76 葬送《フューネラル》
「おやおや、来客ですかな?」
私達が光景に唖然としていると、2階から声が聞こえた。
そこにいたのは見覚えのある顔。そうだ、昔ウォルノーツの領主邸で見たんだ。
「お父様! これはどういうことですの。みんなに何をしたんですの!?」
確かオルクス•ド•エンゾ。
ロゼリア様のお父上だ。
「ドライの奴はどうした? せっかく使用人を集めて実験をしたというにまったく」
「実験? 実験ってなんですの?」
……私は知っている。
これが、なんなのか。
「人魔……、融合実験……」
忌々しい。
長らく忘れていた。ここがあのゲームの中の世界だって。
「ほう、よく知ってますな。その通り、ここにいるのは人と悪魔の融合体。その失敗作ですよ」
手軽に増やせる兵力を求め、ゾーア教団が行った実験だ。人を人とも思わない、作中でも一二を争う胸糞展開。その中心にいたのがドライだったはず。
「元に……、元に戻しなさいこの外道!」
あのクレール様がキレている。無理もない、あんなモノを見せられたら誰だって……。
「無理ですな。のりでくっつけたのとは違うのです。あなた、エールを元の水と麦に戻せますか? つまりはそういうことです」
オルクスは下卑た嗤いを浮かべ、目を細める。その実験に家の使用人を使うなんて……。
「オルクス、降りて来い! 叩き斬ってやる!」
「お断りですな。失敗作の耐用実験にと騎士団が来るのを待っていましたが、貴方がたでもいいでしょう」
レオン様が剣を向ける。
オルクスはどこ吹く風で髭を弄くり、シシシ、と笑っていた。
「やれ」
その命令で使用人達が動く。
「お……嬢……様……!」
「お願……い……、ころ、し……て」
使用人達は助けを求めるように手を伸ばす。しかし身体から生えた悪魔の腕はその手に炎を生み出していた。
「今……、楽にして差し上げますわ……! 闇の焔」
ロゼリア様が俯いたまま、魔法を発動させる。闇の炎が立ち昇るとたちまちメイドを焼き尽くした。
「どうして……、どうしてそんな酷いことができますの!?」
ロゼリア様は泣いていた。
魔法を放った手が震えている。
それでも、ロゼリア様の言葉はオルクスには響かないのね……。
「酷い? 何を言っているロゼリア。このわしの役に立てたのだ、光栄に思ってるはずだ。それが忠義というものだろう?」
さも当然、とオルクスが宣う。
こいつはダメだ。
ロゼリア様、ごめんなさい。
この人は……、救えない!
「オルクス! 私は貴方を許しません! 終焉と為せ、終わる世界!」
紅い蝶が業火となりオルクス目掛けて飛び立つ。
「ギャギャギャギャ!」
その業火に元メイド数人が自ら飛び込み、炎に巻かれて床に落ちた。凍りついたカーペットの氷が溶け、火は程なくして鎮火する。
「素晴らしい忠義です!」
オルクスが拍手をする。自分の為に犠牲になった元メイドを褒め、満面の笑みを浮かべていた。
無理矢理言うことを聞かせてるだけのくせに……!
「見ていられないわ。テア、せめて神の御元に送って差し上げましょう」
「そうですね、お姉様……」
白い蝶の翅を纏う。
後は、お姉様の浄滅を私が拡散させればいい。
「あ……、が……!」
ボロリ……。
元使用人達の身体が崩れゆく。
適合しなかったために身体の組成を維持できなくなったんだ……。
「穢されし魂に安寧を、報われぬ嘆きに天使の涙を、葬送……」
これは……、鎮魂の神聖魔法。
なんて温かい光……。
その光を翅に受ける。
伝わる。お姉様の嘆きが。
そうか、この翅は、人の想いすらも蝶にして飛ばせるんだ……。
元使用人達は苦しそうにその手を伸ばす。救いを求め、“死”という安寧を望んでるんだ……。
「もう、おやすみ……!」
魂の安寧を願い、蝶達が羽ばたく。蝶に包まれた元使用人達が光に包まれた。
その表情に苦痛はなく、安らいだ、小さな笑みさえ湛えている。
『ありが……とう……』
彼らの声が、冷えた空気の中に溶けていった。
「ふーむ、途中で自壊したようですな。所詮は失敗作か。有意義な実験じゃった、ではな」
「待て、オルクス!」
逃げ足はっや!
レオン様が止める間もなくオルクスはすぐに姿を消した。
「大丈夫、ロゼリア?」
「ええ、平気、ですわ……。ありがとうございますディアーヌ様、テア様。これであの子達も、天国へ行くことができましたわ……」
……全然平気じゃないくせに。
でも、ロゼリア様は強い人だ。すぐに涙を拭き、顔を上げる。
「まだ、私にはやらないといけないことがありますの。まだ、終わってませんわ」
ロゼリア様は一室の扉を見つめ、顔を引き締めた。
本当に、強い人だと思う。




