束の間のインタールード-1
・・・
そんなこんな、なんやかんやあって、自分は新社会人の男から魔法を使える少女になった。
これまで人並みにアニメやマンガやゲームは嗜んできたつもりだが、まさか自分自身がファンタジーを体現する存在になるとは思いもよらなかった。
魔法、すなわちギフトは、ずいぶんと便利な力だ。
超常の能力を、直感的かつ意のままに操れる。暴走するような事故はまず起こり得ない。
厳密に言えば、基本的に本人が制御できる範囲の魔法しか使えないというだけなのだが。
そこらへんはギフターの干渉というか管理監督というか、また色々ややこしい話もあるそうなんだが……。
まぁ、いまの時点で込み入った事情を深く考えようとしても難しいしあまり意味がないだろう。
「ていうかお前の名前って?」
(僕らはギフターだよ)
「いや、お前自身の」
(そう、僕らはギフター。大いなる心のもと望む物を与え、ギフテッドの世界に従う者さ)
「……?」
(与える義務の従者。その存在の一部は君の権利といえる。なら、君が呼びやすいように呼べばいいってこと)
「と、言われてもな……」
(ちなみにずっと前のギフテッドにはクネヒトと呼ばれてたよ)
「いや、名前あるんじゃねぇか。うーん、じゃあ俺も同じように呼ぶ。俺は進次郎だ。よろしくなクネヒト」
(よろしくね)
そんな感じで、この謎の黒い毛玉との奇妙な共同生活が幕を開けたわけだ。
・・・
まず最初の問題として、服が無い。
いや、男の服はあるがサイズが合わない。もっと言えば、下着とかも無い。
しかし、いまやコンビニで服も含めた大体の生活必需品は揃えられるのだから良い時代になったもんだ。
「ありゃしゃっしたー」
そしてこのコンビニは良くも悪くも店員が適当だ。前からなんとなくそう思っていたが、ある意味いまの自分には最も適してるという意味での適当だったかもしれない。
そう、いまも超ぶっかぶかな男物の服を着てる明らかな不審者っぽい女の自分を、特に問題視することなく客として扱ってくれたのだから。ちょっとドキドキしたが、ほんと助かった……。
流石にちゃんとした服は無かったので当面はオーバーサイズで我慢するとして、あとで適当に通販しよう。これもネット時代の恩恵ってやつだな。
……。
「……」
で、だ。現在の状況。
自宅に戻り、ベッドに座り、女物の下着を手で広げて眺めている自分がいる。
意外とコンビニ下着もしっかりしてるんだなぁと。ちゃんとしたやつ知らないから比較できないが。
ぶっちゃけ、これが男の自分だったら文句なしに変態である。
……いや、というかよくよく考えたら別に男の下着でも良かったのではと思わなくもない。
でも、現在の自分の姿は、あまりにも妹に似すぎているものだから。
まるで妹が、男の自分の下着を穿かされているようにしか見えない姿、というのは正直なんていうか、言い表しようのない忌避感があった。
服はギリギリ許容できるんだが……。しかし女物の下着か……。
「……ふむ」
(何してんのさ)
「葛藤」
(なんの?)
「……というか、俺って男に戻れないのか?」
(無理だね。今の君はギフトで生きてるから)
とりあえず意味がわからなかったが、どうやら詳しく聞くと、男に戻れば死に直すらしい。
このあとついでに色々確認したが、こいついわくギフトという魔法の力は若い女性にしか使えないとのこと。
例えるなら女性は門で、男性は鍵なのだと。……言葉的に一瞬ちょっと卑猥な想像をしてしまったが。
基本的に、鍵である男には超常の力は使えない。しかし門である女の力を目覚めさせることはできる。
そして通常、その力は魂の生成能力として使われ、母として新たな生命を生む力となるという。
ギフトとは別世界の大いなる力。
門を通ってこの世界に顕現する必要があり、故にそれは一度も門を開いていない少女にのみ与えられるということ。
「……」
(つまり、もう君は元に戻れない)
「……」
(……)
「まぁ、仕方ないか」
(……君はほんと受け入れるのが早い。強いね)
「考えても仕方ないことを、そのまま考えてても仕方ないだろ」
気にしなければ気にならない。生きていくうえで必要な、ある種の処世術。
現状の限界を無駄に粘ってもまず解決策は生まれない。
他にすべきことがあるならさっさと保留送りした方が良い。
時間が解決してくれることもあるが、解決を期待してはいけない。
もちろん感情がそれを認めてくれないこともあるが、そのつもりでいた方が経験上得策だって話。
……それに、この身体になって調子はむしろ良い。メンタル的にも比較的健康に近い。と思う。
無責任に喜べる話でもないが。まずここを受け入れないと話が進まないのだから。
……ちなみに下着は思ったより快適だった。
穿いた姿はちゃんと見てないが。見るわけないだろう、変態じゃあるまいし。
・・・
「『ライトニング・レイ』」
「キーッ!!?」
あれから何日も経ってのこと。
クネヒトに導かれて今日も怪人退治をする。
光をまとい黄色く輝く髪が、風でシスターヴェールからはみ出てなびくのを手で抑える。
……そういえばなんで自分の魔法を使うときの服がシスター服なのだろうか。
ふと疑問に思ったが、まぁ別にそれで困るわけでもないし、深く考えることでもないだろう。
しかし今回も楽勝だったな。
魔法少女のやるべき仕事は怪人退治。これ以外には特に何もない。
魔法の使い道は別に制限もされていないから使える範囲で好きに使える。
結構やれることも多く、例えば光の魔法で姿を蜃気楼のようにごまかしたり、頑張れば透明にもなれる。
また、こないだ初めて知ったが自分は別の属性の魔法も使える。これはギフテッドとしては非常に珍しいとクネヒトが言っていた。
例えば風。単純に風を起こすことの他、上手く調整すれば空気の振動を操って声を変えることもできるし、周りを無音にすることもできる。
先日この魔法を使って元の自分の声を再現し、会社に電話して無断欠勤を詫びようとしたんだが……まぁ上手くいかなかった。
声の再現は良かったと思うが、今後改めて出勤できるかっていうと不可能なわけだし。結局ちょっとばかし揉めて、最後には退職代行の力を借りたわけなんだが。
光の魔法でも、元の姿を見せるみたいな幻覚的効果は難しいしな……できたとしても維持するのが厳しい。
……まぁそれはさておき、他にも火や水、土の属性も使える。
火は熱を操り、水は液体を、土は固体を操る。応用の範囲は非常に広い。大抵のことは可能といってもいい。
だが、これらは無制限に使えるというわけじゃない。使用するには注意しておく必要があるだろう。
(近くに他の反応もある。あっちだ)
「オーケー、案内してくれ」
このような怪人退治は毎日あるわけじゃない。それにクネヒトも、怪人の反応はある程度近くに行かなければわからないとのこと。
とはいえギフターはクネヒトのみじゃないらしく、あちこちでギフテッドたる魔法少女が活躍して怪人を倒しているらしい。
そうやって地道に潰していくしかないんだろうが、しかしもっと上手い方法はないものだろうか。
……例えば、組織的に動くようになっているのなら、その本拠地を壊滅させるとか。
(そこ。気を付けてね、別の)
「先手必勝『ライトニング・レイ』!」
雑魚怪人の甲高い断末魔と共に粉塵が舞う。さっきよりも硬そうな怪人だったが、強めに撃ったから大丈夫だろう。
魔法少女の活動には認識阻害があるらしいが、それも完璧じゃないらしいし目撃者が増えると面倒だ。あまり時間を掛けるべきではない。
(……話を聞こうね)
「いいだろ別に、倒せたんだから。使い過ぎてもないぞ?」
(えっと、そうじゃなくて)
「?」
「……けほっ、別の敵!? ちょっと何者よ!?」
土煙の奥から子供っぽい声。なんだか猛烈に嫌な予感がする。
一応、話には聞いていた。自分と妹の生活圏には一人、別の魔法少女がいると。
だからそのうち遭遇する可能性はあった。
とはいえ、その範囲は街二つ以上分の広さ。そう滅多にかち合うこともないだろうと思っていたが……。
無敵の万能感に無意識のまま酔っていたのかもしれない。ミスったな……。
「……あー、逃げていい?」
(うーん、今後のことも考えるととりあえず顔見せはしておいた方がいいんじゃないかなと思うけど)
「ちゃんと狙ったから当たってないはずだけど……でも流石にちょっとこれは良い初対面ではないよな……どうすっか……」
煙が晴れ、ピンクフリル服の少女の姿が見える。
そう、これがこのエリアで活躍する先輩魔法少女、イグナイトとの初遭遇だった。
・・・
……結局、この際はかなり雑に対応してしまった。冷たく映ったのかもしれない。
このあとも割とすぐ再会することになるのだが、おかげでこれ以降やたら絡まれるようになってしまう。
この場をうまく対処したら結果が変わっていたかはわからない、が。
きっとあまり良い選択ではなかったのだろう。
だからといっていま反省することに意味があるのかもわからないが。
・・・
→【束の間のインタールード-2】
(次回6/28)




