72 誰も見捨てない
「すまないが、もうエンゾ伯爵家は取り潰しになるだろう」
ミシェル殿下誘拐事件。
そう名付けられたこの事件のため高等部の授業は中止、初等部の私とロゼリア様も学園長室に呼び出されていた。
「覚悟は……、できてますわ」
ロゼリア様は俯き、力なく答える。王族の、しかも第一王子を誘拐したのである。家のお取り潰しはこの場合、一家全員がその責を負う。
「待ってください! ロゼリアさんに罪はありません。彼女は姉を止めようとしたのです!」
クレール様がロゼリア様の助命を嘆願する。
「わかっている。陛下がどのように裁くかによるが、助命の嘆願は私も行おう」
「私もお父様に働きかけてみます」
学園長が働きかけを約束すると、クレール様も働きかけを約束した。
「すまない、今の俺では……」
「ダメです」
レオン様?
気持ちは理解しますけど、それは禁句です。
ほら、クレール様が罰の悪そうな顔をなさってるじゃないですか。
「す、すまない、いや、申し訳ありません」
「ルーセル辺境伯にはお父様にお願いしてみます。心配いらないわ。それよりロゼリアさん、あなたはどうしたい?」
お姉様がロゼリア様に問う。
このまま騎士団に任せれば、陛下の裁きを待つまでもなく排除されるだろう。
捕縛して法の下に、など不可能に違いない。
「私は……、お姉様を説得したいですわ。お姉様は確かに罪を犯しましたわ。でも、それでもマリーヌお姉様は私にとって優しいお姉様だった! 私はゾーア教団が憎い! 私からお姉様を奪い、家族を壊したあいつらを許すなんてできませんわ!」
ロゼリア様は感情を昂ぶらせ、思いの丈を吐露する。その涙ながらの訴えに私達は何も言えなかった。
「その気持ちはわかる。だが学園の長としてそれを許すことはできん。くれぐれも、早まった真似はしないように」
しかしそんなロゼリア様に、いや私達全員に学園長が釘を差す。
でもわかってる。
きっと、みんな考えてることは同じだ。
しかし、それを見透かしたかのように騎士団がノックも無しに入って来た。
「ロゼリア•ド•エンゾ! ミシェル殿下誘拐に関与した疑いで貴様を拘束する!」
騎士団が書状を持ってゾロゾロと入って来る。ディアーヌお姉様が学園長を睨んだ。
「諸君、くれぐれも、《《早まった真似をしてくれるなよ》》?」
学園長は全く動じず、むしろどこかニヤけていた。
これって……、そういうことか!
「心配、要りませんわ。私は逃げも隠れもいたしません」
ロゼリア様が拳を握りしめながら一步前へ出た。そんなロゼリア様の腕をクレール様が掴む。
「ええ、そうねロゼリアさん。あなたはそういう人だわ。そう、これは《《逃げではありませんものね》》」
その一言に皆が目で分かり合う。
「ええ、これは……」
「戦略的撤退よ! 穴掘り!」
クレール様の魔法でバリッ、と瞬時に床が抜ける。私は瞬時に白い蝶の翅をまとった。
下の階に降りると、誰もいない教室だった。
ディアーヌお姉様が窓を開ける。
「さぁ、行くわよみんな!」
「あの、皆さん本当によろしいんですの……?」
ロゼリア様が遠慮がちに聞く。
「なにがです?」
「その、これは私の問題で……」
「私、ミシェル様の婚約者候補なのですけど?」
申し訳なさそうなロゼリア様にディアーヌ様がハッキリ答える。
「友達、ですよね?」
私はニコッ、と答えた。
「俺はテア様の守護騎士ですから」
レオン様がさも当然、と胸を張る。
「ロゼリアさんって、どこか放っておけないのよね」
クレール様が仕方ないわね、と両腰に手の甲を当てる。絶対ロゼリア様のこと気に入ってるよね。
「皆様……、ありがとう、ございます……」
ロゼリア様が深々と頭を下げた。
「湿っぽいのは無しよ。やってちょうだいテア!」
お姉様、私の考えてることお見通しだね。
「風の結界よ、我を運び給え! 飛翔!」
飛翔の魔法を白い蝶に与え、皆を飛翔させる準備。そして窓を越えて一斉に飛び立った。
目指すは当然エンゾ家!
どうなるかなんて、わからないけど。
全部救う。
みんながいるから、今度こそ!




