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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
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冥加さんと加納さん

 微妙な告白の後、冥加さんからの強烈な視線が。あまりこちらを見ないで欲しい。

 座り方が悪かったんでしょうか? 席ではなく車の窓側へ背を向けて座った事に後悔です。でもそうしないとお姉さんと向き合えません。……なので、目の端に映る彼の視線が辛い。


「はいはい。彼女は写真じゃないんですから見つめ過ぎると、減りますよ?」


 電話を終えたお姉さんが、持っていたA4ファイルで視線を遮ってくれた。ありがとうございます、助かりました。


「何が減るんだ」

「諸々です」


 私の精神力は確実に消耗した。見つめられるのは慣れていないので、是が非でも遠慮して欲しいです。


「ふん」

「すみませんね」


 ご不満だったようで、冥加さんは腕を組んで背もたれに寄りかかった。

 お姉さんは苦笑すると、携帯をスーツの内ポケットに入れる。つい視線が胸にいったんだけど……大きい。大きいです、お姉さんの胸。ほぼつるぺたに近い私の胸にその恩恵が欲しいほど。


「伊賀崎さん?」

「すみませんっ」


 お姉さんの胸を凝視してしまったので、視線をそらす。

 恥かしい、男子でもないのに。


「私は加納砂織と申します。以後宜しくね」


 胸を見られるのに慣れているのかな? 動じる事無く微笑まれた。大人な対応に重ねてドキリです。ぜひともお姉さまとお呼びしたい。


「さてと、確認なんだけど少しいいかな?」

「はい」


 加納さんの麗しいお顔を見ながら頷く。この人ならミスユニバースになってもおかしくないと思う。才色兼備って現実にいるんですね。


「今日はね、あなたを見張る為に校門と裏門を部下に張らせていたの」

「え」


 私つけられてたんだ。危なかった……眼鏡を掛けずに走ってよかったよ、効力無くなっちゃう。


「ごめんなさいね、気分の悪い事を話して」

「い、いいえ」


 今度からはもっと気をつけて眼鏡を使おう。


「それで表門には、あなたのお友達の車が止まっていたわ。どうして一緒に帰らなかったの?」

「お友達?」

「頼元家のお嬢様よ」

「あ、愛梨ちゃんの家の車だったのか」

「ええ」


 ならば車の側にいたイケメンは執事さんだ。百聞は一見にだったな。加納お姉さんに会えたのは嬉しいけど、校門を確認していれば冥加さんに捕まらなかった。失敗になるんだろうな、これって。


「愛梨ちゃんは同じクラスの女子と帰っていったので、遠慮しました」

「裏門を選んだのは?」


 うーん、クラスの戯言に惑わされたとは言い辛いな……明智新吾が車に乗って待っているかもしれなかったから、と。しかも明智ではなく、冥加でもっと驚いています、とも言えない。


「校門で車に乗ったイケメンがいる、みんなで見に行こうと廊下で騒ぎを聞きましたので、帰りやすい裏門を選びました」


 嘘は突き通さないと、それが真実と思い込まなければ一番の隠し事がばれてしまう。それだけは避けたいからね。

 お姉さんに恋愛シミュレーションの話をするなんて、考えただけでどんな罰ゲームだ、それ。


「そう? イケメンと聞いて気にならなかったの?」

「特には」

「では、裏門から出た途端に走り始めたのは?」


 これには素直に答えられる。


「家に早く帰るためです」

「走ってまで?」

「はい」

「そう。この道を選んだのは?」

「家まで最短距離を選んだつもりです」

「でも先程の話を信じるなら、人通りが多い道を選んだほうが安全じゃない?」

「信号待ちをすることなく、人にもぶつかりにくいです」

「待ち伏せられている心配はしなかったの?」

「それは無いです。立ち止まっていると、寄ってくるだけなので」


 お姉さんが溜息を漏らす。


「ちなみに不審者が近寄ってくるのが解っているみたいだけど」

「勘です」


 ジッと見据えられる。

 もしかして私、疑われてますか? でも発言からして痛いし怪しい人確定されても仕方ないか……。


「砂織、あまりいじめるな」

「申し訳ありません」


 彼女は即、私の後ろに座る冥加さんへ軽く頭を下げる。

 幼馴染なのにこの上下関係は如何に? 怪しいミニバスに護衛。冥加さんって何者なんでしょうか?

 ただの教師にこの設定はなかったような気がする。ある意味これは情報収集のチャンスかも! 要にばかり苦労は掛けられませんからね!


「すみません、そもそも冥加さんはうちの中学校の入学式になぜ居たんですか?」


椅子の背を掴み、冥加さんを見ると質問してみた。


「……仕事だ」

「ご兄弟が学校に居るわけではないんですね」


 ではどうやって噂が冥加さんの所へ届いたんでしょうか?


「噂はどこで聞いたんですか?」

「今日も仕事で学校へ行った。そこで聞いた」

「なるほど」


 ならば掃除の時はその帰りだったんだ。ならば納得できる、が私を調べる理由が意味不明である。私の表情1つで怪しいと判断した理由を聞きたい。


「私を怪しい怪しいと言っていましたが、入学式に一度会っただけでなぜそこまで疑われなくてはならなかったんですか?」

「仕事だ」


 それって便利な言葉ですね、まるで魔法の一言だ。でも将来奥さんから怒鳴られますよ?


「では誤解は解けましたよね。もう私の件は終わりましたよね?」

「まだだ」


 笑顔で言えば、難しい顔をして否定された。何故に?

 私はまだ14年ほどしか生きていませんし、国際的に指名手配を受けるような人でもない。まさか顔を知っているイコール、家を知っている、財産を狙っているとでも思われた?

 それは小悪魔的万能美女しか出来ない手口です。私にあんな色気や頭脳を求められては困る。むしろ恋愛で相手を絡め取るよりも、誰かと誰かが幸せになるのを木の陰から見ていたい位なのに。


「私を調べたんでしょう? 重箱の隅をつつく様に」

「まぁ、な」

「何か出ましたか?」

「出ない」

「でしょう? むしろ怪しむなら私から離れた方がいいと思うんです」


 ね? ね? と言わんばかりに同意を求めたら、目を離された。無言で却下を申し渡された気分。口があるんだから、喋ってくださいよ。


「今まで新吾様に色んな女性が近寄っては、消えていきました」


 突然加納さんがポツリと呟く。消えていきましたって……もしかして消されたの? 存在を? なら私も消すの? 近寄ったのはそちらなのに?


「あのですね、本当に、私は、その、冥加さんに近づきたくて近寄ったわけじゃないんです、ただ、通り過ぎようとしただけなんです」


 冥加さんから加納さんへ体を向けると、祈るように両手を胸で組んでお願いする。

 お金持ちみたいなので、広いお屋敷のどこかに埋められたら行方不明扱いで人生お終いだ。車に乗るときも誰にも見られなかったので、めちゃくちゃピンチな気が……お願いですから、殺さないでくださいぃぃぃ。


「チャンスをください! 今からだって近づくなと言われたら、一生遭わないように努力します! 目に映っても無視します、避けます、存在すらも忘れます、全力で走って逃げます、だからお願いします、私にチャンスを!」


 必死に話すとお姉さんが噴き出した。あれ?


「それ以上は、勘弁してあげて?」


 加納さんが嬉しそうに笑う。

 その視線の先は、冥加さんだ。私も彼を見ると、眉間を抑えていた。

 怒ってるのかな? 失礼な言い方をしたかもしれないけど、私の命も大事なんだ。勘弁してください。


「私、消されたくないんです。お願いします」


 今度は冥加さんへ頭を下げてお願いする。

 土下座の方がいいかな? でも車内だから座りにくいし、座席に土下座と言うのもなにかおかしい気がする。


「消しませんよ? ねえ新吾様」

「当たり前だ」


 良かった。でもお金持ちは恐いからな、いつ気が変わるか分からないので気をつけよう。


「新吾様の言う『出会い』は怪しかったですが、身辺調査をしても疑わしい箇所は見受けられませんでした。なので安心してください」


 身辺調査ってなんでしょう? 安心よりも恐いですけど。

 お金持ちって大変なんですね、近づく人全員こうやって調べているんでしょうか? 巻き込まれたほうは災難ですよ。

 でもどういう『出会い』を話したんでしょうか……私が引き止められた思い出しかないんですけど。もしかして驚いた事を伝えたのかな? ならば私が悪いのか。

 でも理不尽な。


「1年の時に男子学生と登下校を共にしていますね。付き合っていたんですか?」

「いいえ」


 お姉さんの質問にげんなりする。また明智くんの事か。


「彼は私の不審者に遭い易い現象を心配して、ただ一緒に居てくれただけなんです」

「なるほど、好きになりそうなシチュエーションね」

「まさか! 感謝はすれどそんな失礼な事は出来ません」

「失礼って……」

「それに彼は私の保護者だと。そして父のように守ってくれました」

「あらあら」

「いつか恩に報いたいと思っています」

「ですってよ、新吾様」

「そうか」


 冥加さんは深く頷くと、私の肩に触れた。が、加納さんによって瞬間に払われる。


「女性の体に許可無く触れるのは駄目です、と何度言えばいいんですか」

「別に下心で触れてない」

「当たり前です」

「伊賀崎さんの肩に触って何が悪い」

「セクハラです」

「なっ、労おうとしただけだ」

「それでも、です。新吾様の印象が悪くなったら、自業自得ですよ?」

「分かった。では伊賀崎さん」

「は、はい」

「肩に触っても?」


 それを私に聞きますか!?

 14歳は微妙な年齢なんですから、そういう質問は避けて欲しい。中身は純粋な14歳とは少々違うかもしれないけど。


「軽くなら……」

「ほらどうだ、伊賀崎さんはかまわないそうだ」


 お姉さんは今日何度目かの溜息をつくと、頭を軽く振る。


「今のは同情だとなぜ気付かれないんですか」


 同情、確かにその通りだ。ちらりと冥加さんを見れば、少し悲しそうな顔をしている。いかん、大型犬に見えてきそうだ。


「あの、私はもう気にしていません。それに誤解が解けたのならそれで」


 そろそろお家に帰して欲しいな。

 美形2人に囲まれ、その美しさを堪能しすぎたのでおなか一杯です。このままならもたれてしまいそう。どうそれを告げようか考えていると、お姉さんが微笑んだ。


「そろそろご両親が心配されますね、ご自宅へ行きましょう」

「はい!」


 加納さんが窓をノックすると、運転席が開き誰かが乗ってくる。黒スーツで無言だ。

 しばらくするとエンジン音がして車が動き始める。


「では続きは今度にしましょうね」


 彼女が気になる言葉を告げる。

 今度? 今度って何だ?


「今度、ですか?」

「ええ」


 ええ? これ以上何を話すというんでしょうか?


「あと、外であまり新吾様のお名前を出さないでくださいね」

「秘密、という事ですか?」

「新吾様」


 加納さんに問いかけたのに、後ろの方へ頭を軽く下げた。なので、自然と後ろにいる冥加さんを見てしまう。

 目が合うとほんの少し笑ってくれた。


「冥加という名は表に出てはいけないので、名前で呼んでください」

「し、下の名前をですか?」

「はい」


 いきなりハードルが高い要求が来たんですけど!

 表に出してはいけない名前ってなんですか? 名前を知られると危ないんですか? もしかして知ってしまった私は何かに足を突っ込んでしまった!?

 その前にそんな危険な名前を私に名乗らないでください。巻き込まれるのは嫌ですよ! それにしても下の名前を呼ぶって。


「その、冥加さん、いきなり下の名前を呼ぶのは難しいですよ」

「なぜ? 私は気にしませんよ」

「私が気にします」

「そうなのか? 砂織」

「通常の女子であれば、そうですね」

「あなたは隣人を呼び捨てしています。私も呼び捨てで」

「初対面に近い人を、しかも年上の方を呼び捨てになんて私は出来ません。それに要は弟みたいなものですから」

「そうですか」


 要の呼び方も調べてるんだ。どんな調書なのか見てみたい。見せてくれないかな? 書式とか項目とかどういう形式になっているんだろう。


「そろそろご自宅に着きます」


 加納さんが車の外を眺めながら教えてくれた。

 ……やはり私の家は知られているんだ。なんだか納得できず、胸がモヤモヤする。


「ならば、明智と呼んで下さい」


 明智。また明智ですか!?


「新吾様」

「仕方ないだろう、通常はその名を使っている」


 通常は? 仕方なく? またも知りたいような知ってはいけないような会話は、私が車を降りてから続きをお願いします。


「わかりました。今度お会いした時は、明智さんとお呼びします」

「これからもよろしくお願いします」


 これからもって何だ、これからもって。


「新吾様、その言い方は若干よろしくないかと」

「そうか?」


 家の前に車が止まると、加納さんが扉を開けてくれた。


「送ってくださって、ありがとうございました」

「私も行こう」

「え」


 お礼を言いながら降りようとすると、冥加さんも一緒に降りようとする。

 なぜに一緒に? 私が驚いていると、彼も驚く。


「遅くなりました。だからご両親へご挨拶します」

「え?」

「新吾様」


 お姉さんが困った顔をしてくれたので、少し落ち着けた。

 何を言ってるんだ、こいつは! と叫びたかったが抑える。こちら14歳なので、大人に思いっきりツッコミできないのが辛い。


「あなたが今向かえば、ロリコンとして二度と敷居をまたがせてはくれなくなりますよ」


 そうだ、そうだ!お姉さん言ってやってよ!


「ロリコンじゃない」

「ではせめて大学を卒業し、家督をきちんと継がれてご挨拶に伺うべきです。その頃には伊賀崎さんも16を超えているので大丈夫です」


 味方かと思われたお姉さんは、向こうの参謀でした。

 何が大丈夫なんですか! 今日も疲れたので、もう何も考えたくないです。夢の世界に逃げたい。


「ではせめて遅くなった侘びを」

「私が行きます。さ、伊賀崎さん降りましょう」

「はい」


 今日は私の意志が色々無視された話を聞きました、なので私も無視していいですよね。

 お姉さんと一緒に車から降りると、うちへ入った。



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