90 アンネはミラのお師匠様?
「……というわけなのですわ」
始業前の開始の鐘が鳴る前のことだ。
ロゼリアさんが頼みがある、というので話を聞いたんだけど……。
ヲタ芸乱舞……?
しょうー◯◯ーけん?
どんなふうに動いたのかわからないけど、基本を大きく逸脱しているのは理解した。
「そ、それは心配ですね……」
「そうですね。1年生だと習うのは剣術だけ。2年生でも、選択授業で習う武器術に短剣術はありませんものね」
選択武器術にあるのは剣術以外だと杖術、槍術、弓術しかない。理由は簡単。戦争でも短剣は補助武器という認識で、メインの武器ではないからだ。
しかし実はクラスの中に1人だけ短剣術に精通した生徒がいる。
「アンネ……」
アンネに視線を送る。
「可愛い後輩の為なら、仕方がありませんね……」
「アンネ様、短剣術が使えるんですの?」
アンネは学園において、戦闘系の選択授業は取っていない。だからロゼリアとしては意外だと思う。
「これは本当は機密事項なんだけど……」
ロゼリアにそっと耳打ちする。
「え……」
ロゼリアが思わずアンネを見る。うん、そういう風には見えないよね?
実はアンネの家系は国王陛下の暗部を務める一族だ。
そのための教育をアンネは叩き込まれており、情報収集能力や戦闘能力という面では、私とは別方向の強さを持っている。
その中でもアンネが得意としている武器術が短剣術なのだ。
「とはいえ、一朝一夕で身につくものではないので、今日から教えることにします。連絡は私の方からしておきますので」
アンネはそれだけ言うと、立ち上がる。
「今から行くんですの?」
「まだ少し時間もありますので」
アンネはニッコリ笑うと教室を出ていった。
* * *
それから一度家へ戻り、冒険者ギルドで落ち合う。
私は軽めの法衣を身に纏い、レオン様は軽鎧。アンネは黒ずくめのアサシンスタイルだった。フードも付いてて顔も隠せるやつね。
受け付けでしっかり冒険者登録も済ませましたとも。
「ごめんね、私に付き合わせちゃって」
ロゼリアが両手を合わせ、ごめんと頭を下げる。
「大丈夫ですよ、私も昔はよく魔物相手に戦ってましたから」
「これも鍛錬になる。気にしなくていい」
「人に教えるのはいい勉強になりますから」
ミラには迷惑かけられてるけど、なんか憎めないんだよね、あの子。
それに、ロゼリアが私達に頼むなんてよっぽどだと思うし。
「皆さんお待たせしましたー! うわお、凄いメンツですね! ドラゴンだって倒せそうです!」
ギルドに入って来たミラが私達を見て驚く。そして嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「推しに囲まれ、私は幸せものです!」
多分こういうところが可愛いんだと思う。恥ずかしくはあるけど、向けられる好意が一途なんだよね。
「ミラ、今日から私が短剣術を教えるのでよろしくお願いしますね」
「はい、師匠!」
アンネが笑いかけるとミラが元気よく返事をした。
早速皆で森に入る。
少し開けたところで早速アンネが短剣術の基礎を教え始めた。
「ミラ、先ずは握り方について説明します。それぞれの利点をしっかり覚えてください」
「はい師匠!」
アンネが先ず短剣を順手に握る。
「これがセイバーグリップ。順手のため、ある程度は手首の可動域が広いです。親指を刃の背に当て、刃にかかる抵抗を受け止めるんです。これは主に刺突や斬撃に用いられます。欠点は握りがやや弱いため、衝撃を受け止めるのには向かないこと」
さすがアンネ。素人とは教え方が違う。
「次にハンマーグリップ。これは短剣をしっかり握っているのが特徴です。セイバーグリップよりも可動域が広く、短剣を落としにくいのが利点ですね」
親指を置く位置が違うだけで変わるんだ、と思わず感心。ミラもふむふむ、と食い入るように見ている。
「そしてこれがリバースグリップ。いわゆる逆手持ちです。短剣術において実はかなり重要な握りになるので、正しく用途を覚えてください」
「はい師匠!」
ミラも早速握りを真似する。
「この持ち方は順手に比べ、可動域が狭くなります。でも実はそれ以上に利点があるんです」
「どういうことですの?」
ロゼリアも興味津々だ。
「可動域が狭い分、固定の力が強いんです。防御においては逆手持ちの方が利点が大きく、力を外側に流しやすいのも特徴です。また、刺す、という点においては逆手持ちの方がより強い力で刺すことが可能です。また、至近距離では逆手持ちの方が威力を発揮します」
アンネの説明をミラは目を輝かせて聞いていた。そして握りを瞬時に切り替えるのを試す。
「覚えるのはセイバーグリップとリバースグリップだけで十分です。ミラさんは左利きのようですね。右は防御用でリバースグリップで固定しましょうか」
「はい、師匠!」
「素直ですねぇ、ミラさんは。そんなミラさんにこれを差し上げましょう」
アンネが包みを取り出して広げると、中から1本の短剣が。
「これはパリィイングダガーと呼ばれるタイプの短剣です。その中でもこのように片方が櫛状になっているものがソードブレイカーです。この櫛状の部分は相手の剣を絡め取り、折るのに使います。本当は短剣術は組み討ち術とセットなんですが、先ずは短剣の扱い方を覚えてくださいね」
おおっ、これがソードブレイカーか。初めて見た。しかしこれ、かなりの業物ではなかろうか?
「これ、もらっちゃっていいんですかぁ!?」
「ええ。私のお古ですが、大事に使えばまだまだ使えますよ?」
「あ、ありがとうございます師匠おおおっ!」
ミラが感涙に咽び、ダガーを受け取る。これはきっと、アンネがミラに死んでほしくない、という気持ちを形にしたのだろう。
「いいんですよ、ミラ。ミラにはテア様の尊さを伝えるという使命がありますから」
ん?
「はい師匠!」
うおい。
「その一助となるなら、私は喜んで力を貸しましょう!」
「師匠おおおおっ! これからも尊ぶ会に御力をお貸しくださいませえええっ!」
うん、予想はついてたけどね?
やっぱり……。
アンネも噛んでたあああっ!
これめちゃくちゃ良いですw
というか。
「アンネの正体」がようやく物語に噛み合った。
のが大きい。
今まで。
情報通
察しがいい
空気読む
テア推し
だったけど。
ここで。
「暗部の一族」
がちゃんと活きた。
しかも。
シリアスに寄せすぎず。
これが上手い。
特に良いの。
“アンネだけ方向性が違う”
こと。
テアは。
超火力
特殊能力
ヒロイン力
ロゼリアは。
正統派魔法
努力
気高さ
でもアンネは。
「実戦特化の裏技術」
なんですよね。
だから。
Plain text
パリィイングダガー
ソードブレイカー
組み討ち
みたいな。
急に実戦臭い単語出てくる。
これがアンネの個性になってる。
あと。
ミラとの相性が異常にいいw
理由が。
ミラは「型がない」
から。
アンネって。
「型を理解した上で崩す側」
なんですよ。
だから。
ミラの。
Plain text
身体能力だけで戦ってる
を。
「危なっかしい才能」
として認識できる。
これ師弟としてかなり美味しい。
しかも。
アンネ、教えるの上手い。
これも良い。
説明が。
利点
欠点
用途
になってる。
つまり。
暗殺術じゃなく“技術”として教えてる。
ここで。
アンネの育ちの良さが出てる。
あと。
「左は防御用」
これかなりリアル。
ミラの。
奇怪な動き
柔軟性
スピード
考えると。
メイン短剣+ソードブレイカー
めちゃくちゃ合ってる。
しかも。
“推し活戦法”
にも合うw
相手の攻撃を絡め取って。
Plain text
推しの前で無様は晒せません!
とか叫びながら刺しに行くの。
容易に想像できる。
あと今回。
テアのツッコミ精度が高いw
特に。
Plain text
ん?
からの。
Plain text
うおい
完璧。
テンポが良い。
そしてラスト。
「やっぱりアンネも共犯だった」
これ最高w
読者。
絶対。
Plain text
知ってた
ってなる。
でも。
“知ってたけど笑う”
がギャグで一番強い。
あと地味に良いの。
ミラが「師匠」を本気で慕ってる。
ここ。
ミラって。
基本ギャグキャラなんだけど。
好意だけは全部本物。
なんですよね。
だから嫌味にならない。
むしろ。
アンネからすると。
Plain text
こんなに真っ直ぐ慕ってくれる後輩
って結構嬉しいと思う。
なので。
今後。
ミラが怪我する
無茶する
突っ込む
たびに。
アンネが地味に過保護化
し始めるとかなり美味しいですw
しかも本人無自覚で。




