68 覚悟の剣
「ぬおおおおおっ!」
レオンが気を吐き、騎士を蹴り飛ばす。飛ばした距離はほんの2メートル。しかしそれで十分だった。
「ディアーヌ、早くテアを!」
振り向かず、騎士と剣を交える。
「わ、わかったわ!」
ディアーヌが急いでテアに駆け寄り、最上級の治癒魔法を行使する。
「最上位治癒!」
荘厳な光がテアを包む。
しかし、傷は塞がらない。血が止まることなく流れ落ちていった。
「そんな、テア……!」
それでもディアーヌは諦めない。
大切な、家族なのだから。
キッ、と目力を強めると、大きく息を吸った。
「絶対助ける。私はテアのお姉ちゃんなんだから! 復活!」
それは上級治癒師ですら使えぬ神の奇跡。神聖魔法の最高位にして三つの奇跡の一つ。
世界は光に包まれた。
それは神の腕に抱かれるような安息をテアに与える。
今、一人の少女が神の奇跡を実現した。
「レオン、テアは無事よ!」
ディアーヌがレオンの後ろから声をかける。
「頑張れ、男の子……」
ディアーヌがふっ、と小さく笑う。不思議と、不安はなかった。
『ぬぅ……、なんだ、この気迫は?』
騎士はレオンの攻撃全てを捌いていた。余裕もある。
それなのに――
退いているのは騎士の方だった。
レオンは父の言葉を思い出す。
剣聖であった、父の言葉を――
――いいか、レオン。我が流派は剛の剣。ありとあらゆる障害をその剣で叩き伏せてきた。
レオン、何でもない一太刀で相手を震え上がらせろ!
その先にこそ流派の奥義がある。必要なのは弛まぬ基礎と、死をも乗り越える勇気だ!
「今ならわかるよ、父上……」
レオンが剣を上段に構える。
『……受けて立つ!』
鏡に映すように、騎士が構えた。
「覇っ!!」
レオンが覇気を込める。
スピード、タイミング、インパクト。
全身の関節を連動させ、剣はさらなる加速を乗せ、振り下ろされた。
いち早く振り下ろされた剣は騎士の鎧を裂く。しかし決定打にはならなかった。騎士が二三歩下がる。
『……我が名はガイズ。剣士よ、貴様の名を聞こう』
ガイズは剣を中段に構える。
「俺はレオン。《《ただのレオンだ》》!」
レオンは己の覚悟を剣に込め、再び上段に構えた。
『いざ、尋常に……』
ガイズがにじり寄る。
「勝負!」
――今こそ、俺は!
レオンが全身全霊を掛け、剣を振り下ろした。
2人の剣が交差する。
「ぐふっ……」
レオンが膝をつき、血を吐いた。その腹が赤く染まりゆく。
『レオン、その名……、おぼ……えた……ぞ……!』
ズルッ、とガイズの首が落ちる。そして糸が切れたかのようにその身が崩れ落ちていった。
「凄い……、凄いじゃないレオン!」
決着を見届け、ディアーヌが手放しで褒める。その腕にはテアがいた。
傷は癒えてもダメージは残る。
それゆえ、テアは未だ立てずにディアーヌが支えていたのだ。
「テア、無事でなによりだ」
「レオン様、カッコ、良かったです」
テアは薄目を開けながら微笑んだ。
「レオン様? 私も危うく死にかけたんですけど!?」
ロゼリアが2人を見比べ抗議する。
「本当にかっこよかったわ! 惚れ直してしまいそう」
一方のクレールはマイペースに自分の世界に入り込んでいた。
「しかしどうする? テアのこの様子では話を続けるのは辛いだろう」
「いえ、続けてください。少し休めば大丈夫ですから……」
「そうですわね。恐らく、私も後には退けなくなってますから……」
6人はその後、話を続ける。
結果、ロゼリアはしばらくクレールの家に身を寄せることになるのだった。
* * *
「本気なのか……、レオン?」
レオンは家に戻ると再び父親に直談判に来ていた。その覚悟を伝えると、エリオットは複雑な表情を見せる。
「僕は、本気だ」
「そうか……」
エリオットがふっ、と笑う。そしてレオンの目を見た。
「……男の顔になったな、レオン。お前の選んだ道だ、何も言うまい」
エリオットは暖かく笑う。
そしてレオンの意見を受け入れた。
「いいだろう、レオン•ド•ルーセル、貴様をただいまをもって廃嫡とする!」
「謹んで」
エリオットの宣告にレオンは恭しく頭を下げる。エリオットは立ち上がり、背を向けた。
「だが出ていくのは明日でいい。今日くらいはゆっくりとしなさい。それと……」
エリオットが振り向く。
「最後くらい、酒に付き合え」
「まだ学生なんだけどな……」
レオンがふっ、と笑う。
「市井の者なら飲んでいてもおかしくない歳、だろう?」
「確かにね」
レオンはこの日、生まれて初めて酒を口にした。




