63 白と紅の輪舞曲《ロンド》
「お姉様、私に浄滅を!」
「え? わ、わかったわ」
ディアーヌお姉様は私の要求に戸惑いながらも応じる。この魔法、人体には無害だからね。実に乱戦向きだと思う。
「させん!」
禍蛇が再び噛みつきにかかる。そのくらいは想定内だ。
「堅牢なる盾!」
自ら唱えた魔法を白い蝶に乗せる。すると白い蝶一匹一匹が同時に堅牢なる盾を発動させ、幾重にも重なった。
「なんだと!?」
禍蛇の突進は2枚の魔法障壁を打ち砕き停止する。その隙にお姉様の魔法が完成した。
「浄滅!」
私の白い翅がその魔法を吸収する。そしてその魔法が白い蝶となり拡散した。
「白い蝶よ、悪魔達を殲滅せよ!」
白い蝶達は意思があるかのように悪魔達を追尾する。捕まった悪魔は浄滅の光に包まれ、崩れ落ちていった。
「凄い……!」
「さすがテア様です!」
これで異形の悪魔達は全滅だ。ようやく禍蛇に集中できる。
「小癪な!」
禍蛇は鎌首を高く掲げ、角度を付けて襲い来る。
「レオン様!」
とっさにレオン様にアイコンタクトを送る。
「失礼する!」
「きゃあ!」
レオン様がお姉様を咄嗟に抱え、飛び退いた。
禍蛇の軌道には私1人。その軌道に白い蝶達を残し、私もすんでのところで飛び退いた。
白い蝶を呑み込む禍蛇。これが私の狙いだ。
「滅びろ、禍蛇!」
白い蝶達が一斉に浄滅の光となる。その光は禍蛇の体内から漏れ出し、体内を灼き始めた。
これが――
私とお姉様の力だ!
「ぐわああああっ!?」
禍蛇が悶え苦しみ、首をもたげる。レオン様が剣を構え、走った。
――今一度並びたい。
あなたの隣に!
「白き蝶よ、剣に宿れ!」
私の命令でレオン様の剣に白い蝶たちが集まる。それらは剣に触れると消え、剣に光が宿った。
「おおおおおおっ!!」
レオン様が全身全霊をかけて剣を振り下ろす。
裂ける腹。
噴き出す緑の血。
「ぎゃあああっ!?」
さらに巨大な光の柱が立ち、レオン様ごと禍蛇を包み込む。
やがて光が消えると、禍蛇が痙攣したまま鎌首を上げていた。焼け焦げた肉が裂け、石床は緑の血に染まっている。
「ば……、馬鹿な……!」
――これにも耐えるの!?
そのタフネスに驚愕する。
それでも口を大きく開け、息も絶え絶えであった。
――でも、もう一押し!
確実に倒す!
私は高く舞い上がると、再び紅い蝶となる。
「破滅へのプレリュード……!」
あの開いたままの口に終わる世界を叩き込む!
無数の紅い蝶を喚び出す。
しかし魔力を使い過ぎたのか、一瞬頭がクラッとした。
――ここで踏ん張らなきゃ!
気合で持ち堪え、魔法を発動させる。
「終焉と為せ、終わる世界!」
無数の紅い蝶が禍蛇の口の中へと飛び込んでいく。
そして――
禍蛇が炎に包まれた。
「どうやら……、私の負け、のよう、だ……な……。見事……なり……!」
炎の中で、禍蛇が笑った気がした。
断末魔の悲鳴を残し、禍蛇が崩れ落ちる。やがてその身を炭化させ、禍蛇は最期を迎えた。
「終わっ……た……」
ふーっ、と安堵の息を吐く。
「なにあれ……!」
「妖……精?」
意識のある生徒達が私を指差す。その反応は様々だ。
ふらり。
魔力を使い過ぎた反動か。
もう、飛ぶ力さえない。
そのまま真っ逆さまに落ちる。
ぽふっ。
そんな私を、レオン様が受け止めてくれた。
「全く、無茶をする……」
仕方ないな、こいつ、といった風に私を叱る。でも目がとても優しく、笑みさえこぼれていた。
「えへへ、ごめんなさい」
にぱっ、と小さく笑う。
そんな私を地面に下ろして立たせる。
「立てるか?」
「はい、なんとか」
レオン様が手を離す。
「あ、あれれ……?」
私はふらついたまま、レオン様の胸に倒れ込んでしまった。
レオン様がそんな私を抱きとめる。
「あまり……、心配かけるな」
優しく声をかけると、そっと頭を撫でてくれた。
悔しいけど、レオン様の腕の中が一番落ち着く。
――本当に、ずるい人……。




