃない鍛え方をしているんだよ、だから拳を使うような喧嘩だけは絶対避けなければ危ないんだ!腕を掴まれただけで、痛いんだから。

「愛梨ちゃん、早くコートを受け取ろう」

「はい」

引き換えの札を受付に渡して、辺りを伺う。

「ん?」

でもちょぉおっと待とうか。私はなんでこんなに怯えなくちゃいけないんだろうか。特別悪い事はしてないはずなのに。…そうよ、なんで逃げなくちゃいけないのよ。おかしい、おかしいぞ。

「花音も付き添いで用事があるのか?」

「え、私?私は普通に帰る」

「そっか」

うん、思い返しても何も悪い事なんかしてないんだから、逃げ回る必要なんかなし。大丈夫、大丈夫。なんだか怯えてそんしちゃった。

クロークからコートを受け取ると、回りを気にすることなく出口に向かう。

「あ、花音ちゃん」

「急ごう。天ヶ瀬司くんもありがとうね」

エントランスを通りぬけようとすると、正面出口に藤間さんの姿が。

「思いっきり待ってる、急ごう、愛梨ちゃん」

「は、はい」

コートを抱えたまま出口に近づくと、彼の前に人が立っていた。

「げ、明智くん」

彼は背を向けているので、どんな顔をしているのか分からないけど、藤間さんの表情が怖かった。

「何か話しているのかな」

近づきがたいけれど、近づかないといけないのはかなり精神に負担を与えますね。いつも無表情で何事にも動じない藤間さんの本気の嫌悪顔に、足が根っこを生やしたように動かなくなるんです。怖い、めちゃくちゃ怖い。明智くん、あなた一体何を言ったんですか?したんですか?あの藤間さんを怒らせるなんて。

怯えていたら、藤間さんがこちらに気付き、歩いてきた。

「お迎えに上がりました。すぐ車を回します」

そして携帯を取り出して、どこかへ連絡をする。もういつもの無表情に戻っている。明智くんの方を見ると、彼は俯いていた。いつも動じる事無く淡々としている彼が、落ち込んでいるように見える。

「あ…」

声をかけようとしたら、巻淵さんが彼にそっと近づいた。

「申し訳ありませんが、伊賀崎様」

「は、はい」

藤間さんに呼ばれ、背筋が伸びる。

「お嬢様を先に会場へお連れしなければなりません」

「あ、大丈夫です。私はここから帰れますから」

「ダメです。絶対送ります」

愛梨ちゃんが私に縋ってきた。

「そんな、私は大丈夫だって」

「ダメです」

首を振って拒否される。

「ここから電車で移動するだけだから、それにまだお昼だよ?」

「でも、前のように怪我をしちゃったら、私」

潤んだ目で訴えられた。そうか、この前階段から落ちた事を言ってるんだな。本当は襲われてたんだけど…。あの時は冥加さんに助けられてお世話になった。

「今度は気をつけるから、ね」

宥めるように微笑んでみる。

「でも……」

「お嬢様、車が」

入り口のロータリーに車が止まった。

「なら俺だ」

「へ」

後ろを見れば、まだ天ヶ瀬司が立って頷いている。

「俺が責任持って送る。それでいいだろう?」

つい愛梨ちゃんと無言で見つめてしまった。

「お時間です」

藤間さんは気にすることも無く、車のドアを開ける。

「そ、そういう訳だから、またね、愛梨ちゃん」

もうどうにでもなれ、と笑顔で彼女の肩を優しく叩く。

「分かりました…では明日お電話しますね」

ちらりと天ヶ瀬司を見て、彼女が離れる。

「お嬢様」

藤間さんの声に頷き、愛梨ちゃんは車に乗って行ってしまった。

「またねー」

不安にならないよう手を振る。車が見えなくなると、コートを着込んだ。

「天ヶ瀬司くんもありがとう、それじゃ」

燕尾服で外に出た彼は寒かろう、早く解放しなくてはと笑顔で手を振る。

「まだ待て、楽器を置いてきたままだ」

「なら早く戻らなきゃ、外は寒いし風邪引いちゃうよ」

これ以上迷惑を掛けないようにしなくては。

「お前も来い」

「いや、もう帰るし」

「用事があるのか?」

「いや別に」

「なら俺に付き合え」

「ええっ」

「なんだよ、嫌なのか?」

「そういう訳じゃ」

言葉を濁していると、視線を感じた。もしやと明智くんを見たら、こっちを見ている。

「行きましょう」

「お、おう」

「有名人が風邪を引いたら大変だ、さぁさぁ、早く建物の中に入って」

「ああ」

天ヶ瀬司の背を押すように建物の中に入った。

「お前大丈夫かよ」

「色々大変なの」

「そうか?」

やらなきゃいけない事たくさんあるんだから…。修正もしないといけないし、難しいわ、人生って。

「俺の控え室寄っていくからな」

またまただけど、さっきとは違う関係者用のドアの前まで来ると、外から見えなくなった。もういいかな?

「ご協力ありがとうございます」

「別に。今回お前に会いに来たのが目的だしな」

「は?」

これでさよならと言うつもりだったのに、出端を挫かれた。

「先生がさ、今回こっちで演奏するついでに枠があったから、生徒達との合奏しようって言い出したんだ」

続きが聞きたくて、ついドアを一緒にくぐる。

「俺はまだ、と思ってたけどこの前でかい大会で一位とったし、会場は日本だから会っとこうと思って」

「なんで?」

彼が立ち止まった。そしてくるりとこちらに振り返る。

「お前な…」

「えっと…その…」

「そ・ん・な・に・俺を覚えてないのか!」

なんで、そんなに怒ってるんですか、怖いよ。

「わ、私の事を憶えていることに驚愕だよ」

「忘れるわけ無いだろ!」

そんな、ゲームじゃ思い出すのに苦労してますって。

「日本にいる間は付き合ってもらうからな」

「ええっ」

「ええっ、じゃない!次に会うとき更に忘れ去られていそうで怖い」

そんな、記憶から消そうにも消しにくい存在だから、困ってるのに。

「ちなみにいつ外国に戻るの?」

「なんでもう帰る話をしてんだよ」

「いや、ほら、気になって」

「……26日」

「なら明日までか」

「26日も…と言いたいが、早朝に出るからな…」

「忙しいんだね」

「先生がな。ニューイヤーコンサートの準備もあるし」

なんだか大変そうだけど、先生の話をする時は嬉しそうなので良かったのかな?そうだ、高校の話も聞いておかなくちゃ。

「すごいね。高校もやっぱり音楽関連の学校に行くの?」

「それは高校を卒業後だろうな。それまで先生の下で勉強だと思う」

うんうん、ならば日本に戻ることは少なそうだ。

「たまには帰国するから、会いに来いよ」

「あ、うん。ちゃんと聞きに行くよ」

今度はちゃんと調べとこう。あー、自分用のパソコンがほしいな。バイトをして頑張るかな。

「…まさか、お前」

「ん?」

「演奏会にだけ来るつもりか?」

「へ?公演するんでしょ?」

「はぁ…今度は俺から連絡するから、連絡先寄こせよ…」

「…うん、分かった」

「ほら」

手の平を差し出されたので、バッグにメモ帳がないか探してみる。

「何をしている」

「ん?メモ帳あったかなって」

「なんで今メモ帳なんだ?」

「連絡先寄こせって言ったじゃない」

「今じゃない、後ででいい」

「そうなの?」

ならばこの差し出された手は?ジッと見てみる。

「おーまーえーはー!」

「え、何?何か?」

「さっさと手を出せ、俺が間抜けみたいじゃないか!」

「なんで?どうして?」

意味が分からない。

「あぁああもぉおお!」

怒ったように叫ぶと、私の手を引っつかんだ。

「行くぞ!」

「う、うん」

どうしたんだろうか、天ヶ瀬司は。疲れているのかな?少し怒りっぽいぞ。とりあえず様子を見て脱出をしなければ。早く家に帰って弟に癒してもらおう。最近抱っこ好きなので、良く抱きつきに来てくれるんだ。しかも言葉も話すようになってきたから、天才じゃないかとお父さんと驚いている。だってお父さんのことを「ぱー」でお母さんを「まー」で私を「かー」って言うんだよ!?もう一歳になったばかりなのに凄すぎ!将来が怖いわぁ。

「ここだ…花音?」

「ん?」

「いや、その…ここが控え室だ」

いけないいけない、楽しいことを思い浮かべて意識が飛んでた。

「司くんどこに行ってたの!すっごく心配したんだから!」

扉を開けた瞬間、大きな声に迎えられ驚く。

「な、なんだよ、どうしてお前がここに居るんだ」

「その子、誰」

部屋に居たのは『吉岡凛』だ。服は着替えたらしく、ワンピースを着ているのだが…それが、その…。

「お前には関係ないだろ、早く帰れよ」

「一緒に遊ぶ約束したじゃない」

「お前が一方的に言っただけで俺は約束してない」

「なんで?同じ国同士仲良くしなさいって先生も言ってるじゃない」

「俺はこれからデートなの、邪魔すんな」

え、デートだったんですか?それとも彼女から逃げるための方便?ここは黙って後で話を聞いた方がいいんだろうなぁ…。でも吉岡凛ってこんな子だったっけ?

「この女と?もしかしてこの女が人魚姫!?」

「え」

なんですと?

「ばっ、お前黙れ!」

「黙ってられないわよ!これが人魚姫ならアンデルセンも絶望するわ!」

「うるさい!いちいち突っかかって、いい加減にしろよ」

「私はあんたのパートナーだもん、だから間違いは言うもん!」

…なんだかお邪魔虫っぽいので、こっそり帰ってもいいかな。手は離されてるし、扉も開きっぱなしなので、チャンスなのかも。

「何がパートナーだ、そんな事を言ったら、レオンもシンも同じだろうが!」

こっそりと扉に近づけば、背中に何かぶつかった。

「大丈夫?」

肩を支えられ、心配される。誰?顔を上げれば、先程ステージで見たクラリネットの奏者が居た。

「あ、すみません」

残念、静かに姿を消せなかった。大人しく部屋の中に入る。

「あ、シン、こいつどうにかしてくれよ」

「司くんが間違ってるのに気付いてくれないの!」

「それより、扉が開きっぱなしだから、廊下に響いているよ」

ああ、扉を閉めないで!シンと呼ばれたクラリネットの人が静かに扉を閉めた。脱出口が…。

「初めまして、真行寺将臣です」

優しい笑みを浮かべ、自己紹介されたので礼儀にのっとって挨拶をした。

「伊賀崎花音です」

「君が噂の人魚姫なんだ」

「え、っと?」

先程から出るその『人魚姫』とは一体?

「司が海で助け、そして助けられたらしいから」

「あ…まぁ、そんな事もありましたね」

海ではなく、正確には海の側で、だ。

「その子が人魚姫なんて、絶対に認めない!」

「凛、ソファーの上で暴れない。危ないよ」

恐らく高校生以上だと思われる真行寺さんにたしなめられ、吉岡凛がダダをこねる。

「レオンやシンとみんなで日本観光するの!邪魔者は帰りなさいよ!!」

「ごめんね、凛。僕は一度家に顔を出さなきゃいけないんだ。だから一緒にいけない」

「そんな…」

「それにレオンも居ないよ?どこかに遊びに行ったようだから」

「なによそれ…みんな約束破って!!」

容姿が容姿なだけに、吉岡凛の我が儘が可愛らしい。ここは引き下がって…。

「だからお前が勝手に言ってただけだろ」

「…私も行く」

「あ?」

「私も司くんとその女と一緒に行く」

「だからデートだって言ってんだろ」

「私と司くんの側にいて、霞まなかったらいいけど…自信ある?」

美形と美少女に挟まれて?いえいえ、私はフェードアウトさせてもらいます。

「止めておいた方がいいぜ」

ふふんと天ヶ瀬司がにやりと笑う。

「なんでよ」

ソファーの上で仁王立ちする吉岡凛さん、可愛いから写真取りたいなぁ。

「それはこれを見てから考えろよ」

天ヶ瀬司が私の前に来ると、コートのボタンを外し始めた。

「な、何を!」

「いいから脱げって」

「ちょっ、なら自分で脱ぐから」

「早くしろよ」

どうしてこうも強引なキャラが多いかな…少しは周りや私に配慮してほしいものだ。まったく。自分でボタンを外し、脱ごうとして躊躇した。

「だから、固まるなって」

無理やりコートを剥ぎ取られてしまう。

「あ!」

「あ…」

「これでも一緒に歩けるのかよ」

そう、暖かい控え室に入っても私がコートを脱がなかった理由…それは吉岡凛と似たようなワンピースを着ていたから。色合いとデザイン、どう見ても似すぎている。恐らく同じブランドではなかろうか。

「そ、そんなの平気よ。私の方が最新だもん!」

どこかの違いに気付き、彼女は高らかに笑った。

「でも…身長差もあるから、兄弟に見えるよ」

真行寺さんの一言で吉岡凛が切れる。

「私は14歳よ!小学生じゃないわ!!」

ムキーと暴れ始める。

「落ち着きなさい」

後ろから羽交い絞めにして、真行寺さんが引っ張っていく。

「これ以上騒ぐなら、先生に言いつけるよ?」

その一言で、彼女はぐっと黙った。

「それじゃ司、楽しんできてね」

片手に彼女を抱えて、真行寺さんは部屋を出て行く。重くないだろうか、それとも音楽をする人間はみんな力持ちなのかな?

「はぁ…なんか疲れたな」

「あの私は」

「お前がとやかく言うなよ」

「でも」

「約束を守らせろ」

「…」

「とりあえず、なんか飲むか?」

上着を脱いでソファーに投げる。ああ、ハンガーか何かに掛けなくていいの?

「でも用意されているのって、ペットボトルのお茶くらいだけどな」

タイをはずして投げ、シャツのボタンを…。

「ちょ、ちょっとまったぁ!」

「あ?」

ボタンを外し続けるな!

「着替えるなら外で待ってるから」

「駄目だ」

「え!?なんで」

「お前帰ろうとするだろ」

「…そんな事ないよ?」

「絶対怪しい、しかもなんで誤魔化すように言うんだよ!」

いや、確かにチャンスだ、と思ったから。

「それより、着替え見られて恥かしくないの!?」

「別に裸になるわけじゃない」

「が、外国ってそんなものなの?」

耐え切れず背を向ける。

「さぁな。でも別にお前に見られても平気…だ…から…」

いや、絶対平気じゃない。今赤面してるだろ!

「すぐ着替える。待ってろ」

「着替えるまで後ろ向いてます」

なんで男の子の着替え中の部屋に一緒にいるんだろう…。誰かが入ってきたら、痴女扱いされないかしら、私。

「なぁ」

「なに?」

「あれからお前はどんな事があったんだ?」

「色々遭ったねぇ…」

ふふふ、君に遭った所から色んな事があったのよ。記憶が戻ってゲームの事に気が付いて、なぜか違うゲームにまで関連があって…もう目まぐるしい日々なのよ。いつか自伝でも出そうかしら?なんてね。

「俺の事…多少は思い出してたか」

「忘れにくい存在だから」

なにせ君がメインですから。

「そっか…でも何で気が付かないと思ったんだ?」

まだそれを言うか!…仕様です、と言えたら楽なんだけど。

「私って覚えられにくそうな感じなんで…」

「どこがだ」

ははは、具体的なものを求めないで。



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