77 ロゼリアとマリーヌ
氷で閉ざされたその扉を開ける。
「マリーヌお姉様……」
氷で覆われた部屋。その奥のベッドの上。凍りついたミシェル殿下を愛おしそうに撫でるマリーヌがいた。
「ロゼリア……。貴方まで私の邪魔をするの?」
なんて冷たい目……。
「お姉様! 目を覚ましてくださいませ。そんなことをしても、ミシェル殿下は……!」
「じゃあどうすればいいの? どうやったらミシェルは私に振り向いてくれたの? ロゼリア、貴方なら私の苦しみがわかるはずよ!」
マリーヌが叫ぶ。
そうか、これがマリーヌの本音。振り向いてもらえない想いを、奴等に付け込まれて……!
「ええ、確かに好きな人に振り向いてもらえないのは苦しいですわ。その苦しみに負けて、私は過ちを犯しましたわ……」
ロゼリア様は視線を落とす。自分にはマリーヌを悪く言う資格はないと思っているのだろう。
でも、私はそうは思わない。
「そうでしょう!? だから私は貴方のために力を貸したというのに。そんな私を裏切るのね、ロゼリア」
マリーヌはまるで演じるように訴える。どこか自己陶酔的なところがあるのかもしれない。
「言ったはずですわ。過ちを犯したと……。それでは、何も手に入らない! お願いお姉様、正気に戻ってくださいまし!」
「過ち? 私はこうしてミシェルを手に入れたわ。このままずっと、私はミシェルと愛を語らうの」
ロゼリア様の懸命の訴え。
それをマリーヌは全く相手にしていない様子だ。
届くのだろうか、ロゼリア様の気持ちは。
「お姉様、それではミシェル殿下は笑ってくれませんわ……。お姉様聞いて! 確かにレオン様は私には振り向いてくれませんでしたわ。それはクレール様も同じ。それでも、私もクレール様も前を向いて生きていこうと決心しましたの! 2人なら乗り越えられるからって。だからお姉様も一緒に乗り越えましょう、3人なら、きっと乗り越えられますわ……!」
ロゼリア様が思いの丈をマリーヌにぶつける。私やお姉様に口を挟む資格はない。
だから、私は2人のやり取りを最後まで見届けると決めたのだ。
「ロゼリア……、私はまだ、終わってなどいませんことよ! ミシェルは誰にも渡さない……、私だけのものよ!」
ロゼリアが無数の青い蝶を生み出す。
「ロゼリアさん。説得は失敗よ、先ずはミシェル殿下を救うわ」
クレール様がロゼリア様の肩に手を置く。
「わかって……、いますわ!」
ロゼリア様が肩を震わせ答えた。ミシェル殿下を救えば、ミシェル殿下の言葉なら届くかもしれない。
もう、それに賭けるしかないの?
「さぁ、凍りつきなさい。氷に抱かれ眠るがいい、氷結の子守唄!」
「もうそれは通じないわ! 猛き風の流れよ、全てを押し返す壁となりたまえ! 風壁!」
強風が吹き荒れ、青い蝶を押し返す。しかしマリーヌは余裕の笑みさえ浮かべていた。
「お馬鹿さん、魔力は私の方が圧倒的に上回っているのよ? 猛き風の流れよ、全てを押し返す壁となりたまえ、風壁」
マリーヌが強風の魔法を起こす。その風は暴風となり、室内に吹き荒れた。そしてクレール様の風を押し返す。
「堅牢なる盾!」
お姉様が魔法の盾を張る。目一杯大きく張られた盾は、青い蝶に触れて凍りついた。
それと同時に風が止む。
部屋の中にできた氷の壁が仕切りとなり、部屋を分断したからだ。
「こ、これでは……」
「ミシェル様を救えませんわね」
出来上がった氷の壁は、結果的にマリーヌとミシェル殿下を閉じ込めてしまった。
「これ、溶かさないと無理ね」
「仕方がないわ。そうしないと私達が氷の彫像になるとこでしたし」
うん、こればっかりは仕方がない。ここは私の炎で溶かすしかない。
「氷の壁を溶かします。離れてください」
「頼むわね」
皆に室外で待機してもらう。
私は紅い蝶を呼び寄せた。氷の厚さがわからないけど、かなりの熱量が必要なはずだ。
「終焉と為せ、終わる世界!」
本気じゃないのを含めれば3回目。後1回が私の限界だろう。急だったため、魔力回復のポーションも用意していない。
紅い蝶が地獄の業火となり、氷の壁を溶かす。次いでに辺りの氷も粗方溶けた。
その先ではマリーヌが変わらぬ笑みを湛えている。
「クレール、貴方ミシェル殿下を殺すつもり? そんな風でミシェル殿下が飛んでいったら、壊れちゃうじゃない」
「うっ……!」
そうだ、お互いの強風魔法で部屋の中は風が吹き荒れたはず。下手をすれば凍りついたミシェル様が飛ばされ、壊れたかもしれない。
「全く、私の大事なミシェルが壊れたらどうするのかしら。攻撃魔法なんか使ったら、巻き込んじゃうじゃない」
マリーヌの指摘に皆が固まる。
「これでは……」
「迂闊に手が出せないわね」
クレール様もお姉様も良い考えが浮かばないようだ。
「勝てないと理解したかしら? 私に歯向かうなんて、愚かな妹。それでも貴方は私の可愛い妹よ、ロゼリア」
「お姉様……、じゃあ!」
なんとか説得を、ロゼリア様はそう思ったに違いない。
しかし、マリーヌの口から出た言葉は、そんなロゼリア様をさらに苦しめた。
「だから、お友達諸共氷漬けにしてあげるわ。私の氷の中で、貴方も愛してあげるわロゼリア!」
再び青い蝶が舞う。
いったいどうすれば……!
「こうなったら一か八かよ! 全員突撃しなさい! とにかくミシェル様を奪還して逃げるわよ!」
「「「ええっ!?」」」
クレール様らしからぬ一言。
皆がクレール様を見た。
クレール様が頷く。
きっと何かあるんだ、方法が。
皆が頷くと、クレール様を先頭に私達は走った。




