79 醜悪なる者
「すぐに治します!」
大丈夫、まだ間に合う!
「私がやるわ。みんなは、あのゴミクズをお願い」
お姉様が前方を指差す。
そこにいたのはオルクス•ド•エンゾともう1人。
「おかぁ、様……?」
あれが……、エンゾ夫人!?
若い。しかもロゼリア様に似てかなりの美女だ。
ただ、作られたような笑顔がどこか不自然で気味が悪い。
「復活」
お姉様は構わず奇跡の治癒魔法でマリーヌ様を癒す。マリーヌ様はお姉様に任せておけば大丈夫だろう。
それよりも、だ。
「お母様は、2年前に亡くなったはずですわ……」
「そうだったかな?」
ロゼリア様……?
ロゼリア様の父親を見る目がそれとは違う。あれは、心底軽蔑している目だ。
「他でもない、お前が殺したんじゃない!」
「あー、男を産まんかったからな。全く、役に立たん女だった。だがこうしてほれ、生きていた頃ソックリだろう? 苦労したんだぞ、死体に悪魔の肉を貼り付けるのは。ま、作ったのはドライの奴だがな」
「こ、殺したって……?」
クレール様が顔を青くさせる。
「んー? 男を産まんからいびってやっただけだが? 全く、病気になるからとんだ金食い虫だったわい」
「……人の心がないのね」
クレール様もまた、軽蔑の目でオルクスを見つめる。
「それよりオルクス、貴様どういうつもりだ! 自分の娘を手にかけるとは、気でも狂ったか!」
怒ったミシェル殿下がオルクスを問いただす。
殿下相手にどう出る?
「私は至って正気ですよ、ミシェル殿下。それよりロゼリア、わしは悲しいぞ。娘なら家の役に立つのが貴族の令嬢というものだ。それなのに、わしに協力するどころか計画を潰すとはな。マリーヌ、お前もだ。なんと親不孝な娘だ!」
オルクスは自分勝手な理屈で憤慨する。本当、醜い……。
「貴族は等しく陛下の臣下ですわ。逆賊たる貴方はもう父親でもなんでもありませんわ! 逆賊オルクス! 貴方を討ちますわ!」
ロゼリア様がオルクスを指差し絶縁を叩きつける。
本当に、なんであんな父親からロゼリア様みたいな立派な令嬢が生まれたのか。
「ふん、貴様らにやられるわしではないわ! やれ、オーロール!」
オーロールが動く。
よく見ると足がなく、宙に浮いているようだ。
キュオオオオオ!
不気味な叫び声。
既に亡くなっているなら、遠慮する必要はなさそうだ。
「……見てて胸糞悪いったらないわね。浄滅!」
キュアアアアアッッ!
オーロールが光の柱に包まれる。悪魔の肉が剥がれ落ち、その身が光に呑まれていった。
「んなっ!?」
あまりにあっさりと滅び、オルクスが驚愕の声をあげる。
こいつのことだ、また逃げるに違いない!
紅い翅を使い、全速力で飛ぶ。
「ちっ!」
案の定オルクスが身を翻した。
「逃がすもんですか! 滑空!」
「ひっ!」
高速滑空魔法で一気に距離を詰め……。
めりっ……。
私のドロップキックが振り返ったオルクスの顔面にめり込んだ。
「ふが……!」
まともに喰らったオルクスが、グラつきながら倒れる。
……よわっ!
「覚悟しなさいオルクス!」
「ひっ……!」
私に気圧され、オルクスが後退る。こんなに弱いのに、よく出てきたもんだと感心するよ。
「ふぅ、やっと追いつきましたわ」
「いやー、それにしても。義理の姉妹なのにソックリね、貴方達」
クレール様が私とお姉様を見て、顎を手に当てる。
褒めて……、ないよね?
多分。
「で、どうするこいつ?」
「そうねぇ、私としては同じ墓に入れられたくないわ」
マリーヌ様何気にキッツ。でも理解できるけど。
「許す、ここで処断せよ」
「と、いうことだ。覚悟はいいなオルクス」
ミシェル殿下の許可を得てレオン様が剣を抜いた。
「ま、待ってくれ! こ、心を入れ替える! だから、だから命だけはお助けをー!」
オルクスがいきなり土下座する。
「見苦しいぞオルクス! 貴族としての矜持はないのか」
「ひっ……!」
ミシェル様が一喝する。
オルクスはみっともなく呻いた。
「安心しろ、一発で首を跳ねる。痛みはないはずだ」
レオン様が剣を掲げる。
「お、お許しをー!」
オルクスが手を前にして首を振る。
「なんて、言うと思ったか?」
オルクスが突然立ち上がる。そして筋肉が盛り上がり始めた。
「ふはははは! 人体を著しく強化する人魔融合実験は――」
オルクスの魔力が膨れ上がる。
「知らん!」
ザン!
「あ……?」
構わずレオン様が剣を振り下ろした。オルクスはあっさりと首を跳ねられ、地面に首が落ちる。
そして、あっさりと崩れ落ちた。
沈黙。
「……よっわ」
誰ともなく、そう呟いた。




