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過ちのターニングポイント-1

・・・






 自分にとって、両親とはとても希薄な存在だった。

 父は立派だが多忙で関わりも遠く、母は美しくもすぐに亡くなってしまったから。


 自分たち兄妹をこれまで育ててくれた父にはもちろん感謝しているし、大切な存在には違いない。

 しかし自分にとっての家族として、いつも一緒に過ごしてきた妹という存在の方が途轍もなく大きかった。


 本音を言えば、就職して家を離れるのも嫌だったくらいだ。

 だが、社会の常識はそれを許してくれない。当たり前のように学校を卒業し、当たり前のように社会に出ることを強要される。

 実家暮らしで働くことも可能だっただろうが、あまり学力が無かった自分には残念ながら選択肢が無かった。


 いくつもの就職面接を経て、ようやくありつけた仕事なのだ。常識的に考えて、その道から無闇に逸れるわけにもいかなかった。


 家族にとって立派な存在であるために、成長と名付けられた既定路線の上を歩んでいく。当たり前で普通の大人になるために。


 そして、多忙という毒は、あれほど大きかった家族への思いすら蝕んでしまう。言い訳のように、疲労を理由に蔑ろにしてしまう。


 ……もしかすると仕事に生きる父も、そうだったのかもしれないな。



 ともあれ、自分の人生は非現実的な形で脱線することになった。

 しがらみを失った代わりに、仮初の自由と、新たな枷とともに、過去を省みることが増えた。


 もはや二度とできなくなってしまったことも多くあるが、代わりにできることもかなり増えた。であれば、やり直せることはやり直すべきだろう。



 家族のために、いまの自分ができること。


 家族に危険が近づいているのなら、それを取り除かなければならない。

 そして平穏な生活を過ごせるように、危険な世界の裏側があること自体、知られるべきではない。


 だってそうだろう。かつての自分はそんなこと知らず、平和な日常を過ごしてこれたんだ。

 だったら妹も、穏やかで何の危険も伴わない学生時代を、当たり前の青春を、過ごせなければおかしいじゃないか。


 だから、妹の平穏を壊す存在を許すわけにはいかない。

 そして、自分自身もまた、そのような存在になってはならない。


 そう思って、決意して、ここまで過ごしてきた。



 ……が、それは別に思うがままに束縛したいという意味ではない。

 あくまで、家族のためとしてわきまえなければならない。


 だから例え、魔法少女が妹の友達だったとしても、それが悪意や作為によるものでなければ尊重すべきだ。


 あの友達、雛美が妹に怪人の噂を教えたのであれば、それは身近にある危険を知ってもらうためだろう。

 妹はのんびりしてるようで好奇心も行動力も強い。下手に首を突っ込まれるくらいなら予め釘を刺しておく方が安全だと考えたのかもしれない。


 少なくとも二人をこっそり観察する限り、そうした裏側の話題を混同させたりせず一線を引いているように思えた。であれば、自分はそれが綻ばないようフォローに努めるべきだろう。


 正体がバレるとかなりややこしいことになるので、裏側から、引き続きこっそりと。


 そう考えて、動いていたつもりだったんだが……。



 ……。




(いやあ、清々しいくらいの逃げっぷりだったね)




 想定外の雛美との遭遇。


 色々理屈をつけてみたが、とにかく妹に正体がバレるわけにはいかない。というより、ただひたすらにバレたくない。

 兄として完膚なきまでに終わり果ててしまっている姿を見られたくない、というのが本音でもある。


 妹はもちろん、父とも、かつての自分の知り合いとも、そしてその関係者とも、いまの自分の正体に繋がる形で遭遇するわけにはいかない。


 なので逃げた。妹と同年代の少女から、かなり無様に、全力で。


 ……顔を見られただろうか。

 いや、一瞬だったし大丈夫だったとは思いたいが……。




「……ていうか気づいてたんなら教えろよ」


(君らと僕らとの協力関係は怪人退治のためだよ。普通のギフターはギフテッドの私生活に干渉しないものなのさ。いつも側にいて助けてあげるわけじゃないってね)


「……の割にはお前いつも近くにいる気がするが?」


(それは君が特別だからだよ。そして僕もあんまり普通じゃない。でもそれとこれとは別問題というか、ね)


「……」


(それに見ててなかなか愉快だなって)


「おい」




 なんにせよ、今後なるべく不要な外出は避けるべきだろう。こちらの生活圏がバレた可能性もある。


 ……まぁネット通販もあるし、なんとかなるだろ。……たぶん。





・・・





「あ」

「げ……」


「げっ、てなにちょっと。あ、ちょ、逃げんなこらー!!」



 今日もクネヒトの反応を頼りに怪人退治。導かれるままに全身タイツの変態不審者どもを文字通りプチッと潰し、そしてその次へ。

 最初は興奮することも多かった戦いにも慣れて、作業のように消化できるようになり、こう言ってはなんだがやや退屈し始めていたころ。


 そんな日常に新たな彩り……というかイベント? といっていいのだろうか……?


 なんかやたらとこの、ピンクフリルの魔法少女、イグナイトに絡まれるようになった。

 何気にこの子も動きが良いので魔法なしに振り切るのは難しく、非常に面倒くさい。


 いまの自分は妹とかなり似ているのだから下手に顔を見られるわけにもいかない。

 魔法少女同士では認識阻害も効果が薄いし……。


 毎回毎回出会う度に追加で消費するのもアレなんだが……、仕方ないか。



「『ミラージュ・エスケープ』」


「っ……!」



 光が姿を溶かして幻に消える。

 割と燃費が悪く、耳鳴りと目眩がするが、この程度の消費なら許容範囲。



 ……さぁ、気を取り直して次に行こう。


 家族の街のゴミ掃除の続きだ。






・・・






 ……怪人の等級は4段階。


 弱い順にDからAで、街に現れるのはほとんどがD級。稀に硬いC級が混ざる程度。

 遠距離での攻撃手段が豊富な自分にとって、どちらも大した違いはない。

 苦戦することなど一度もなかった。


 だから、こんなの言い訳に過ぎないのかもしれないが。

 緊張感の糸が知らず知らず緩んでしまっても、仕方ないことだったのかもしれない。






・・・

→【過ちのターニングポイント-2】

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