70 氷結の女王
「聖堂騎士団だ! 異端者マリーヌ•ド•エンゾを出せ」
聖堂騎士団がエンゾ伯爵の邸宅に突入する。
「おやおや、これは皆さんお揃いで。いったいどうされたのです?」
2階のバルコニーからオルクス•ド•エンゾが姿を見せた。でっぷりした身体を揺らし、禿げ始めた頭頂部がぬらぬらと光っている。
「オルクス•ド•エンゾ。長女マリーヌはどこだ!」
「マリーヌですか? おい、どうやらお前を探しているようだぞ」
聖堂騎士団の要求にオルクスは余裕の笑みで従う。そしてマリーヌがその姿を見せた。
「あら、こんなに大勢で押しかけるなんて。なんの御用かしら?」
「マリーヌ•ド•エンゾ! 貴様には悪魔と通じた疑いがかかっている。大人しく付いて来てもらおう」
聖堂騎士団のリーダーが声高に叫ぶ。
「だ、そうよお父様」
「ロゼリアはやはり裏切ったか。仲間にしなくて正解だったな。マリーヌ、こ奴らはお前が始末をつけろ」
オルクスは特に聖堂騎士団を気にする風でもない。彼らを一瞥すると、興味を失くしたのかサッサと奥へ消えていった。
「出来の悪い妹を持つと苦労するわね。ああ、王子様と結ばれないなんて運命とは残酷だわ! それでも私は愛に殉じましょう」
マリーヌは芝居のように悲劇のヒロインを演じると、彼らを見下ろしクスリと嗤った。
「な、なんだあれは!?」
「紅い……翅……?」
マリーヌの背に紅い翅が生まれる。
「うふふ、それでは皆さん、さようなら。貴方たちに死という名の永遠の子守唄を……」
その紅い翅から無数の青い蝶が羽ばたく。それらは屋敷の中を飛び交いながら聖堂騎士団を襲った。
「氷に抱かれ眠るがいい、氷結の子守唄!」
青い蝶が触れた所から、騎士団員の身体を凍らせていく。
「な、なんだこれは!?」
「か、身体が……!」
凶悪なまでの冷気に包まれ、聖堂騎士団員達が凍りついていった。
懸命に逃げようとするも、体温を奪われ身体が動かなくなる。そうして1人、また1人と氷の彫像と化していった。
そして5分と経たず、屋敷の1階には無数の氷の彫像が残される。
「うっふふふふ。ミシェル様も私の愛で凍らせて差し上げましょう。そうすれば、もう、誰にも奪えない。ミシェル様は永遠に私のもの……」
出来上がった氷の彫像を見下ろし、マリーヌは狂気に満ちた目で口元を歪ませた。




