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束の間のインタールード-2

・・・






「そっかぁ、お仕事いそがしいんだ」

「ああ……」




 嘘である。いま自分は仕事をせずに怪人退治という謎の治安維持活動を行なっているのだから。

 ……改めて考えるとやっぱり意味がわからないな。



 そんな、妹との定期的な連絡。

 魔法で声はどうにかなる、といっても流石に家族と話せばバレるのではないか……?

 と思ってチャットで喉が悪いとかいって誤魔化してきたが、いい加減に声を聞きたいと言われ、ドキドキしながらのチャレンジ。


 ……案外バレないもんだな。なんだかちょっと拍子抜けというか……?

 いや、バレてほしかったわけじゃないんだが。なんだが、なんというか。




「たまには家に帰ってきなよー?」

「お前は母親か」


「あはは、お母さんの顔知らないけどねぇ」

「ま、俺もあんま覚えてないんだが」




 母は自分たちが小さい時に亡くなった。妹は母の顔も声も覚えてないだろう。

 それ以来、三人家族で暮らしてきた。


 父は仕事のできる人間で、しっかり稼いで自分たち兄妹に必要十分な生活を与えてくれて来たと思う。


 が、多忙ゆえに家にはほとんどいなかったし、学校行事などにもほぼ参加してくれなかった。

 妹と二人でもし母親が居たらな、みたいな空想はしょっちゅうしてきたものだ。




「あ、そうそう。こないだの話、覚えてる?」

「こないだの話?」


「危ない怪人のうわさ。こないだそっちの街にも出たらしいんだって」

「……ああ、そうなのか」




 怪人の噂。


 前は単なる荒唐無稽な都市伝説と思い込んでいた。しかし実際に自分はその被害にあった。

 いまこうして無事に話せているのは、奇跡に他ならない。……無事とは言い難いかもしれないが。




「もう、ちゃんと聞いてよ。本当に事故とかあったりして危ないんだから。ねぇ、聞いてるの?」

「聞いてる。なぁ、そもそもお前はどこでそんな噂聞いたんだ?」


「え? えーっと、友達……だけど?」

「同級生か? 俺の知ってるやつか?」


「最近友達になった同級生だし多分知らないと思うけどー……、急にどうしたの?」

「いや、……ちょっと気になってな」


「えぇ……なんかちょっとキモい……」

「兄をキモい言うな」




 噂の出どころ。現実にあった非現実的な危険の話の大元。

 そもそも、怪人や魔法少女には認識阻害が働く。適性の無い人間の記憶が自身の納得する形に置き換わってしまう。


 だというのに、妹は怪人の噂を耳にしていた。考えられるのは、怪人の関係者。魔法少女の関係者。

 もしくは、適性があり記憶が残っている怪人被害の当事者か目撃者。ネットで見れる情報のうち、信ぴょう性のありそうな噂は、おそらくそういったもの。


 ……妹自身が怪人と関わりがある、ということは無いはずだ。

 少し前まで一緒に暮らしてきて、そんな様子は無かったのだから。


 ああ、いや、どうだ……?

 わからない、自分は本当にそこまでしっかり見てこれただろうか。


 家族を守るための怪人退治。

 その活動の在り方をいま一度、考え直す必要があるのかもしれないな……。





 それから結局、機嫌を損ねてしまった妹を宥めることに時間を費やしてしまい、今回の電話は終わった。


 しかし正直なところ、その友達とやらは確認する必要があるように思う。




「どう思うクネヒト」


(どうだろうね。君の妹の友達ってことは若い女の子だろう? 可能性はあるんじゃないかな?)



「ちなみにだが、見に行けばすぐわかるものなのか?」


(近づけば適性の高そうな人間や怪人の反応はわかるよ。でもそれは、向こうからもわかってしまう。気を付けたほうがいい)



 ……敵か味方か、まだわからない。

 味方なら、別にいいが。






・・・






「あ」


「……ちっ」




 習慣と化してきた怪人退治の帰り道。見覚えのある魔法少女と鉢合わせた。


 魔法少女イグナイト。

 ゴツい名前の割にはピンクフリルでフワフワした格好の女の子。


 不機嫌そうな表情をしていることが多いが、おそらく怪人との戦闘に気を張っているだけだろう。

 変身を解いた姿では年相応に笑っていることが多いのだから。


 ……。


 そう、妹の新しい友達とは、この少女だった。


 あれから数日、ストーキン……じゃない、妹のことを何度かこっそり見に行った際に、確認できた。

 風の魔法を使えば遠くの音を聞ける。光の魔法を見れば遠くを覗ける。相手に気づかれずに監視することも難しくない。


 名前も確認できた。雛美というらしい。妹の千尋と最近友達になったというには、かなり親しげな様子が窺えた。


 ……ああいや、やってることは若干倫理的にスレスレな気もするが断じてストーカーではないぞ?




「遅かったな、お前の出番は無い」

「ちょっとなに、ケンカ売ってる? ていうかいい加減名乗りなさいって」


「断る、じゃあな。『ミラージュ・エスケープ』」




 光の魔法で幻のように姿を溶かす。この子とも、あまり長く対峙するわけにもいかない。

 シスターヴェールで多少隠れているとはいえ、じっくり姿を見られたら妹に似ていることがすぐバレてしまうだろう。妹との関係をおそらく勘繰られては困る。


 顔を真っ赤にして悔しがる少女の横をすり抜け、今日も妹の様子を見に寄り道をするとしよう。

 どうせこの子もあとから妹のとこに行くだろうし。


 これがここ最近のルーティンだ。

 そこそこ刺激的で、割と平和で、だんだん変わり映えしなくなってきた光景。


 危険と隣り合わせのはずだが、自身が強すぎるせいであまり実感ができない。

 それよりも、いまの女の身体にいまだ慣れないことの方が問題のように思える。


 ……あまり慣れて女らしくなってもそれはそれでアレなんだが。






・・・






 さらに数日。週末の昼下がり。

 通販で買ったちゃんとした服も届き、ちょっとした葛藤ののちに着替え、買い物に出かけようとした。


 のだが。家を出てしばらく歩いて思った。

 なんかどうにも、人目が気になる。


 道行く人から妙に視線を感じる。……どこか変だろうか?


 いまの姿は、妹がよく着ていたワンピースにアウターを組み合わせるような形の、どこにでもいるようなコーディネート。

 おかしくはないはずなんだが……でもやっぱり足元がヒラヒラして落ち着かない。


 変身した時のシスター服もスカートっぽい感じだがアレはもうちょいぴったりしてるのでそんなに気にならなかったんだが……。




「魔法使おっかな」


(……あんまり無駄遣いはオススメしないよ?)


「まぁ、だよなぁ……」




 電話の時に声を変えるのですら地味に消費があるのだ。これくらいは我慢しなければいけない……。


 ……いやでも無性に恥ずかしくなってきた。妹っぽい姿が恥ずかしいというわけじゃないんだが。



 家で来てるような男女兼用のスウェットとかジャージのままで良かったのではと思わなくもないが、しかしこの姿でダサい恰好をして出回るのもなんだか……。




「あれ?」


「……ぅげ」




 完全に油断していた。

 こいつの活動範囲は妹の生活圏のはずだから、自分の生活圏とはかなり離れている。


 だから安心して出歩いてたんだが……。




「もしかして……?」


「……」




 ちょうど正面から歩いてきたその姿は……魔法少女イグナイト、の変身前のもの。

 かわいらしいフリルスカートにカーディガンを羽織った、ちょっとこじゃれた女子中学生といった出で立ち。


 そう、妹の友達。雛美。




 ……まずい。非常にまずい。






・・・






 ……もしも、人生の選択肢があったとして。

 最大の過ちを挙げるなら、この、雛美との関係がある。


 あの子は魔法少女としては先輩であり仲間だが、自分とは対等ではない。

 生きているのか死んでいるのかすら曖昧で、男か女かもはっきりしない。


 結局のところ、覚悟が足りなかった。

 見た目だけ子供のようになって、気づけば中身まで幼くなってしまっていた。


 そういうことなのだろう。

 自分は最後まで大人として、その責務を果たすべきだったのだから。






・・・

→【過ちのターニングポイント-1】

(次回6/30)

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