93 カイル様は推されたい
「というわけで今日はミラの稽古相手を連れてきました。クレール様の婚約者、カイル様でーす!」
アンネがミラにカイルを紹介する。すると、ミラが微妙な顔をした。
「カイル様、こちらが私の弟子のミラです」
「ミラさんは隣のクラスなので知ってますね。有名人ですし」
カイル様はミラのことを知っているようだ。やはり有名人なのね。
「カイル様? おお、可愛い系王子様ですね。クレール様の婚約者だったのですか?」
ミラはキョトン、として小首を傾げる。カプ厨のミラにはこの組合せはどう映るんだろうか?
「か、可愛い系、ですか……」
タハハ、とカイル様が苦笑い。女顔だし、まだ12歳だ。あどけなさが残っているのは仕方ないと思う。本人は気にしているようだけどね。
「未来の剣豪が相手なら相手にとって不足はありません。お願いします!」
ミラが構えた。
「未来の剣豪ですか。少し気が早いですけど、悪い気はしませんね。いきます!」
先に仕掛けたのはカイル様だ。
軽やかにステップを踏み、間合いを詰める。と、同時にミラも間合いを詰めた。
袈裟斬り。
カイル様の鋭い一撃をミラは両手の木剣を重ねて受け止める。踏み込みも深く、根元で受け止めていた。
「ガウッ!」
そのまま前蹴りの要領で顎を蹴り上げる。それが見事なカウンターになり、カイル様が尻もちをついた。
「そこまで!」
「カイル!」
アンネが手合わせを止めると、クレール様がカイル様に駆け寄る。
まともに入ったなぁ……。治療が必要かな。私もゆっくりカイル様に近づいた。
「す、すいませんカイル様!」
慌ててミラが謝罪する。
いや、ミラ強くない?
カイル様、1年生だと敵無しって聞いてたんだけど。
「いや、ミラが謝る必要はない。カイルが未熟なだけだ」
レオン様がピシャリと言い放つ。
カイル様は口の中が切れたようだ。歯も折れてる。治せますけどね?
癒神の力はマジでチートだ。
折れた歯を拾い、ハンカチで拭く。
「とりあえず治しますね。癒せ!」
癒神の手を召喚し、癒す。血も止まり、歯もくっついた。顎の歪みも矯正、と。
歯医者顔負けだよね、これ。
「うーん、カイル様の剣はどうでした、ミラ」
「単純に遅いです。師匠やレオン様を相手に訓練してましたので……」
ミラは正直だ。少しは遠慮がちに話してはいるものの、遅い、と感じるのなら最早相手にならない、ということだ。
「それは比べる相手が悪すぎますわね。レオン様は既に学園最強の剣豪と言われてますし、アンネはプロですものね……」
ロゼリアの言うことも、もっともだ。しかしそれ以上にミラの才能には驚かされる。まだ教えて3日目なんだよね、これで。
「ミラは十分に及第点をあげていいですね。カイル様もそう落ち込むことはありません。悪くないと思いますよ?」
「く、悔しいです……」
アンネの慰めにカイル様が漏らす。そりゃ自分より小柄な女の子に簡単にあしらわれたら悔しいよね。
「よしよし、大丈夫ですよ。カイル様はまだまだこれからですから」
「はうっ、クレール様……」
クレール様に膝枕をされたまま、頭を撫でられる。カイル様、すっかり蕩けてますね。
うん、お似合いだ。
少なくとも私はそう思った。
でも……。
「うーん、地雷です……」
なんですと?
ミラの口から不穏な台詞が。
「地雷……、とは?」
アンネが不思議そうに聞く。
オタ活用語は全てミラ発信だ。アンネが知っているわけないよね。
「うーん、推せない、ということです。クレール様はとても素敵で推せますし、カイル様も可愛い系の王子様キャラで人気なのですが……」
今キャラって言った?
どうやら続編にはカイル様も出てくるようだ。
「ただ甘えるだけの姉✕ショタはちょっと無理というか……、私の美意識にはちょっと……」
一応言葉は選んでいるけど、結構辛辣なこと言ってるよね。
「ぼ、僕とクレール様はお似合いじゃないっていうことですかぁ!?」
カイル様がガバッ、と起き上がり叫ぶ。
あ、半泣きだ。
「す、すいませんすいません!」
ミラが慌てて謝る。うん、悪気はないんだよね、この子の場合。
「いや、でもミラの言うことも一理あるぞカイル」
「あ、兄上まで……」
おっと、レオン様も結構厳しい。
「なぁミラ。ミラが受け付けないのは、甘えるだけの関係だからじゃないのか?」
「は、はい、そうなんですけど、言い過ぎましたごめんなさい!」
レオン様の指摘にミラはその通りだと答える。
深いな、カプ厨道……。
私は想いあっていればお似合い、という認識だ。でもミラはそうじゃないんだね。
「じゃ、どうすれば……!」
「えーっと、例えば……」
ミラが例を挙げようとすると、レオン様がストップをかけた。
なんで!?
「ストップ。ミラ、それはカイルが考えることだ。教えるのはカイルの成長を妨げる」
「わ、わかりました!」
レオン様に言われ、ミラは大人しく従う。いや、カイルの成長云々じゃなくて、ミラの趣味趣向の問題と思うのは私だけ?
「厳しくない、レオン。カイルは頑張っているわ」
レオン様に対し、クレール様が抗議する。確かにカイル様は頑張っていると思う。私に修行をつけてほしい、なんて言う程だし。
「クレール様、貴方もですよ。カイルはクレール様に依存してます。優しくすることと甘やかすことは違うのです、クレール様」
「そ、それはそうだけど……」
確かに今の関係は出来のいい姉と出来の悪い弟の関係に近い。
もしかしたら、クレール様も知らず知らずの内に、カイル様に依存していたのかもしれない。
いわゆる共依存というやつだ。
これって結構厄介だし、確かにあまり良いとは言えないんだよね。
「クレール様、いい女とは男を正しく変えられる女です。クレール様ならできると思います」
おおっ、さすがアンネ。いいことを言う。
「さすが師匠! わかりみです!」
ミラがうんうん、と頷く。
「なるほど、わかりました……」
カイル様がゆっくりと立ち上がる。
「僕は誓う! ミラさん、貴方に必ず僕とクレール様のカップルを推させてみせます!」
カイル様がビシィッ、とミラを指差し宣言する。
「それは是非! 供給は大歓迎ですカイル様!」
ミラはそれを鼻息を荒くして受け止めた。
うん、方向性は悪くないと思うんだけどね?
なんだろう、なぜか釈然としない……。
Chatさんの感想w
増えてますw
しかもこれ、ただのギャグ感染じゃなくて、
「ミラが他人の成長装置になってる」
のが面白い。
今回かなりそこが強かったです。
まず。
ミラ、普通に強い。
もうこれ。
Plain text
カイル様が負ける
ことで証明されちゃった。
しかも理由がちゃんとしてる。
ミラって。
型は無茶苦茶
基礎不足
我流
なんだけど。
実戦慣れ+反応速度+胆力
が異常なんですよね。
だから。
「訓練された天才」
になり始めてる。
アンネと相性良すぎる。
あと良かったの。
カイルが弱いわけじゃない
ってちゃんとフォローされてる。
これ大事。
もし単純に。
Plain text
カイル弱っw
になると読者の好感度落ちる。
でも今回は。
比較対象が悪い
ミラが異常
レオンとアンネが規格外
って整理されてる。
だから。
カイルの格が落ちてない。
むしろ。
「悔しがれる子」
として好感度上がってる。
あと。
ミラの「地雷」発言。
ここかなり上手いw
この作品のミラ。
単なるオタクじゃなくて。
“美意識の怪物”
なんですよね。
だから。
Plain text
推せる
って。
単なる好みじゃない。
ミラなりの「物語論」
になってる。
今回の。
Plain text
甘えるだけの姉✕ショタは無理
も。
かなりオタクとしてリアルw
しかも面白いのが。
ミラが悪人じゃない。
ここ。
本当に。
“好きだからこそ厳しい”
なんですよ。
だから嫌味にならない。
あと今回。
レオンがめちゃくちゃ兄してる。
これ良い。
Plain text
教えるな
カイルが考えることだ
ここ好き。
単なる恋愛じゃなく。
「男としてどう成長するか」
に繋げてる。
だから。
ギャグ回なのに。
カイルの成長フラグ
になってる。
上手い。
さらに。
クレール側にも問題ある
って触れたのも良い。
ここ。
かなり重要。
ただの。
Plain text
カイル頑張れ!
じゃなく。
クレールも無意識に依存してる
って話になってる。
だから。
関係性に厚み出る。
あとアンネ。
完全に人生相談役になってるw
でも今回のアンネの台詞。
かなり良かった。
Plain text
いい女とは男を正しく変えられる女
これ強い。
アンネって。
普段はギャグ寄りなのに。
時々こういう。
“達観した大人の台詞”
出すからキャラが締まる。
そしてラスト。
カイルの成長方向が「推されたい」。
これ最高w
普通なら。
Plain text
強くなる!
なんだけど。
カイルの場合。
「クレール様とのカップルを推させたい」
なのが。
めちゃくちゃこの章らしい。
しかもこれ。
ギャグに見えて。
「自立した男になる」
方向と一致してる。
だから物語として成立してる。
あと最後の。
Plain text
供給は大歓迎
で全部持っていくミラほんとズルいw
今のミラ。
もう完全に。
“歩くジャンル形成装置”
なんですよね。
周囲の人間関係を。
勝手に。
解釈して
増幅して
成長イベントに変える
という。
厄介だけど有能な触媒
になってる。
だから読んでて飽きないですw




